少しばかり時は遡り、別れた2人はどうしているかというと。
「ここまで来れば大丈夫かな」
「やっと追い付いた。おい、どういうつもりだよ」
絵名と文の姿が見えないところまで移動して、言葉はようやく足を止めた。
そこでようやく追い付いた彰人が肩を引く。体の細い彼女はそのまま向き直された。
「どういうつもり、って2人きりにしたらもっと仲良くなれるかなって思ったから」
「だからってあんな露骨に振るか普通」
「建前とか苦手だからね、私」
そう言われて彼女が元から
それによって今の信頼と地位を得ているのは嫌でも知っていた。
「お前、真面目すぎるんだよ。
今はそれで大丈夫になってるかもしれねーけど、そんなんじゃ絶対どこかで破綻するぞ」
「その時はその時でいいよ。すっぱり諦めるし」
「いや、ちょっとくらい足掻けよ……」
聞く耳持たずといった言葉にため息を吐きながらも、2人は並んで歩き出す。
もちろん行く宛などない。
行き交う人々の視線が少しばかり向けられているが、
お互いにそんな気などないので華麗にスルーしている。
結局2人が向かったのは本屋であった。
ショッピングモールに併設されているためか、オープンな作りで規模もそんなに大きくない。
会話をしてはいけない、という空気感はどこにもなかった。
「委員長もホントに本が好きだな」
「空き時間を潰すには読書が一番だからね。青柳君にもお世話になってるし」
冬弥は神山高校で図書委員を勤めている関係上、常連と化している言葉はよく顔を合わせている。
その辺りは何気ない会話の際に伝え聞いていた。
「冬弥はミステリー小説をよく読んでるけどよ、委員長は何読んでるんだ?」
「ホラー以外ならなんでも。エッセイも読むし漫画だって読むよ」
「へえ、意外だな。ならおすすめの漫画教えてくれよ」
「うん、たぶんこっちだと……」
漫画コーナーへ歩を進める言葉が、本棚にあった1冊の本を見つけ思わず立ち止まる。
視界の横に居た少女が急にいなくなり、違和感を覚えた彰人も遅れて隣に立った。
表紙を飾っているのは雪国の景色。本というより写真集であった。
それを手に取り、おもむろに立ち読みならぬ立ち見を始める言葉。
本の中にも様々な雪国の景色が載っており、普段とは違った顔を見せている。
一通り見終えて本棚へと戻すと思いきや、手に持ったまま歩きだす。
どうやら相当気に入ったようだ。
ほどなくして漫画コーナーにたどり着き、言葉が差し出した漫画はファンタジー系だった。
といっても戦闘などは少なく、旅を目的としたタイプのもの。
「もしかして、そういうのが好きなのか?」
「うん。自然とか、幻想とか、そういうのが好きなの。
静かで、ゆったりとしてて、でも壮大な感じがして」
「ふーん、そうなのか」
さっと中身を流し見すると、風景画に近い描写がメインで描かれている。
文学なのでインドアかと思われたが、案外アクティブなのかもしれない。
「ま、せっかく委員長様が勧めてくれるんなら、読んでみるか」
こういうのも悪くない、と共に会計を済ませて店を後にする。
彰人はともかく言葉にとって有意義な買い物であった。
「東雲君の趣味って音楽以外何かある?」
「ん、オレは……まあ、ファッションか。服とか選ぶの、結構面白いぞ」
「服……」
それを聞いて気まずそうな顔をする言葉。
自分が選ぶ服と言えばオタク向けサイトの通販などで仕入れられそうなものばかり。
痛くはないが、文には買わないでとせがまれたり、叔母からはセンスが壊滅的と言われる始末。
今着ている服も過去に文が選んだ品だった。
「なんだよそんな顔して、そんなに変か?」
「あっ、ううん。そうじゃなくてね……」
軽く事情を彰人に説明する。
自分ではそんなにセンスは悪くないと思うこと。
しかし妹や叔母からは否定されていしまうということ。
彰人は悩んだ末、通りがかった際に目星をつけていた店舗に入り、試すように言った。
「ならちょっと選んでみろよ」
テーマも色の指定も無し。使えるのはこの店全ての服。完全に自分のセンスが試されていた。
しばらく店の中をうろうろした後、何かに目をつけて店員に声をかけた。
「あの、これを全部ください」
彼女の前にあるのは1体のマネキン。そう、マネキン買いである。
彰人の期待を一蹴する逃げの一手だった。
「すみません、なんでもないです。おい、それはないだろ」
「え、ダメ?」
「選んでみろって言ってんだろ……ちゃんと自分で選べよ」
近づいてきた店員に断りをいれつつ追い払う。
完全にネタの尽きた言葉は観念して自分の好きな色を優先して選んでいた。
「(おいおいおい、それにそれを合わせんのか……正気かよ)」
「じゃあ、これで一旦試着室に……」
「待てって……はぁ、しょうがねぇな」
試着室に行こうとしたところを呼び止める。
方向性も定まってない上に色彩のバランスも悪いコーディネート。
これでは妹が否定するのもわかった。
そして何よりこれから先同じ舞台に立つかもしれない彼女が、
壊滅的な衣装で出てこられては場が白けるのは目で見るよりも明らかである。
「オレが選んでやるから、どんなのがいいか言ってくれ」
「えっ、いいの?」
「いいもなにも、それが本気でいいって思ってんのか?」
「私、あんまり服に頓着しないから……
それこそ動きやすかったらジャージとかでも」
「ジャージは、絶対に、止めろ」
もうこうなったら否が応でも見せつけるしかない。
鶴音言葉のコーディネートがいまここに幕を開けた。
・
・
「ほら、これでどうよ」
「すごい……上品っていうか、それでいて落ち着いてるって感じ……」
青を基調としたシックなデザイン。普段から落ち着いている彼女にはお似合いであった。
文が選ぶものは明るいものが多かった為、さっぱりとした色彩が目を引く。
言葉も気に入っているようだ。
「素がいいのに、自分から台無ししたらもったいないだろ」
「その言葉は素直に受け取っておくね。ありがとう。じゃあ、このまま着ていってもいい?」
「いいんじゃねえの。妹が何て言うか知らないけどな」
「文には私から説明するから」
そう言ってレジへと駆けていく言葉。
ガラでもないことをしたと思いつつ、彼女の普段の顔が知れて少しばかり得をした彰人であった。
「~♪ ん? あれって弟くんに言葉……ははーん?」
そんな2人を遠目に見つけた1つの影。
嵐の前の静けさとは、この事であった。