サイドストーリーのようなものです。
言葉がビビッドストリートで演奏を終え、帰路についている時だった。
「──♪ ───♪ ──♪」「──♪ …──♪ ─…♪」
「……? 歌?」
どこかから聞こえてくる旋律に耳を傾ける。
声質の違う2人の少女の声が重なり、独特のコーラスとなって深みが増していた。
特に片方の歌声はプロと聞き間違えるまでに優雅に、伸びやかで。
「(でも、どこかで聞いたことがあるような)」
しかし、その2つの歌声は自分のよく知る声のような気もして。
誘われるように自然と足がその方へと向かっていた。
市街地の中にある公園で、声の主と思わしき少女達が歌っている。
その歌も有名なバーチャルシンガーの楽曲であった。
「(あれって、草薙さんに星乃さん?)」
予想通りよく知る人物であったが、その歌声を聞いたことはなかった。
実際の所寧々の歌声は、ショーで耳にしていのだが姿をみていない為紐付けることができなかった。
一歌もバンドをやっている、ということは知っていたもののその歌声は聞いたことがない。
新鮮な組み合わせを不思議に思いつつ、邪魔しないようにベンチへ座り愛読書である小説を開いた。
「うん。ちょっとずつだけど、よくなってる。後はもう少しイメージを膨らませたりして……」
「イメージか……例えば……」
「例えばミュージカル映画だと、場面の雰囲気を盛り上げるためにそのまま歌が始まるの。
出会えてよかった、とか。うまく伝えられなくて困ってる、とか」
「ミュージカル映画……あんまり見たことないけど、参考に見てみようかな」
「もし良かったらわたしのオススメ、今度の機会に持ってくるけど」
「えっと……じゃあ、お願いします」
やがて歌い終えて会話を交わす2人。
ただただ存在感を消して風景のひとつに溶け込む1人。
「あの……それで、鶴音さんはそこで何をしてるの?」
「あ、私の事はお気にせず続けてください」
「あれ? ……鶴音さん!?」
しかし自分達しかいなかった公園で、人が増えて気づかない方がおかしなことで。
自然とその存在を捉えていた寧々はおずおずと問いかける。
一方で一歌の方は死角になっていた為か、言葉が口を開くまでその存在を認識できなかった。
「いつからそこにいたんですか……?」
「ついさっきですね。綺麗な歌が聞こえてきたので、つい寄り道してしまいました」
「「………」」
一歌の問いにさらりと回答を返す言葉。
2人にとって知り合いだったという安堵より、知り合いに聞かれた、という方が重要である。
マイペースに小説のページをめくる彼女に戸惑いを隠せないでいた。
そんな2人に助け船を出す言葉。
「それにしても意外でした。草薙さんが星乃さんと知り合いだったなんて」
「あっうん。知り合ったのは最近だけど、ね」
「はい。そっか、鶴音さんと草薙さんは同じ学校でしたもんね」
「クラスは違うけどたまにお話するの。それに鶴音さん、学校だといつも演奏してるから」
ここにいる3人とも、相手同士が知り合いであることを知らない。
休憩も兼ねて2人も近くのベンチに腰を掛けた。
「その様子だと星乃さんもバンドの方は順調そう、ですかね」
「あ、うん……そうなんだけど」
意外にも一歌と言葉の関わりは、ビビッドストリートで演奏を聞かせた時で途絶えており、
それ以降は会うことすらなかった。それも一重に一歌達がバンドの練習に打ち込んでいたからに他ならない。
当然そんなことを知らない言葉だが、それは寧ろいいことと捉えていたようで。
一歌からバンドのことを聞き、なるほどと相づちを打った。
「確かに草薙さんなら適任ですね。先程もかなりお上手でしたし」
「歌だけは、誰にも負けたくないからね」
寧々がここまで歌をうまく歌いたいと願ったのは、
仲間の為でもありライバル──青龍院櫻子の存在も大きい。
そのプライドだけは誰にも譲れなかった。
「でも、音楽……演奏なら鶴音さんも負けてない。昼休み、いつも聞かせてもらってるから。
だから、鶴音さんもアドバイスできると思う」
「ありがとうございます。歌、ですか……」
楽器を演奏している分、音程や強弱には気を付けているが歌唱となれば話はもっと複雑になる。
声というものはもっともありふれた音。だからこそ変化にも敏感であった。
「草薙さんのいう通り、イメージを膨らませるというのは効果的かと。
自分の身に起こったことのように想像すれば、星乃さんでも気持ちが乗ると思いますよ」
「自分の身に……っていっても私、ラブソングとか苦手で」
「バンドの方向性もありますけど、そうですね」
おもむろに立ち上がり、あるフレーズを口ずさむ。
それは哀愁に満ちたものであり、2人の歌うものとは方向性がまるで違っていた。
特に寧々からすれば正反対と言える。
それでも彼女は上手かった。音程は所々外れているものの、表現力に満ちた歌い方。
完全に『自分のもの』として歌い上げていた。
「「………」」
「こんな感じで、自分が経験したみたいに……ってどうしました?」
だからこそ2人は何も言えなかった。
音楽への理解が深い分、歌詞にしてはっきり聞こえる分、
ここまで哀愁に満ちた歌い方が出来る彼女の心こそが、哀しみに暮れているのだと。