荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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哀愁を纏いて 後編

その硬直に気付かない言葉ではないが、

何故そこまで硬直したか、という理由までは解らなかった。

そのため、仕切り直しとして話を再開させる。

 

「実体験が全てではないですし、小説などを読んでいろんな人生観を知ったりする、

 というのもいいかもしれませんね」

「あ、そうですね。小説か……そっか、そうだよね」

「はい。何も経験全てでこの世が成り立ってる訳ではありませんから。

 魔法はこの世に存在しませんが、ファンタジーの一角として人気ですし。

 そうですよね、草薙さん」

「あ……うん! そう、わたし達もショーでよくやるし」

「そういえばこの前のショーも『歌で平和になる』物語だったよね」

 

歌は平和の象徴ではあるが、歌そのものにそんな力はない。

しかし、そんな想像でひとつの物語が紡がれる。

それに感銘を受けた人々によって、それらが形を変え受け継がれる。

 

経験だけが全てではない。そうありたいと願って、届くものもある。

 

『ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。なんとアタシ達、無事4人でバンドを始めたのです!』

『そうなの! 皆大切な幼馴染なんだ~』

 

最近のことだが随分遠いことのように思える、咲希との会話。

それを思い出して言葉は一歌の方を向き直った。

 

「天馬さんから聞きました。皆さん幼馴染みのバンドで、今が本当に楽しいのだと。

 星乃さんはどうですか? その時がいつまでも続いてほしいって思いますか?」

「私は……」

 

一歌はおもむろに自分の胸に手を当てる。

思い返すのは、セカイでの出来事──

 

『……一歌はもう、本当の想いを見つけられているんだね』

 

『『みんなで一緒にいたい』って』

 

『その想いを受け止めて──大切にしてあげてよ』

 

ミクが自分に言ってくれたこと。自分が見つけた、本当の想い。

 

「私は、続いてほしい。4人で、一緒にバンドを続けたい。

 だから、だから私は──もっと上手くなって、

 志歩……ううん、みんなのためにバンドを──!」

 

胸の内から溢れ出す想いを、必死になって言葉へ伝える。

それはそばから見ている寧々にも飛び火して、その熱が伝わっていく。

それを遮るように、言葉はふと微笑んで口を開いた。

 

「そこまでわかっているなら、やることはひとつだけですよ」

「あっ……」

「そうだね。もっと練習して、自分の想いを伝えられるようにならないと」

 

寧々も、その想いの本質は知らなかった。

熱意は本物だとわかっていたが、それでも理由は知らなかった。

その背中を押すように笑顔で立ち上がる。

 

「じゃあ星乃さん、練習再開しよっか」

「……うん!」

「では、私はこれで」

「あ、鶴音さん! ちょっと待って、ください!」

 

役目は終わった、とキャリーケースを片手にその場から去ろうとする言葉。

しかしそれを遮るように一歌が声を掛けた。

 

「えっと、もし良かったら連絡先、交換しませんか?」

「えっ? 私の、ですか?」

「はい、えっと……だめ、ですかね」

「い、いえいえ。むしろ私なんかの連絡先でよければ」

 

スマホをお互いに取り出して連絡先を交換する。

その光景を見て寧々も何かに気付いたようで。

 

「あ、えと、じゃあわたしも交換していいかな」

「はい、どうぞ。特に連絡することもないと思いますが……」

「ううん。でもその方が鶴音さんらしいと思う」

「そうですね」

 

よく話すわけでなくても、いざここまで知り合っていて連絡先を持っていないのもおかしい話だった。

寧々相手であれば昼の演奏会に誘うこともできる。言葉にとっても利の大きい話であった。

 

「では、また何かあれば呼んでください。伴奏くらいならこちらもできますので」

「じゃあ、そのときはお願いしようかな。星乃さんもいいよね?」

「うん。その時はお願いします」

 

優しい笑みを浮かべ言葉はその場から立ち去る。

2人はその背中が見えなくなるまで見送っていた。

 

 

/////////////////////

 

 

「鶴音さん、すごい人だよね。鋭いっていうのかな」

 

言葉を見送った時に口を開いたのは一歌の方であった。

自分が本当の想いを見つけた時の熱を、思い出すきっかけをくれた。

自分の憧れる1つ上の学級委員にも似た少女。

そのせいか口調も自然と丁寧な言い回しになっていた。

 

「そうだね……」

 

しかし、そのことよりも寧々には気になることがあった。

哀愁漂う楽曲を自分の物として歌い上げるその想い。

経験についての話題を持ち出したのは他でもない言葉である。

後から小説の話を持ち出したのも、何かを誤魔化すようなそんな気がして。

 

『星乃さんはどうですか? その時がいつまでも続いてほしいって思いますか?』

 

言葉の言った事も、やはりその経験から導き出されたもの。

こればかりは、自分が本当に思っていることでなければ口から出ることはない。

 

「(じゃあ、鶴音さんはどう思ったんだろう)」

 

問いかけるべき相手は、もうこの場にはいない。

そしてそして2人は知るよしもない。

言葉にとっての『その時』は、二度と取り戻すことが叶わないのだと。

 




どうも、kasyopaです。
赤帯2本目、本当にありがとうございます。
お話の節目でしかあとがきを書いていないので、
報告は遅れがちですが、折を見てさせていただきます。

「響くトワイライトパレード」で色々意外な組み合わせが発生しましたが、
元々寧々の関係も他ユニットではあんまりなかった分、ちょっとビックリしてます。
でもこれがレオニにとって、一歌にとってとても重要なファクターになるので、
考察がてらのんびりとシナリオ待ちですかね。

次回、希望と憧れに花びらを添えて。
お花見回になります。お楽しみにー。
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