時系列としては「Color of Myself!」後、
「届け! HOPEFUL STAGE♪」前になります。
日に日に暖かくなり、そろそろ冬用コートもしまい込むそんな時期。
鶴音姉妹は川沿いの道を歩いていた。
「ねえ見てお姉ちゃん! 桜並木だよ!」
両手を広げて回りながら全身で花吹雪を浴びているのは文。
その姿はまるでアニメやゲームの演出の様だった。
「文、そんなにはしゃいだら危ないよ」
「だってこんなに桜が綺麗なんだもん!」
そんな文の後ろに続くのは、キャリーカートを引く言葉。
そこには普段の楽器の他に大きい鞄が括られている。
2人は今、お花見の場所を探しているようであった。
「このあたりも、もう場所取りで一杯だね」
河川敷や緩やかな斜面では、既にブルーシートなどで場所取りが済んでおり、
自分達が使えるスペースなどどこにもなかった。
既に花見を始めている団体も少なくない。
そんな中で花見の客らが殺到している所を見つける。
屋台などがあるわけでもないため、明らかに目立っていた。
「あれ、なんだろ……」
「あわわわ……だ、誰か助けてー!」
人混みの中から助けを呼ぶ声がする。女の子の声だった。
「! この声もしかして!」
それに反応するかのように文は人混みを掻き分けその中心部へと至る。
そこで目にしたのは──
「み、皆さーん! 落ち着いてくださーい!」
「ごめんなさい、私達、今はお花見の途中でして……」
「握手でもサインでも後でしてあげるから、今はちょっと待っててくれないかしら」
「ごめんなさい、写真はちょっと……」
「みのりちゃん! 遥さん! 愛莉さん! 雫さん!」
MORE MORE JUMP!のメンバーが群衆に囲まれ、サインや握手、写真をせがまれていた。
といってもその矛先を向けられているのは遥・愛莉・雫の3人であって、
みのりに関しては特に相手をされていなかった。
一応3人とも変装はしているのだが、何かの手違いか気付かれてしまったらしい。
「あっ! 文ちゃん!」
「みのりちゃん大丈夫!? 手伝うよ!」
「おいなんだなんだ」
「邪魔するなよー、俺らは握手して欲しいだけなんだけど」
2人のよく知らない一般人に邪魔されても、
目の前に佇む可憐な3つの花を愛でない理由にはならなかった。
「皆さん、一度落ち着いてはいかがですか」
ふと、落ち着いた口調で1人の少女が群衆に語りかける。
ただ凛然と注意を促す優等生の風格。
こんなにも邪魔が入っては、一気に熱も覚めてしまうもの。
無数の名も無きファンは邪魔物を見るような目で離れていった。
「文、皆さん、大丈夫でしたか」
「お姉ちゃんありがとー。やっぱりかっこいいね!」
「あの、ありがとうございました。私達だけではどうにも出来なかったので」
「困っているならお互い様ですよ」
4人を代表して前に進み出る遥が言葉に頭を下げる。
しかし普通のことをしたまでといった雰囲気で返すだけだった。
「ところで文、この人達は?」
「体験入学の先輩達! あっ、でもみのりちゃんは知ってるよね?」
「確かあの時公園で……皆さん、本当にありがとうございます。
文は本当に楽しそうに皆さんのお話をしていて……」
「い、いえいえそんな! 滅相もないでひゅ!」
きょとんとした表情で言葉を見つめる4人であったが、
次の瞬間感謝の言葉を口にし始め、最後には頭を下げていた。
先程の堂々とした雰囲気はどこにもなく、むしろ申し訳ない気持ちが涌き出て、
その証拠に焦ったみのりは舌を噛んでいた。
「とりあえずここから移動しない? ここじゃ落ち着いて話も出来ないわ」
「あ、それならいい場所知ってますよ! わたしが案内します!」
今も遠くから野次馬が恨めしそうな視線を送っている。
ここで再び花見を始めようものなら、隙を見て付け入ろうとするだろう。
こうして6人に増えた面々は文の案内の元、移動を開始するのであった。
・
・
文が向かったのは自分がよく躍りに来る公園。
園内にある道から少し外れた林の少し奥に開けた場所があり、
1本の小さな桜の木がその花を散らしていた。
ちょうど道から見て死角になる場所であり、小さい故に花弁が散る範囲も狭い。
もちろんシートなどが敷かれているわけもなく、完全に貸しきり状態であった。
「あら、こんなところがあったなんて……知らなかったわ」
「公園探索してたときに見つけたんです。すごいですよね!」
「でもどうしてこんなところに桜が?」
「山でも場所によっては桜の木があったりしますし、昔誰かが植えたんだと思いますよ」
散歩好きな雫でも流石に道を外れた場所まで行くことはない。
誇らしげに胸を張る文と、
みのりの問いに田舎出身の知識を交えて答える言葉。
「確かにここならゆっくりお花見出来そうね。じゃあ気を取り直して……」
「あっ、わたしがセッティングしますから、愛莉さん達はそこでゆっくりしててください!」
荷物を半ば強引に受け取りつつ、急いでセッティングを始める。
「お待たせしましたMORE MORE JUMP!の皆さん! どうぞ!」
あたかも自分ですべて用意しました、
といわんばかりにシートを広げ、その場で正座している文。
厄介なファンの対応にも似ていたが、
彼女の一生懸命さはあの頃から何一つ変わっていない。
「ふふ、それじゃあお言葉に甘えちゃおっか」
「そうだね。文ちゃんも一緒にお花見だー!」
「ま、一時はどうなることかと思ったけど」
「でも、本当にいい場所ね。動画の撮影にも使えそう」
「えへへ。わたしも気に入ってもらえて嬉しいです」
和気あいあいと話す5人を端から眺める言葉。
その様は完全に他人としてその場へ溶け込んでいた。
「じゃあ、私はこの辺「お姉ちゃんはダメー!」んぐぅ」
その場から去ろうとしたところで文が言葉の首根っこにしがみつく。
あまりの衝撃に変な声が漏れたものの、怪我には至らなかった。
「せめて紹介くらいさせてよー!」
「ふ、文……苦し……息出来な……」
「あわわ! ごめんお姉ちゃん!」
「えっと……なんだか水を指しちゃったみたい?」
「ううん! そんなことないですよ」
気まずそうに口を開く遥。しかし文は気にしない様子であった。
気を取り直して一緒にシートへ座る言葉。
「では改めまして。文の姉であり、神山高校1年の鶴音言葉と言います。
皆さんのお話は文から何度か聞いていますが、こうしてお会いするのは初めてですね」
「「「「………」」」」
律儀に、かつとても丁寧に頭を下げる言葉に対し4人とも目を丸くする。
「ねえ文、この人本当にアンタのお姉さんな訳?」
「そうですよー! なんで皆疑うんですかー!」
日頃の経験から本当に姉妹なのか、と問われることが多い2人。
それはここでも例に漏れないのであった。