荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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希望と憧れに花びらを添えて その2

 

言葉の自己紹介もほどほどに、みのりはあることに気づいて口を開く。

それはかつて文と始めて出会ったことだ。

 

「あ、そういえばあの時文ちゃんと公園にいたのって……」

「はい。あの時は文がお世話になりました。これからもよろしくお願いしますね」

 

変わらずにっこりと微笑む彼女に、思わずみのりは見とれてしまう。

しかし自己紹介に加えてお願いもされては、返さないわけにもいかない。

 

「あっ、はい! わたし、花里みのりって言います! こちらこそお願いします!」

「アンタがお願いしてどうすんのよ……まあいいわ。わたしは桃井愛莉。よろしく」

「桐谷遥です」

「日野森雫です」

「花里さんに桃井さん、桐谷さんに日野森さん……あ、日野森さんってもしかして」

 

普段から名字読みを崩さない彼女。

そして顔と名前は大体覚えられるため、該当する人物に思い当たる。

 

「そうだよー。雫さんは志歩先輩のお姉ちゃんなの」

「そうでしたか。いつもお店ではご贔屓してもらってまして」

「まあ! 鶴音さんはしぃちゃんともお友達なのね! 凄いわ、どんどん友達の輪が広がって……」

「はいはいストップ。雫が妹の話をし始めたら止まらなくなるでしょ」

「うう、でも~」

「とりあえずやっとお花見が出来るし、その話は後でもいいんじゃないかな」

 

苦笑気味に愛莉と遥が雫を止めて、本題へと移った。

MORE MORE JUMP!の面々は紙コップで、

鶴音姉妹は各自の水筒のコップでそれぞれ飲み物を用意する。

 

「乾杯は誰が言うんですか?」

「せっかくだし、ここにいる人全員を知ってる人がいいんじゃないかな」

 

そんな遥の挑戦的な視線の先にいたのはみのり。

なるほど、と納得した様子で他の4人もそちらを見ていた。

 

「ええ!? それなら文ちゃんだって」

「なに言ってるの! MCだと思って思いっきりやっちゃって!」

「え、MC……そうだよね! アイドルたるもの、それくらいできて当然だよね!」

 

皆を知るという点では文も該当するが、いい感じに言いくるめられてしまう。

 

「では花里みのり、僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきます!」

 

勢いよく立ち上がりまるで宴会のよう。少し悩んだ後に口を開いた。

 

「それでは皆様、今年もお疲れさまでした! 乾杯!」

「って、それは忘年会でしょうがー!」

「なるほど、確かに学年としての締めとしては相応しいかもしれませんね」

「流石にそこまで考えてないと思うよお姉ちゃん……」

 

アイドルの卵であるみのりにとって、まだまだ難易度が高い様子であった。

 

 

 

いくら仲が良い後輩の姉とは言えMORE MORE JUMP!の面々からすれば、

言葉がどういった人物かは全く知らない。

一方の言葉もあまり会話に混じらず自分のペースでお花見を楽しんでいる。

それでも文という『いい子』があれだけ好いているのだから、

悪い人ではないのだろうと予測は立てていた。

 

「ほらほらお姉ちゃんももっと話そうよー。

 皆に会える機会なんて滅多にないんだから!」

「それでも、だよ。むしろ私は楽しそうにしてる文を見てる方が楽しいから」

 

見かねた文がなんとか会話に入れようとするも、さらりとかわして桜の木を眺める。

その手に本の1つでもあれば、文学少女として映えること間違いなしであろうが、

あいにく今は談笑を楽しむ時間。

悪い人ではないが絡みづらい。その距離感を掴めずただ2人の会話を眺めるだけだった。

 

「皆さんごめんなさい。お姉ちゃんいっつもこんな感じで……」

「いいのよ。遥も最初は大体こんな感じだったし」

「そう? 私はそんなことなかったと思うけど」

「いや、みのりがダンスの練習してる横で本読んでたでしょ……」

 

随分と昔の話を引っ張ってくるな、と思いつつ遥は言葉の方へと視線を向ける。

彼女は相変わらず桜の花を眺めながらお茶を飲んでいた。

メンバーの中にも姉が2人いるが、どちらかというと雫に似ているだろうか。

 

「もう、お姉ちゃんが話さないならわたしが話しちゃうもんね!

 お姉ちゃんは楽器やってて、勉強も出来て、なによりすっごくかっこいいんです!」

「へぇー、楽器やってるんだね! なんの楽器をやってるの?」

「フルートとかー、和楽器の笛とかー、あ、そうだ!」

 

突然立ち上がり、すみに置かれたキャリーカートを漁る文。

やがて楽器ケースを担いで姉の元へとやってきた。

 

「折角だし皆にも聞いてもらおうよ、お姉ちゃんの演奏!」

「私の? でも……」

「わたしも聞いてみたい! えっと、ダメかな」

「そうね、文ちゃんがこんなに言うんだもの。私も聞いてみたいわ」

 

口を濁す言葉に対してみのりと雫が後に続く。遥と愛莉も期待の視線を送っていた。

ここまで期待されて断っては、演奏者としての名折れである。

 

「わかった。1曲だけだよ」

「やったー! ありがとうお姉ちゃん!」

「あーほら! 嬉しいのは解るけど飛び付かない!」

 

飛び付こうとする文を直前で止めたのは愛莉だった。

再び喉元を締め付けてはそれこそ機嫌を損ねてしまうかもしれない。

 

何を演奏するか、と思考を巡らせてから取り出した篠笛を構える。

咲き誇る桜に送るのは、弔いでも宴でもない。桜そのものを歌った楽曲。

凛々しくも雄々しく奏でる音色が鳴り響き、彼女とは違った形で彩りを与えるのであった。




桜前線異常ナシ/ワタルP
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