荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第10話「見えない道」

自分なりの結論は、想いは、出たというのにまだ迷っている。

 

『──その想いは本当に今の君の『想い』なのかな?』

 

あの時のKAITOの問いかけがどうしても引っかかる。

その答えを知っているような気がするけれど、たとえ懇願しても教えてはくれないだろう。

誰しも必要に迫られた時に物事を必死で覚えようとする。

それが本当に大切なもので、自分の中にあったものだからこそ、自力で見つけてほしいんだ。

しかもこれは数学みたいに決められた答えがあるわけじゃない。

ましてやゲームみたいに固定化された選択肢で選び取るわけでもない。

 

「なんだかわからなくなりそう」

 

『もしまた何かあれば僕達に相談しにきてくれるといい』

『私達はずっとここで待ってるわ。貴女の力になるためにもね』

 

ふいに初めてセカイを訪れた時のことを思い出す。

本当の想いを見つけた後でも相談していいのかな。

 

一人で悩んでも仕方ない。あの時のちゃんとした謝罪も出来ていない。

早々に勉強を切り上げ、まだ早いかもしれないコートを引っ張り出し、Untitledを再生した。

 

 

 

はぁ、と息を吐けば途端に白くなる。なんとなくこの前訪れた時より寒くなっている気がした。

雪の深さもところどころ足を取られる程にまで降り積もっている。

コートは着てきたけれど靴はただの靴。歩を進めるたび隙間から雪が入ってくる。

濡れないからと無視して歩くも冷たさだけはどうにもならず、時折止まっては掻き出す。

 

枯れ木の元にたどり着いたものの思いのほか体力を使ってしまった。

お蔭で体は温まったけれどコートの中では汗をかいている。

手や足の冷たさも相まってまたお風呂に行かなきゃいけない。

そんなことを呑気に考えているところで違和感に気付く。

 

普段なら丘の上で待ってくれているのに今日は二人の姿がどこにも見当たらない。

ほんのり寂しさを覚えながらも、傍にある桜の木に身を寄せる。

冬は嫌いだけどこんなにも幻想的な景色は現実で見たことがない。

 

自分の本当の想いがどうであれ、この景色は他に代えがたい物。

忘れないようにスマホで撮影しようとしたところで、

カメラ越しに赤い影がこちらに近付いてきているのが見えた。

 

「MEIKO!」

「こんばんわ言葉。やっぱり来てたのね」

 

雪の上を軽快に歩く姿から、本来の情熱的で活発な彼女らしさを感じる。

 

「KAITOは?」

「今雪かきの道具を探してるところよ。ここまで積もってきたら言葉が歩き辛いでしょ?」

「私のセカイにそんなものあるのかな?」

 

セカイに心地よさを覚え始めている今では、この景色すらいとおしく思った。

この綺麗な景色は誰も居ないということと、人の手が介在していないという二つの効果が大きい。

態々それを壊すようなことを私が望むだろうか。恐らくないだろう。

 

「この綺麗な景色がなくなるのはちょっと嫌かな」

「でも積もってきたらここまで来るもの一苦労ね」

「うっ……」

 

言われてみればここまで来るのにかかった労力と釣り合うかと言えば難しい。

出来る限り早くKAITOが雪かきの道具を見つけられるようにお祈りしておこう。

 

「それで、ここに来たってことは悩みがあるんじゃない?」

「流石MEIKOさんですね」

 

私はここに来た理由をつらつらと述べる。

本当の想いを見つけたはいいけれどそれをどう生かせばいいか分からない。

いままでずっと両親の為に捧げてきた想いをどうすればいいか分からない。

それでもこの想いは捨てたくない。捨ててしまえば私ではなくなる気がして。

 

それに加えて自分の回りで同じ年くらいの人達が自分の道を決めて走っていることで、

焦りにも似た気持ちがあることも含めて、私は話した。

 

「わがままですよね」

「そんなわがままも私はいいと思うけど」

「えっ」

 

愛想笑いで悩む自分を笑い飛ばそうとしたところで意外な言葉が飛んでくる。

MEIKOのことだからうじうじしないでズバッと決めろ、と言うかと思っていた。

 

「確かに言葉の両親の為に、って想いは大切なものよ。無くしたくないのも当然。

 でもそうね。言葉は両親以外の人に自分の演奏を聞いてもらったことはある?」

「えっと、コンクールなら審査員の人とか、観客の人に、少しは」

 

MEIKOは少し悪戯な笑みを浮かべて私に一つの案を提示する。

 

「なら、こういうのはどうかしら。

 一度だけでいいから、貴女のことを知らない人達に貴女の音楽を聞かせてみるの」

「私を知らない人に? でも、バイトがあるしそんな暇は」

「そう言わずに、ね?」

「……はあ。分かりました。でも一回だけですよ」

 

軽くウィンクを飛ばす彼女を見て小さくため息を吐く。

ひとまず今日は帰って、次来るときに楽器を持ってこよう。

バーチャルシンガーの二人なら観客として申し分ないし、快く引き受けてくれるだろうから。

 

「でも私達じゃダメよ? 確かに興味はあるけれど貴女を知ってしまっているから」

「えっ? ダメなんですか」

「当然。頑張って聞かせてあげて、貴女の音楽を」

 

その言葉を皮切りに私は光に包まれセカイを去り、

自分の部屋のベッドの上で仰向けに寝転がっていた。

 

「……嘘でしょ」

 

してやられた。普通に考えれば当然のことだけれど私の考えが甘かった。

しかもその前条件を提示される前に同意している。もう後に引くことはできない。

 

MEIKOには私をこのセカイに導き、想いと向き合わせてくれた恩がある。

それに一回だけだから問題はないはずだ。これも同意の時に条件として無言の肯定を貰った。

 

これもまた私の悩みを晴らす道しるべとなるのだろうか。今の私にはそれすらわからない。

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