演奏を終えて頭を下げる言葉。それに対して5人は淀みない拍手を送った。
「聞いてくださってありがとうございます。つたない演奏でしたが」
「そんなことありません。うまく表現出来ませんが……とてもお上手でした」
「ね、お姉ちゃんの演奏は最高なんだから!」
「なんで文が自慢げなんだか……でも本当、素敵な演奏だったわ」
「ええ。思わず聞き入っちゃうくらい力強くて、それでいて優しい音色ね」
「うぅ、姉妹揃ってすごい人達ばっかりだよ……わたしも頑張らなくっちゃ!」
各々の感想を聞き届けてから彼女は再び輪に加わる。少し疲れたのかため息を吐いていた。
そんな様子を見ていた雫が自分の水筒を差し出す。
「もし良かったら、どうかしら」
「ありがとうございます。……ってこれ、甘酒ですか?」
水筒から注がれたのは白濁色の飲み物。
しかし特有の酒の香りはなく、すぐに違うということがわかった。
「しょうが湯よ。ほら、この時期だとまだ冷えることもあるでしょう?
はちみつたっぷりだからそんなに辛くないし」
「なるほど、ではいただきます」
水筒からしょうが湯というのもなかなかに大胆だが、
桜の咲き始める時期に寒さが戻ってくるのは良くあること。
体の内から温めるにはもってこいだった。
「雫ってばまたいろんな物入れたりして……ま、今回は確かにありがたいけど」
「この前はお味噌汁だったよね」
「水筒にお味噌汁……いいですね。今度叔母さんお願いしてみようかな」
「「「えっ?」」」
「えっ?」
いつかの話題で盛り上がりを見せるかというところで、言葉がいいアイディアだと肯定する。
笑い話で終わるはずが、むしろもっと厄介な方向に転がりつつあった。
「鶴音さんもそう思うわよね。お味噌汁は体にいいし、運動後には塩分補給にもなるから」
「そうですね。最近の水筒は保温性も高くて、お弁当の冷めたご飯も食べやすくなりますし」
「そう言われれば確かにそうかも?」
「いや、みのりまで流されてどうすんのよ」
思わぬ廻り合いに2人は会話に花を咲かす。
一方は天然、一方は計算の元で導き出しているという違いこそあれど、
お互いに奇抜なアイディアを提供するもの同士、馬が合うといったところだった。
「文のお姉さんもマイペースっていうか、なんていうか……似た者同士ね」
「そんなことないですよ。お姉ちゃんの言ってることは大体正しいので」
「確かに言ってることはわかるけど……それでも水筒に味噌汁はないかなって」
それが理解出来なくもない愛莉と遥であったが、ここで全て肯定してしまうのも何か違う。
一方で変わらず2人の為になる(?)会話が続いており、みのりは完全に引き込まれていた。
「そうそう、この前皆で寄せ鍋をした時に、焼きマシュマロをしたんだけどそれが楽しくって……」
「確かにこちらの文化では暖炉もありませんし、ガスコンロの火なら安全に処理できますからね。
この辺りだと焚き火はともかくバーベキューも出来ませんから」
「ふむふむ……」
「みのりー、そろそろ戻ってらっしゃい」
「2人も、その話はまた今度にでも」
そろそろ収拾がつかなくなると判断した2人は、助け船を出すのだった。
・
・
それからお弁当がなくなっても会話は続き、そろそろ会話のネタも無くなって、
自然と解散の流れができていた。
「皆さん、ありがとうございました。お陰で文も満足出来るお花見になりました」
「こちらこそ、私達もこんなにゆっくりお花見出来たのは久しぶりで。ありがとうございました」
言葉と遥がお互いに頭を下げる。こういった律儀なところは似た者同士かもしれない。
「まさかアンタに助けられるとは思ってもみなかったけど。やっぱり隅に置けないわね」
「えへへ、ありがとうございます愛莉さん。また一緒にお話しましょう!」
「そうね。ダンスは一級品だから、もし良かったらみのりと雫に教えてあげて頂戴」
「わかりました! その時は覚悟しててねみのりちゃん!」
「ひええ! コーチが2人!? どど、どうしよう雫ちゃん……」
「でも、その方がもっと楽しいわ。私からもお願いね。文ちゃん」
「はい! MORE MORE JUMP!の皆さん、ずっと応援してますからね!」
ほどなくして解散し、鶴音姉妹は帰路につく。
ほんのりと傾いた日が空を赤く染め始めていた。
「文。愛莉さんに前から好きだったこと、言わなくて良かったの?」
「うん。だって愛莉さん、今はMORE MORE JUMP!として頑張ってるから」
愛莉からすれば要らぬ心配だろうが、いざ自分の大切な物や憧れに対しては臆病なのは変わらない。
以前放った一言で姉を傷つけてしまったことが、今も深く胸に刻まれている。
「でも、言わないと伝わらないよ」
「わかってるって。でもそれは今じゃないと思うの。もっともっと、大事な時があるはずだから」
2人にとって明日ほど不確かな物はない。
永遠に続くと思っていたものが失われた、あの日から。
しかしわかっていながらも先送りにしてしまう。
自分のせいで大好きなものが失われるのも、文にとって恐ろしいことだった。
文の古傷は、まだ癒えることを知らない。
こんばんわ、kasyopaです。
お花見イベントが開催される様子ですが、
こちらのお話群は相変わらず残させていただきます。
鶴音姉妹が存在する時点で色々変化する物語もあるかもしれない。
さて、次回は箸休め程度にアンケートで可決された「エリア会話集」となります。
それが終われば、エイプリルフールイベント……のようなお話。
そして、それが終われば少し休止期間をいただきます。
年度はじめがエイプリルフールしかない状態になりますが、ご了承の程お願い致します。
それでは、また。