「いやー、歌った歌ったー」
そんな事を言いながら理那は大きく伸びをする。日はすっかり落ち込み街灯と店の照明に照らされている。
あれからずっとカラオケでマイクを回していた4人。
晩御飯までと言っていた言葉も結局は最後まで付き合っていた。
「委員長歌上手だよねー。カラオケ大体85点くらいだったし」
「笛と一緒に声楽隊とか入ってたとか?」
「入ったことはないけど、音程とタイミングは器楽でも大事だから、自然と点が高くなるんだと思うよ」
「おー、プロフェッショナルな回答いただきましたー」
「さすが委員長だね!」
クラスメイトの2人も誘う前に比べれば随分と話すようになり、
今はカラオケの話題で盛り上がっていた。
学校でも音楽の授業で合唱をすることはあったが、1人で歌う機会など存在しない。
「今日は誘ってありがとう。楽しかったよ」
「委員長にそう言って貰えるなら友達冥利に尽きるね」
満足げに眺めながらも後ろからついていく理那に対して言葉は感謝を述べる。
普段なら調子にのって誤魔化す彼女も、この時は真剣であった。
「あはは、理那ってば変なのー。そんなに委員長が恋しかったの?」
「違う違う、後方彼氏面ってやつだよきっと」
「あー、それで私達にマウントとっていくんだー?」
「いくらでもどうぞー。目をつけたのは私が一番最初だし」
友人2人に冗談混じりの非難を言われながらも適当に流す。
言葉にとっても理那との付き合いがクラスメイトの中では群を抜いて長い。
高校に上がってから数えるならば、妹の文より長いかもしれない。
『同じ目標がなくても、私は委員長と一緒にいられたらそれでいいかな』
「理那、ちょっとい「ようやく見つけたぞ! 鶴音言葉!!」」
昼間の発言を思い出し、思わず声をかけようとしたところで何者かが割り込んでくる。
真っ白な短髪に真っ赤な瞳。肌も異様に白いため、アルビノかと思われる。
そして極めつけに身長はかなり低く、153cmといったところ。
「まったく、週末にはビビッドストリートで演奏していると聞いて赴いてみれば、
ここ最近は見ていないだの、バイトでもしているんじゃないかだの……
こんな事なら連絡先のひとつでも聞いておくべきだった」
一方的に愚痴を言い放つもその流れについていけず、4人とも首をかしげている。
「委員長、知り合い?」
「名前を知ってるってことは知り合いだと思う。私は覚えてないけど……
とりあえず、3人は先に帰ってて」
「はーい。委員長、また明日ね」
「また一緒に遊ぼうねー」
理那を含めた3人はその場を後にし、面と向かい合う2人。
いくら言葉でなくても、ここまで特徴的な外見の人物を覚えていないはずがない。
特に自分の名前を一方的に知られている、というのが不安感を煽った。
「もしよろしければ、お名前を聞かせてもらっても?」
「何? 我の名前を忘れただと! 罰すべき相手を見失うとは、貴様それでも審判者か!」
「……すみません。私も今まであった全ての出来事を把握しているわけではありませんので」
大きく出た相手に対し、お返しにと煽り文句にも聞こえそうなラインを攻める。
そんな態度に対して、多少感心した態度を見せる少女。
「ほぉ、言うではないか。あの一件から随分調子を取り戻したようだな」
「あの一件?」
「積もる話もあるというもの。適当な店にでも入ろうではないか。
貴様にとってもあまり大っぴらに話してほしくないことだろう」
「わかりました」
良からぬことを企んでいるわけではなさそうだが、彼女は自分の何を知っているのか。
その1点が気になってしかたがない言葉は、適当な店を見繕うのであった。
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こうして選ばれたのは和食のチェーン店。
2人だが会話がメインになることを予見し、あえて座敷の個室を選んだ。
「気遣いはあれから全然変わらないではないか。貴様なりの優しさ、といったところか」
「とりあえず、注文を決めましょう。大っぴらは困るんですよね」
「ああ。ん、意外と高いな……我はこれで」
「では私も同じものを」
そう言いつつ注文したのは一番安い寿司の盛り合わせ。
司にも似た口調ではあるものの、お金に関しては敏感だった。
店員が後にする際に置いていった暖かいお茶で喉を潤しながら、少女は口を開く。
「我が名は雲雀千紗都という。これでも思い出せないか」
「鶴音言葉です。はい、残念ながら」
名前を聞いてもやはり心当たりはない。アルビノであれば先天的なもの。
必死に過去の記憶を漁るも該当する人物は出てこなかった。
「では、3年前のバレンタイン、といえば嫌でも分かろう?」
「っ!?」
言葉の顔が青ざめる。
過去に執着しなくなった彼女でも、その単語だけは地雷だった。
忘れもしない両親の命日。その日を明確に狙い撃った少女。
淡々と告げるかのように目を閉じて、思い返すように口にしていた。
「どうして貴女が……いや、何を知って……」
「なにもかも、だな。そしてなにより、その日が我にとっても運命の日に他ならない」
「我の両親が、人殺しと呼ばれるようになったのは」
そうして少女──雲雀千紗都は話し始める。
すべてが変わったあの日のことを。