荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「免罪の末路」

少女が語るのは、事故が起こるよりも少し前の話。

 

アルビノという体質から学校に通うこともままならなかった千紗都には趣味があった。

それは音楽。それも器楽であり、バイオリンであった。

両親はクラシックを通して知り合った仲でもあったため、年が1桁の頃から親の教えの元、

その才能を開花させていった。

 

しかし、そんな一家にも悲劇が訪れる。

両親が言葉と文の両親を撥ねたのだ。そして事故も葬式も終わった後の話。

示談で解決するか、裁判を起こすか、という話の時である。

当初遺族にして最年長であった言葉は、『何も求めなかった』

叔父や叔母とも話してもなお、その意思は曲げなかった。

 

『あの事故は、仕方ないことだったんです。どちらにも非はありません

 だから、この話は終わりにしましょう』

 

到底納得のいくことではないが、言葉からすれば両親を失ったという事実を、

いつまでも引っ張ることこそ地獄だった。

ただ忘れたい一心で加害者である雲雀の両親を許した。この場合、諦めともとれるのだが。

 

言葉の知る範囲では、ここで雲雀一家との縁は切れ記憶からも消えてなくなった。

ただ両親に夢を誓ったあの日が後悔の鎖となって残り続けていくこととなる。

 

──しかし、雲雀一家からすればここからが本当の地獄であった。

世間から人殺しと罵られ、どこかから漏れた示談の内容が週刊誌に取り上げられる。

そうすればさらに叩き上げられ、両親は職を失い千紗都本人もひどい虐めを受けた。

 

それから父は酒に溺れ、母は心を病み、千紗都は愛していた音楽を捨てることを強いられる。

そしてある日、千紗都が学校から帰った時に2人は心中していた。

 

その後親戚の家になんとか貰われるも厄介払いとして東京の地に放り出され、

仕送りだけを受け取って生活している。

 

体質から日中外に出ることは難しく、またその外見から気味悪がられる。

中学を出てからは早々に通信制高校へ切り替え、夜に買い物をする日々を送っているという。

 

「……それで、私にどうしてほしいというんですか」

 

自分の過去を一通り説明したあと、千紗都は届いたお寿司を頬張っている。

一方の言葉は表情が優れぬままに結論を急いていた。

 

「貴女は、私に復讐するために現れたんですか?」

「復讐? そんなものは愚か者のすることだと、歴史が証明してるだろう?」

 

何を言っているんだ、という様子で否定する千紗都。

話の流れからして復讐のために現れたとしか考えられなかったが、どうやら違うらしい。

随分達観しているな、と思いつつ彼女の言葉を待った。

 

「我は、貴様に裁いて欲しいだけなのだ」

「裁く、とは? えっと、その、話の流れが見えないのですが」

「ああ、その辺りは我の信条に近いものもある。説明しよう」

 

口調こそ偉そうだが、先程のように上から目線な彼女はどこにもいない。

むしろ過去を話したことで本来どちらが上でどちらが下なのか、

というのをはっきりさせた節すら感じられる。

 

「我は過去に起こったことを悔やんでいない。だが未練ならある。

 それは、我らの犯した罪が正当に裁かれなかったということ」

 

「あの時正しく裁かれていれば、父も、母も、我も、

 あのようなことにならなかったかもしれない。

 しかしそれを恨むのは違う。我らは加害者だからな」

 

「本来裁かれるべきは父と母だが、もうこの世にはいない。

 代わりに我がその罰を受けることにする」

「つまり、そのために貴女は私を……」

「そうとも。ずっと探していた。こちらの方へ引っ越したとは聞き及んでいたが、

 まさかライブハウスで見かけるとは思わなかったぞ!」

 

その発言にはっとする。

ライブハウスでとなれば、応援を頼まれてステージに上がった時のことだ。

 

「経緯は知らんが、あのステージ見事だった。

 特にアクシデントですら乗りこなして見せる柔軟さ!

 我が審判者にふさわしい働きだったぞ!」

「……ありがとう、ございます」

 

先程まで重苦しい話をしていたにも関わらず、熱いお茶を啜りながらも感想を述べる。

しかしそれは自分が止めざるを得なかった音楽によるもの。

妬みや嫉妬が少しでもあるかと表情を伺うも、そういった様子は一切ない。

 

「えっと、この事は文にはご内密に」

「ああ、そこは心配ない。鶴音家の責任者は貴様だからな」

 

これ以上妹に何か背負わせたくはなかった。

宮女での一件は言葉の知らぬところだが、今では気にしていない様子なので改めて聞くこともない。

それでもその緩急は言葉ですら目を覆いたくなるもの。

 

特に、両親の死に起因することであれば全て受け止めるしかなかった。

 

「それで、話を戻しますが。私が裁く、とはどういったように……」

「それはもちろん、親殺しに見合った物であれば甘んじて受けようではないか。

 死ねと言われればこの命、喜んで差し出そう」

 

満面の笑みを浮かべる彼女は、言葉から見ても異常であった。

それこそ、どこか歪んで見えた瑞希や絵名、奏さえもここまでではない。

 

「どうしてそんなに、裁かれたいんですか?」

 

なんとか話にクッションを挟もうと、本筋から離れすぎない質問へと変える言葉。しかし。

 

「社会において罪を犯したものが裁かれるのは、当然だろう?

 お互いに納得のいく裁きが下ってこそ、社会のあるべき姿だと思うが?」

「……そう、ですね」

 

さも当然といった様子で答える千紗都。

それはまるで自分が絵名に対して言い放った言葉のようで。

合せ鏡のように的確な答えを投げ返され、深みへと堕ちていく。

 

「まあ、今すぐ決めろ、というのも酷な話だな。

 ここに我の連絡先を記しておいた。気が向いたらいつでも連絡するといい」

 

お金と自分のIDが書かれた紙を置いて千紗都はその場を後にする。

お金はしっかりと2人分用意されていた。

 

1人取り残された言葉は呆然としている。

出された料理も既に乾いており、お茶は冷めきっていた。

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