「理那!? 面会時間はもう過ぎてるんじゃ……」
我が物顔で領空侵犯ならぬ病室侵犯を犯す理那。
しかもこちらを油断させるために看護師を装っていた。
言葉は予想外の出来事の連続で完全に参っている。
「まーまー落ち着いて。理由はちゃんと後で説明するし、包帯交換は嘘じゃないから」
その手にはどこからか持ち出したであろう包帯が確かに握られていた。
どこから持ち出したのか不明だが、慣れた手つきで交換を終わらせていく。
「でも本当にやばかったんだからね。トンボが倒れてきたり、ハードルに潰されたりとか……」
「えっと、どうして……?」
「そのなんでは私がここにいる事? それとも包帯の交換の方?
ちなみに包帯はちゃんとここの昔馴染みの人から借りたからちゃんとしたやつだよー」
「いや、そうじゃなくて……えっと、どっちも答えて……」
迫り来る情報の波にすっかり調子を崩してしまう言葉。
戸惑っているうちに頭と腕の交換が終わったようだ。
「じゃあどっちから答えようかなー。どっちがいい?」
「そんなものどちらでもいいだろう」
そんな台詞と共に現れたのは白衣の男性。言葉の担当医であった。
その表情は明らかに不機嫌そうだが、その視線は理那へと向けられている。
「また勝手に忍び込んだな。来るのはせめて面会時間のうちにしろといったはずだが」
「でも面会時間だと他の人も来るからゆっくり話せないしー」
追い出されると思いきや、そのまま言い合いを始めてしまう2人。
『また』ということはこれが1度ではないことは明らかであった。
『昔馴染みの人』とも言っていたため、随分と前から入り浸っているらしい。
完全に置いてきぼりを食らった言葉は仲介のために口を挟むことにする。
「えっと、理那とその人って、知り合いなの?」
「あれ? 言ってなかったっけ。私の親病院勤めだって」
「いや、それは知ってたけど」
「ならよかった。それでこの人が父さん」
「え? ……え?」
あまりに唐突な告白に完全に固まってしまう。
それに対してため息をついた男性は再び言葉へ近づき、目線の高さを合わせた。
「理那が普段世話になっている。私の名前は斑鳩譲太郎。
君の執刀医兼担当医であり、理那の父だ」
「あっ、そうなんですね。ありがとう、ございます」
斑鳩などという名字は言葉の知る限り理那以外知らない。
だがそれ以上に外科医だということは予想外だった。
「気にするな。医者として当然のことをしただけだ」
「そんなこと言って、父さんってば腕がいい癖して全然仕事引き受けてくれないでしょ。
私が必死にお願いしなきゃ診てくれなかった癖にー」
「理那。すまないね、いつもこんな調子じゃ疲れるだろう」
「えっと、はい。正直に言えば」
「ええー、委員長それは『いつもお世話になってます』って言うところでしょ!?」
「院内では静かにしろ」
「あ、はい」
厳格ながらも温厚さを持ち合わせた彼は、言葉の目から見ても優秀な人に写る。
それと同時に、こんな立派な親を持ちながら対照的な子が育つのか、とも。
「ひとまずこの場は見逃してやるが、早く帰るんだな。包帯を交換するのも無しだ」
「はーい、以後気を付けまーす。お仕事頑張ってね」
「ああそうだ。鶴音さんと言ったか。入院期間だが最低でも1週間は経過を見させてもらうよ。
それで退院できるかについては、治り具合にもよるがね」
「はい、わかりました」
理那には釘を刺し、言葉には詳細を伝えて譲太郎は部屋を去る。
一方の理那はそれを見送るも帰る気はないようだ。
そんなに出来が悪いのかと包帯を確認するも以前していたものと大して変わらない。
「もしかして理那がこういうのが上手いのって」
「そ。馬鹿でも応急処置くらい出来るようになれ、ってうるさくってさー」
「確かに理那の成績だとまず無理かもね」
「委員長、なんか今日私に対して当たり強くない?」
これで2回目となる言葉の暴力を受け、流石に素の答えを返す理那。
短期間の精神攻撃は彼女に有効らしい。
「そんなことより明日も学校あるでしょ。早く帰らないと明日に響くよ」
「はいはい。これ以上委員長を怒らせたら不味いからねー。
あ、プリントとかは持ってくるから楽しみにしてて」
「ありがとう」
彼女がいなくなり、再び病室には沈黙が訪れる。
言葉はそれを気に一気に入ってきた情報を落ち着いて整理し始めた。
1つは、自分の担当医が理那の父親であること。
会話の内容から仲が悪いわけではなさそうだ。
何度も病院に侵入しているらしいが、それは立場を利用した物だと思われる。
大体の疑問は、譲太郎の登場のお陰である程度飲み込むことができた。
自分の知る父親の立場にある人物、白石謙とは性格が違うが、それは職業柄の関係もあるのだろう。
『それで、お話は終わったかしら』
「わっ!? MEIKO、帰っててもよかったのに」
『言葉の容態がわかるかも、って思ったから。
それ以上に収穫はあったかもしれないけど』
ベッドの中から声がしたので見てみれば、呆れた様子のMEIKOが口を開いていた。
とっさに隠したためかスリープモードにするのを忘れていたらしい。
そしてMEIKOもまたその場を去らずに話に耳を傾けていたようだ。
「一応KAITOにも伝えておいてくれないかな。少なくとも1週間はそっちにいけないって」
『わかったわ。でも、私達から会いに行くのは構わないわね?』
「夕方は文が来るかもだから外してもらえると助かるかな。
それこそ面会時間外でも問題ないと思うし」
『ふふ、了解よ』
セカイの住民との面会に迷惑がかかるものなどどこにもいない。
彼女達のあり方はこういうときにこそ心強かった。
「それじゃあMEIKO、おやすみ」
『ええ。おやすみ言葉』
そんな安心感を覚えれば自然とまぶたが重くなる。
就寝の挨拶と共に言葉の意識は夢の中へと落ちていくのであった。