荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第12話「不変の末裔」

退院を間近に控えた休日。

朝の検診を終えて、2人の通話がかかってくるか、と待っているところだった。

 

「頼もう! 鶴音言葉のお部屋はこちらで間違いないか!?」

 

扉越しにやたら威勢のいい声が木霊する。

言葉の知る限りそんな口調で話す相手など1人しかいない。

 

「はい。どうぞ」

 

声で入ることを促せば、全身を覆う真っ黒なイノセントドレスに身を包み、

幅の広い帽子にサングラスといった完全防備の少女が現れた。

こんな姿で病院の廊下を歩いてきたのかと思うと、かなり肝が座っていると言える。

 

そしてその手には真っ白な百合の花が入ったガラスケースがあった。

 

「ご無沙汰しています、雲雀さん」

「と言ってもまだ1週間とちょっとだがな。見舞いの花だ、受けとるがいい!」

 

そばにある机にそっと置かれるも香りはしない。生花ではないようだ。

 

「白い花は不謹慎だと言われているが、そんな風評糞食らえだな。

 大事なのは送る心。貴様もそう思うだろう?」

「わからなくはありませんが、強引すぎるもの問題かと」

「そ、そうか。解ってもらえると思ったのだが……」

 

言葉にとって特大ブーメランであることは気にしてはいけない。

バレンタインの一件はその最たる例である。

奇しくもこの2人、善意を押し売りするタイプの人間だったらしい。

 

「それで、明日お見えになると思っていたのですが」

「深夜起きてる身からすれば明日なんて、寝て起きてからに決まっているだろう。

 もしかして、日が変わっている頃には眠っているのが普通なのか?」

「普段なら寝ています。あのときは寝付けなかったので」

「お、おおう、そうだったか。また寝付けない時があれば、また相手をしてやってもいいぞ!」

「それは、気が向いたときにお願いします」

 

形だけの礼を述べつつ言葉は内心怖気づいていた。

いつ彼女を裁く話を持ち出してくるか。ただそれだけが気がかりで仕方がない。

文面では待ってほしいとお願いしたものの、顔を合わせて話していると意識してしまい表情に現れる。

 

「……日差しがキツいな。カーテンを閉めてさせてもらうぞ」

「あっ、はい。構いませんよ」

 

それを知って知らぬか、あくまで自分のペースを貫き通す彼女。

どうやら窓から差し込む光が強かったらしい。

 

カーテンを締め切っても、ぼんやりと日の光が部屋を照らす。

照明をつける必要はなさそうだった。

そこでようやくサングラスを外す千紗都。

 

「やっぱり、きれいな瞳ですね」

「口説いても見舞いの品以外なにも出ないからな!」

「そういう意味で言ったわけではないんですが……」

「解っている。我を初めて見た人は皆、怖がるか物珍しさに驚くかのどちらかだからな」

 

少し嬉しそうな反応を見せるものの、すぐに憂いの表情を浮かべる。

それは彼女の経験によるものだろう。しかしそれを聞くことはない。

 

「相変わらず、なにも聞かないか」

「はい。触れない方がいい過去が多いのは、お互い様ですし」

 

お互いの過去を知っていてもなお、詳細を聞こうとはしない言葉。

その優しさによって救われた人は多い。

──目の前にいる少女を除いては。

 

「貴様はそうして、今まで多くの人に接してきたことだろう。

 でも本当は自分だけが救われたいだけではないか?」

「何を、言ってるんですか?」

「貴様は保身のために追求をしない。

 追求することで関係が破綻し、自身の心が壊れる事を恐れているだけに過ぎない」

 

つらつらと述べられる一言一句は、言葉の心を正確に撃ち抜いていく。

今度こそ逃がしはしないと、その真っ赤な瞳に言葉の姿を捉えていた。

 

「そんな上辺だけの友達ごっこなぞ、はっきり言って子供のままごとよりも幼稚だ」

「そんな、違う! 私にだって、友達が──」

「ではその友達の為に何か貴様がしたことは?

 相手の反応を伺って、一番喜ぶものを選んでいただけではないか?」

「ちが……私は……!」

 

反論しようとしても言葉が出てこない。

いままで自分から誰かの為に動いたことはあるだろうか。

妹の文と言いそうになるも、それは身内故の情によるものだ。

千紗都の言っている事の本質から逸れてしまう。

 

これまでの行いも全てそうだ。

クラス委員を引き受けたのも、誰もやりたがらないから引き受けた仕事。

バレンタインの贈り物も、日頃の感謝を形にしただけのもの。

あの日イベントで助っ人に入ったもの、自分しかその場を持たせられなかったからである。

 

そして何より、いままで友人である理那になにかしてあげられただろうか。

答えは否である。

 

「………」

「はあ、あの夜に会場を沸かせた者が、今や見る影もない、か」

 

完全に沈黙してしまった言葉を見て、千紗都はため息をつく。

 

「……さい」

「どうした? なにか言ってみるがいい」

「うるさい」

 

言葉は無事な方の手のひらを握りしめる。それこそ、血が出てもおかしくないほどに。

 

「私のことなんて何も知らないくせに、言いたいことだけ言って、

 そんなに人を苛めるのが楽しいんですか」

「確かに何も知らんさ。だがこれだけははっきり言えることがある。

 貴様も我も、あの日から何も変わっていない。何1つとしてな」

 

共に親を殺し殺されたあの日から、2人の時は止まったままだ。

セカイで本当の想いを見つけられたとして、

それだけで人が救われるほど現実は、人生は甘くない。

 

「だからこそ、我は貴様に裁かれねばならないのだ」

 

まるでそれは、言葉が裁くことで前に進めるといっているようで。

完全に説き伏せられた言葉には沈黙することしかできない。

そんな彼女を見て、失望したかのように部屋を後にする千紗都。

 

言葉の地獄は、まだ続いていた。

 




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