荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第12話「守るだけの存在」

 

家に帰ると玄関に文の靴が散らばっていた。そのまま家に帰っていたらしい。

なるべく気にしないように自分の部屋へと戻り、楽器ケースを奥へとしまう。

 

これでもう二度と使うことはないだろう。自分の腕前は落ちぶれ妹からも指摘された。

これからは文の為にも頑張ってバイトに専念していこう。

 

「言葉、文、ご飯ですよー」

「はーい」

 

叔母さんが下から声をかけたので食卓へ。しかしいつまでたっても文は現れない。

普段なら真っ先に降りてくるか私を呼びに来るかのどちらかだというのに、

二、三度呼びかけても降りてこない所を見るに何かあったのだろうか。

 

「音楽でも聴いてるのかしら?」

「そうかも。私呼んでくる」

 

部屋の前まで移動して数回ノック。返事は帰ってこない。

 

「文? ご飯だけど」

 

声をかけても一向に返事が返ってこない。

叔母さんの言うように音楽でも聴いているのだろうか。

 

「文、入るよ?」

「あー! ちょっと待って待って! 今行く! 今行くから!!」

 

ノックを繰り返し、ドアノブに手をかけた瞬間部屋の中から文の声が慌てて飛び出してくる。

声に驚き後ろにたじろいだお蔭もあってぶつかることはなかった。

 

「お姉ちゃん、見た!?」

「えっと、見たって何を……」

「あ、そっか、見てないなら、大丈夫」

 

肩で息をしながら扉を庇うようにして必死に問いかけてくる彼女に戸惑いながら返事をすると、

安堵したように大きく深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 

「何してたの?」

「えーっと……ミクちゃんの曲聞いてたの」

「そっか」

 

何か隠している様子だけれど落ち込んでいる様子ではない為、深く追及はしないでおこう。

二人で階段を下りて食卓へ。

叔父さんと叔母さんが心配して文に質問を飛ばすも、私と同じ返事を返した。

皆が席に着いたところで食事が始まる。

今日の話題も特になし。意外だったのは文が今日の私のことについて話さなかったことだ。

以前なら私がフルートを出していただけで話題に上げていたというのに。

それどころか。

 

「ごちそうさま!」

 

大急ぎで食事を終えたと思ったら途端に自分の部屋へと戻っていった。

 

「何かあったのかしら?」

「私達が口出しすることでもないでしょう。どちらにせよ、夢中になれるのはいいことです」

「夢中になれること……」

 

あの子を一言で表すなら、多趣味。

いろんなことにとりあえず手を出して合うか合わないか確かめる子。

そのため夢中になれることは私より少ないが、何でも楽しむことができる凄い妹だ。

そんな彼女が晩御飯に気付かないくらい夢中になれることがあるのは、誇らしいことでもあった。

 

「言葉さんの方は余り箸が進んでいないようですが、何か気になることでもありましたか?」

「もしかして味付けが口に合わなかった?」

「えっ、あっ、大丈夫。文が凄く早かったから驚いちゃって」

 

指摘されてはじめて気付くが、二人より箸の進みが遅かった。

確かに文の食べる光景に圧倒されたのもあるけれど、それ以前にあまり食欲がなかった。

それでも心配させてはいけないと箸を進めなんとか食べきる。

 

「ごちそうさま。今日もおいしかった」

 

そう言って席を立ち自分の部屋へ向かう。

その時妹の部屋の前で耳をそばだてるも中からは何も聞こえてこなかった。

 

部屋に入りUntitledを起動しようとして、やめる。

本当ならMEIKOに報告すべきなのだがどうしてかそんな気が起きない。

 

『だったら、私が思い出させてあげるから!』

 

目を閉じれば思い出されるあの時の文の言葉が、ずっと私の頭に染みついて離れない。

思い出させる、とはいったい何のことだろうか。もしかしてあの子もセカイのことを知っていて。

それは考えすぎかもしれない。私みたいに一度諦めたような子じゃないから。

 

頭を切り替えて勉強をしていると扉をノックされる。

 

「お姉ちゃん、入っていい?」

「文? いいよ」

 

先ほどとは打って変わってあまり元気がないが、その手にはスマートホンがある。

もしかして本当にセカイ、と思ったところで私の耳にイヤホンをはめ込んだ。

そこから聞こえてくるのは、たどたどしい女の子の声。

世界でもっとも有名なバーチャルシンガーの声。

 

「ミクの曲……?」

 

それでも私はこんな曲とも言えない歌を聞いたことはない。

まるで初めて使った人が作った曲のような。

 

「もしかして、これ、文が?」

「……うん」

 

そして彼女は語る。私が忘れてしまった何かを思い出させるために自分で曲を作ったのだと。

自分の好きな曲を作っている人のように神調教とは言えず、

自分の好きな曲を作っている人のように素敵な歌詞ではない。

それでも、作らないわけにはいかなかったのだと。

 

私はそれを聞いて目を伏せる。この子はここまで成長していたのだと実感する。

たどたどしいながらも、必死になって音楽に打ち込んだ。

これからも続けていけばきっと私より凄い音楽を奏でることができるだろう。

──どうやら、このままの私ではまだ足りないらしい。もっともっと、この子に応える為にも。

 

「……そっか。なら、もっと頑張らなきゃね」

「お姉ちゃん?」

「音楽をやるにはもっとお金がいるからね。来月からはもっと働くからもうちょっと待ってて」

 

私が言い終えた時頬に鋭い痛みが走る。

一瞬のことで何が起きたか分からなかったけれど、響く痛みが実感を沸かせる。

 

「お姉ちゃんの馬鹿!」

 

そう言い残した文は、部屋を飛び出していってしまうのだった。

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