荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第16話「荒療治」

 

理那はあったこと全てを一言一句自分の記憶を頼りに、話し終えた。

想像以上の出来事に杏は頭を悩ますものの、お互いに解らないことが多い。

 

「ごめんね杏、こんな話聞かせちゃってさ」

「ううん、聞いたのは私だし、そこそこ覚悟してたからさ。でも……」

 

問題は言葉がそうなった原因。それが解らないからには解決しようがない。

それに加えて、杏は既に父から踏み込みすぎないように言われている。

その事情から本当の意味で自分が踏みいってはならない類の話だと理解した。

 

それでも、彼女には音楽を続けてほしかった。

もしかすれば、あの日の伝説を越えられる最高の仲間になりえるというのに。

 

「友達であり続けるのって、難しいね」

 

すっかり意気消沈している理那を見て、少し違和感を覚える杏。

 

「あのさ、友達って一方的になるものじゃないと思うんだよね」

「……まあ、そうだよね」

「お互いに好きなこととか話したりしてさ、相手の事解っていって……

 だから一回、話してみたら? 鶴音さんならきっとわかってくれるって」

 

ありきたりな答えだが、ここで堂々巡りを繰り返していても始まらない。

背中を押す杏だが、相変わらず理那の表情は暗かった。

 

『一緒にいられるだけでも嬉しいなんて、自分でもおかしいって気づかない?』

 

一方で理那の心には深く突き刺さっている。その歪さに自分でさえも気づけなかった。

いや、気づいていたが見ないふりをしていた。

『ビビッと来たから』という言葉に隠れた、本当の理由。

 

「……ちょっと、昔話をしよっか」

「杏の? 何、初恋の話?」

「そんなわけ……って思ったけど間違ってないかも。あれは確かに一目惚れだったし」

「友達が落ち込んでるのに惚気話? まったく風紀委員様もお人が悪い~」

「はいはい。冗談言ってないで始めるよ」

 

冗談をかます理那だったが、当たらずも遠からずと言ったところ。

まだそれだけ言える元気があるのだと理解した杏も、後腐れなく話し始める。

 

それは自分が相棒を見つけた時のこと。

自分の夢を一緒に叶えると決めて前に進むと決めた相棒の話。

そして何よりも。

 

『私、こはねの相棒なのに……守れなかった』

 

それはかつて『STAY GOLD』に出場したときのこと。

自分の相棒を守ろうとしていたこと。

それは自分が真の意味で相棒を信じられなかったこと。

 

──それでも。

 

『誰より一番、こはねに信じてもらえるようになる!

 こはねのことを信じて歌うから! だから──

 こんな私だけど、これからも、こはねの相棒でいさせてくれないかな?』

 

今の仲間やかつての幼馴染みの力を借りて、もう一度信じてみせると誓った。

再び相棒として立つことを決めた。

 

「理那だって、鶴音さんと友達でいたいんでしょ。ならちゃんと話さなきゃ」

 

客観的になってはじめて気付く事がある。そこにいる少女は、かつての自分のようだと。

だからその背中を押した。前に進めるようにと。

 

「……ははっ、これは杏に一本とられちゃったな」

 

自虐的に笑う少女は、再び中庭へ目を向ける。

既に言葉の姿はなかったが、なにかを決心したようだった。

 

「ありがとう杏、あなたが友達でよかった」

「友達なんだから、当然でしょ」

 

お互いに笑い合う。

しかしその晴れやかな空気をぶち壊すように予鈴が鳴り響く。

 

「あ、やっば! もうすぐお昼終わっちゃうじゃん!」

「えー! 私全然お昼食べられてないんだけどー!」

 

屋上ではそんな賑やかな声が木霊するのであった。

 

 

 

時は経ち、授業の終わりを告げる鐘がなる。

日は傾きほんのりと空を赤く染めていた。

 

「委員長、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな」

「理那……何? 用件だったらここで聞くけど」

 

誰よりも真っ先に言葉の元へとやって来たのは理那だった。

しかもその雰囲気たるや今までとはまるで違う。

言葉はそれが彼女の父親に似たものだということを本能的に感じ取った。

 

「先生が待ってるから、急いで準備して」

「先生って、どの先生?」

「……あーもー! そんなのどうでもいいから来て!」

 

よほど乗り気ではないのか、会話の本筋を聞き出そうとする言葉に対し、

痺れを切らして左手を取る理那。ちゃっかり空いた手には言葉の鞄が下げられている。

 

ずかずかと我が物顔で廊下を歩き、ある空き教室へと連れ込む。

しかも念入りなことに鍵までかけた。

 

「なにかあったとは思ったけど、まさか患者にここまでするなんてね。

 医者であるお父さんが泣いてるよ」

 

逃げ場がないと観念しつつも、その目は怒っていた。

それでも理那が怯むことはない。

 

「父さんは別に関係ないよ。それに父さんも自分の患者じゃないって言ってたし」

「そう。まあ、あんなことしたら当然だよね」

 

どういう人かは短い間ながらも濃厚な問答によっておおよその判断はついている。

それこそ人の意思に重きを置いている彼なら、

拒む患者を受けいるのはまっぴらごめんだろう。

 

「委員長、言ったよね。一緒にいられるだけで嬉しいなんて、おかしいって」

「うん。だってそんなの友人じゃないから」

「解った。この際なんでそうなったかなんて聞かない。だけど、私の話を聞いてほしい」

「理那の、話?」

 

言葉は覚悟していた。自分がおかしくなった理由を問い詰めるのだと。

それを避けるための文言は思い付く限り考えてきた。

しかし予想は外れた。

思いがけない言葉に思わず心構えが崩れ、思わず口に出る。

 

理那はそれを好機と捉え話し始めた。

自分の見て見ぬふりをしてきた過去について。

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