荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第20話「審判の後」

あれからというもの、千紗都が言葉の前に現れることは無くなった。

その代わりナイトコードには定期的にインしており、

ゲームの暇潰しにボイスチャットを要求される等、少し変わった交流関係を結んでいる。

 

『それで、リハビリの方は順調か?』

「はい、お陰さまで。演奏の方も再開できる程度には」

 

そして今まさにチャット中の相手が彼女であった。

 

『ならば良し。審判者がいない舞台など、無価値にも程があるからな』

「そうですね」

 

噂以上の腕を持つ理那の父のお陰か、通常よりもずいぶん早い回復を見せている。

そして何より言葉自身の迷いがなくなったもの影響していた。

過去の悲しみを乗り越えた分前に進むことが出来るように。

 

言葉の中には、まだ彼女の人生を狂わせてしまったという悔いが残っている。

そういった意味では『音楽を続ける』ということ自体自分への裁きになっていた。

 

自分の音楽を奏で続ける。それだけでは進む理由としてはまだ心もとない。

使命感や義務によって自らを進ませる。

真っ向からぶつかってくる千紗都の存在もまた、言葉にとっては必要なのだろう。

 

「でも、あの、その口調と呼び方は止めていただきませんか」

『何故だ、この方が我も貴様もカッコいいではないか?』

「では裁きに追加します。その口調と呼び方をやめてください」

『フハハハ、残念だったな! 我が身は1つ故、受けられる裁きも1つまでだ!』

 

それはそれとして、まだ千紗都の態度には慣れなかった。

下手をすれば変人ワンツーフィニッシュと名高い司のソレを越えるかもしれない。

同じくテンションが高い2人がいるものの、文は妹であり、理那は友達だ。

許容できる範囲に違いはあれど、ここから先心労が計り知れない。

裁きに追加し抑制しようにも、うまいことを言ってかわされる。

 

『しかしなんだ。審判者たっての願いであれば聞き入れようではないか』

「ありがとうございます。では今後はそのように」

『善処しよう』

 

お互いに笑みをこぼしあい、何気ない会話に花を咲かせていく。

こんな口調だが彼女も悪い人ではないことは知っている。

こうして過去から続く因縁に、一旦の終止符が打たれることとなった。

 

 

 

「皆おはよー! はよー!」

 

言葉がいつものように自分の席で読書をしていると、扉が開け放たれ元気な声が木霊する。

 

「どうしたのさ理那、いつもより元気じゃん」

「なにかいいことでもあった?」

「さてはついに彼氏でも手にいれたなー?」

「あはは、私が彼氏とか世界が滅んでもあり得ないって。いいことがあったのは確かだけど」

 

友達がそのテンションについて冗談混じりに話しかけてくるが、

それを軽くいなして言葉の元へと駆け寄った。

 

「おはっよ言葉! 今日はなんの本読んでるの?」

「今日は人とアンドロイドの恋物語、かな。結構面白いよ」

「げ、それって悲恋確定じゃん」

 

小説のタイトルを見て顔をしかめる理那。

彼女があの時歌った歌も対して変わらないと思うが、とは口が裂けても言えなかった。

 

「話は変わるんだけどさ、言葉って楽器屋でバイトしてたよね」

「うん。そうだけど、それがどうかした?」

「店員さんと見込んで、ちょっと放課後付き合ってほしいんだー」

「分かった。私でよければ」

「ありがと! じゃあまた放課後ねー!」

 

そう言い残し他の友達の元へ駆けていく。

 

「理那、なんかいつもと違わない? 前まではあんなにそっけなかったのに」

「あはは、昔のことなんて記憶にありませーん」

 

普段と違う彼女の様子に質問の雨を受けながら、曇りない笑顔で答える彼女。

気にしても仕方ない、と他の友達も諦めていつも通りの理那を受け入れるのであった。

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

放課後、2人は言葉のバイト先である楽器店を訪れていた。

店員に見送られる理那の手はDJ機材で溢れ帰っている。

 

「いやー買った買った! ありがとね言葉。お陰でいい買い物出来たよ」

「でも急にどうしたの? そんなにDJ機材買い集めて」

 

普段はカフェや娯楽施設に足を運ぶ彼女が、ここを訪れるなんて珍しい。

自分が働いている間でさえ、その姿を見たことはなかった。

 

「ほら、この前彰人君にフェスのチラシ見せられてたでしょ?

 言葉も頑張ってるし私も何かやってみようかなって」

「え、理那も……?」

「だってその方が面白そうじゃん」

 

もしかして自分が千紗都に言ったことが影響しているのだろうか。

そんな悪い予感が心を過るも、純粋な彼女の放った台詞で否定される。

 

「ほらほら、私みたいなか弱い乙女にばっかり持たせてないで、

 言葉も少しは持ってくれないかなー?」

「私も女なんだけど……分かった。ただし重すぎるのはダメだよ」

「おっとっと……あっ!」

 

リハビリもかねて本が詰められた一番軽い袋を手に取る。

しかしそれで重心がずれたのか、態勢を崩す理那。

すぐそばを通りかかろうとした赤髪の少女にぶつかってしまう。

 

「わわわ! 大丈夫ですか?」

「大丈夫です、ちょっとバランス崩しちゃって──」

「あ、恩人さんだ!」

「って、文ちゃんじゃん! 久しぶり、元気してた?」

 

しかしそれは言葉の妹──鶴音文だった。

 

「はい、元気いっぱいです! 恩人さんはどうしたんですか?」

「これ? 私も言葉……文ちゃんのお姉さんに肖って音楽始めよっかなって」

 

理那が文に見せるのは、袋に詰められたDJ機材の数々。

文が恩人さん、という呼び方なのか言葉も理解が出来なかったが、

詳しく追求することはせず、理那の後ろに隠れるように見守っていた。

一段と明るく話す文は、ようやくその後ろに隠れていた姉の存在に気がつく。

 

「あ、お姉ちゃん! 今日バイトじゃなかったの?」

「今日は休みだよ。そのかわりに友達と寄り道」

 

その友達、という言葉に思わず頬が緩む。するとなぜか文がその胸元に飛び込んだ。

 

「ふ、文!?」

「えへへ、やっぱりお姉ちゃん大好き!」

 

人目が気になりつつも、久々に思いっきり甘えてきた妹をないがしろに出来ず、

言葉は気がすむまでそうさせるのであった。

 

 




ご無沙汰しております、kasyopaです。
まずはお気に入りおよび評価ありがとうございます。
とても励みになるのでこれからもよろしくお願いします。
お気に入り100件……行けるといいな。

さて、第2部の序章となる「断罪と贖罪のジャッジメント」でしたが、
予告通りの既キャラとの絡みが絶望的になりましたがご容赦ください。

オリキャラも実質4人に増えて大所帯となってきましたが、
物語はまだ続きます。
まだまだプロセカのイベントも続いてますから。

次回はちょっとしたサイドストーリーを挟みつつ、
進展した関係性を活かして記念話とかも書いていきたいですね。

では、今回はこの辺りで。
長い小説となりましすが、
ここまで読んでいただき皆様本当にありがとうございます。
毎日更新頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!

最後に更新状況や趣味などの雑多垢ですが、
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