荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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エンジョイチャレンジャー 前編

 

放課後の体育館でシューズの擦れる音とボールが弾むが響き渡る。

ゴール前のディフェンスに臆せず、前へとドリブルを続ける。

残り時間僅かというところで、少女が力強く踏み込んだ。

 

「どりゃああああ!!」

 

金色の髪を揺らしながら理那がボールをリングに叩きつける。

試合終了を告げるブザーが鳴り響くと共に周りから歓声が上がった。

それと同時に顧問の先生が慌てて飛んでくる。

 

「斑鳩さん! ダンクは危険なので禁止です!」

「えー、せっかく決めたのにー」

「今度やったら退場にしますよ、いいですね!!」

「はーい。肝に命じてまーす」

「ちょっとくらい許してもいいじゃん! かっこいいんだし!」

「そうだそうだー!」

 

部活の顧問である先生が怒りながらその場を去っていく。

そんな先生に対して観客達はブーイングを飛ばした。

 

「理那ってば人気者だよね。今日もギャラリー出来ちゃってるし」

「そうだねー。このままバスケ部入っちゃえば?」

「あはは、嬉しいお誘いだけどそれすると出来なくなることも多いから無理かな」

 

チームメンバーが駆け寄りながらも辺りを見渡す。

コートのすみには多くのギャラリーができていた。

 

「ちょっとバスケ部ー、抜け駆け禁止だよー」

「そうだぞー、理那はバレー部こそ相応しいんだから」

「それならソフトボールだって負けてないよー!」

 

そのギャラリーの目的は観戦もあるが、理那の勧誘でもある。

1年生だけでなく、2年生の姿もちらほらと見られた。

入学当初からその身体能力を遺憾なく発揮し、

運動系の部活を一通りやって見せた理那。

 

今は同年代の杏や彰人の様に助っ人として駆り出されているが、

杏とは違い高身長に加えパワーもある理那はまた違った人気を呼んでいる。

そんな誰のものにもならない彼女を、唯一射止めた存在がいた。

 

「あ! 言葉!」

 

ギャラリーの中に埋もれるように見守っていたのは言葉。

それを見つけるや否や全速力で駆け寄った。

 

「珍しいじゃん部活の見学に来るなんて。もしかして入部したりするの?」

「ううん。運動は苦手だし学級委員の仕事もあるから入りはしないけど、理那が頑張ってるから」

 

そう言って差し出したのはスポーツドリンクだった。

理那も自分用のドリンクはあるものの、それを受け取り一気に飲み干す。

 

「いよーっし、言葉のお陰で元気満タン! それじゃ行ってくるね!」

「無理だけはしないでね」

「わーかってるって!」

 

再び試合が始まるところを眺める言葉。

しかし先程の様子を見ていた他のギャラリーは、あることを思い付く。

 

「ねえ鶴音さん、良かったら理那にバレー部に入ってくれないかお願いしてくれない?」

「あっ、ずるいぞバレー部! 鶴音さん、ソフトボール部のマネージャーやってみない?」

「お誘い嬉しいですが、お断りします」

 

言葉を中継すれば理那の勧誘も容易い、と思ったのだろう。

しかし言葉の方を口説き落とす方が圧倒的に難しく、それは日頃の行いにも現れていた。

 

あの手この手を駆使する運動部員達であったが結局鳴かず飛ばずで観戦へと戻っていく。

試合ではリング下に駆け込んだ理那が再びダンクを決めていた。

 

「よっしゃー! 言葉見てたー!?」

「斑鳩さん、退場!!」

「ええっ!? 言葉にかっこいいとこ見せたかっただけなのにー」

「それでもです! 第一に安全を守ってください!」

「でもルールにダンクしちゃダメって書いてないじゃん」

「ルールと設備の安全は別問題です!」

 

いつもは素直に謝るものの、舞い上がっている為か顧問と口論を始めてしまう。

それは見かねた言葉が理那をなだめるまで止まることはなかった。

 

それを見ていたギャラリーは皆、頭に同じことを思い浮かべる。

理那を良くも悪くも御することが出来るのは言葉しかいない、と。

 

 

 

部活を終えて体育館を後にした2人は、校内の自販機を訪れる。

しかしそこには2人の先客がいた。

 

「お、杏に彰人君じゃん。お疲れー」

「お疲れ理那。って鶴音さんも一緒って珍しいね」

「いや、こいつらが一緒にいることなんていつもの……いや、この時間に委員長がいるのも珍しいか」

「ちょっと見学してたの。2人も助っ人?」

「まあな」

 

それぞれが飲み物を購入し、そばのベンチに腰かける。

そこから始まるのは他愛ない部活談義であった。

 

「私は陸上で彰人はサッカー。そういえば理那、またなんかやらかしたでしょ」

「えー? なんのことかなー」

「体育館で騒いでただろ。乱闘騒ぎでもあったんじゃねーの」

「喧嘩は自信あるけど違う違う。先生がダンク禁止だってうるさくって」

「いや、女の子がダンクって……それにあれゴール痛めるから学校じゃ禁止だよ?」

 

一方で言葉は会話には混じらず、ちびちびと缶を傾けている。

そんないつもの態度を決め込む彼女に対し、悪戯に彰人が話題を振った。

 

「委員長もちょっとくらい体動かした方がいいんじゃねえか?

 この前の体力測定、ボロボロだったろ」

「あれは……別に選手とか自衛官とかにならなきゃ問題ないし」

「あれ、鶴音さんって運動苦手なんだ。ちょっと意外かも。

 結果はどうだった?」

「全滅。あれは全国最下位から探した方が早く見つかるレベルだな」

「え、嘘! そんなことってある?」

「……マラソンと水泳なら得意なのに」

「うちの学校シャトルランだもんねー。言葉の栄養全部頭にいってるんだよきっと」

 

運動全般が苦手という訳ではないものの、

学生における競技に関してはことごとく敗北を期している言葉。

例え遊戯施設のスポーツであっても不得意であった。

ある意味この2人も対照的なのだろう。

 

「とりあえず3人とも部活や趣味もいいけど、

 もうすぐ学年末テストに備えて勉強しないとね」

「「「うっ……」」」

 

お返しとばかりに口を開いた言葉と黙りこむ3人。

それぞれの相棒から勉強を教えられる日々が始まるのは、そう遠くはなかった。

 

 

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