ある日の放課後。
趣味の面白いもの探しをしていた理那は、校舎裏で不思議なものを見つける。
灰色がかった緑色の髪に紫色の瞳。
ここまで語れば人に違いないが、相違点が2つあった。
着ぐるみのようにずんぐりむっくりした容姿と、衣装こそ本物ではあるが鋼鉄の体を持っている。
大きさ的には大体140ちょっとくらいであった。
「なにこれ、ロボット? でもどこかでみたことあるような……」
愛くるしいとは言いがたい容姿ではあるものの、
学校の授業や工業系の部活であっても到底作れないほどの洗礼されたデザイン。
そしてその為か既視感も同時に覚えていた。
「とりあえず電源とかないかな? あったら起動させてみて──」
「おっと、悪いけどそこまでにしておいてくれるかな?」
「ん?」
スイッチがないかとロボットをまさぐる理那に、誰かが声をかける。
変な体勢のまま顔だけそちらに向ければ、紫髪の青年が鞄を肩から下げそばに立っていた。
「あーすみません。ちょっと好奇心がそそられちゃって……なんにもしてないので大丈夫ですよ」
「それならよかった。しかし珍しいこともあるものだね。
理由もなくこんなところまでやって来る生徒はいないと思っていたけど」
「そっちこそ人のこと言えないんじゃないです、神代セーンパイ?」
「フフ、僕にはちょっとした理由があったからね」
改めて向き直り、謝罪を終えたと思えば言葉を交わす2人。
一方は変人と名高い神代類。もう一方はムードメーカーと名高い斑鳩理那。
あまり関わったことがないものの、底知れぬ者同士の駆け引きが行われていた。
「とりあえずその理由っての、見せてもらってもいいです?」
「構わないとも。ただし君がこの事を言いふらさないと約束してくれたなら、ね」
「それを守らなかったら?」
「ありきたりで悪いけれど、夜道には気を付けた方がいい、というべきかな」
「アハハ、神代先輩もお人が悪いなー。オッケー、じゃあそれでいきましょう」
舌戦の末、両手をあげた理那は後ろに引き下がる。
それを確認した後類は鞄の中から工具を広げ、ロボットのメンテナンスを始めた。
その様子を邪魔にならない程度の距離で見つめる。
「そのロボットって神代先輩が作ったんです? なんかどこかで見たことあると思ったんですけど」
「ちゃんとしたモチーフがいるからね。機会があればその内紹介するよ」
「ありがとうございまーす。ところでそのロボットは何用です?
何かのPR用? それとも介護とか……」
「僕達のショーで使うのさ。といっても今は僕達の大切な仲間、だけどね」
「……へー。中々いいこと言うじゃないですか」
ロボットの中に見える幾多の配線や回路は、到底人とは思えない。
しかし医学の勉強で内臓などに見慣れた理那にとって、それは大した違いはなかった。
心や感情に関して人一倍敏感であるために、そういった解釈には寛大である。
「でもロボットがやるショーかー……それなら病院とかでやっても問題ないですもんね」
「と、いうと?」
「ほら、体が弱くて外に出られない子とかいるじゃないですか。無菌室っていうの。
それに、元気だけど移るから人に会っちゃダメな子とか」
「確かに……そういう子供達も少なくはないね」
しかしどうしても昔の経験からそういった運用方法を考えてしまう。
心の治癒に重きを置く理那ならではの発想ではあった。
「あーなんかすみません暗い話しちゃって」
「いや、君の言う通りだ。考えていないわけではなかったけれど、言われると響くものがあるね」
「それはどうも」
ある程度のメンテナンスを終え、再び理那に向き直る類。
司の夢を聞いていれば自ずと出てくる病弱な妹の存在。
いまでこそ学校に通っており、一度交流を持ったこともあるが、
彼女以外にもそういった子供は少なくない。
「さて、メンテナンスはこれで終わりだ。
後は軽い動作チェックと行きたいけれど、彼女のお気に召すかは本人に見てもらわないとね」
「あれ、神代先輩が使ってるんじゃないです?」
「僕はあくまで設計者だよ。……と、噂をすれば」
類が校舎の影に目をやると、そこにはロボットと瓜二つの少女──寧々が顔を覗かせていた。
理那も釣られてその方へと目をやれば、完全に隠れてしまう。
「ふーん、なるほどね。ありがとう神代先輩。
動いているところも見たかったけど……ま、ここはお暇しますか」
「気を使わせてしまってすまないね。また機会があればお見せしようじゃないか」
「楽しみにしてまーす」
ひらひらと手を振りながら、寧々とは逆の方向へと歩いていく。
そんな気遣いも彼女のムードメーカーたる所以なのだろうと、類はその背中を見送った。
////////////////////
「フフ、あれが斑鳩理那くんか。中々すみに置けないね」
「類、どうかしたの?」
「いいや、なんでもないよ。さあ、動作チェックといこうか」
噂で仕入れたその名前を呟きながらも、そばにやって来た寧々に声をかけられる。
誤魔化すようにネネロボのスイッチを入れた。
「ねえ類、あの人って確か鶴音さんの友達でしょ。どんなこと話してたの」
「世間話を少々。後は彼女の人柄について、かな」
「へえ……ショーのこと以外で人と話すなんて珍しいじゃん」
鶴音言葉の数少ない友人。その第一人者。
腹の中は見えなくとも先程の話から心の内は見てとれる。
寧々の指示通りに動くネネロボは、心なしかいつもより繊細な様に見えるのだった。