荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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完全無欠の一端 前編

雲雀千紗都は夜行性である。出不精ではない。

今日も己が欲望を満たすために夜の街に駆り出していた。

 

ガラス張りの扉が開かれれば、幾重にも重ねられた音が四方八方から飛び交う。

もはやそれぞれがどんな音を発しているかもわからず、さながらそれは騒音の様だった。

それらに合わせて密に並べられた機械が赤・青・緑・ピンクを初めとした光を放つ。

 

千紗都はそんな喧騒の中に歩を進め、ひとつの機械の前で財布を取り出した。

 

取り出した万札を機械の中へ投入し、点灯するボタンを勢いよく押す。

すると機械の下部から大量に銀のコインが吐き出された。

 

「ハッハッハ! これで我も億万長者よ!」

「……それは両替機だが?」

「ぬお!?」

 

上機嫌になって高笑いする彼女の後ろから、1人の青年が声をかけた。

紺の髪と脱色したような水色。そして何よりもその高身長。

唐突に声をかけられたこともあり思わず飛び引くも、その姿を納めると落ち着きを見せた。

 

「ああ、どこか見覚えがあると思えばVivid BAD SQUADの。

 急なトラブルであっても見事な対応力。そして華麗な歌声にダンスだった。素晴らしかったぞ」

「? ああ、あの時に来てくれていたお客さんでしたか。ありがとうございます」

「おっとすまない、両替の邪魔をしたな。我はここで失礼する」

 

称賛しつつ硬貨を回収して両替機を空ける千紗都。

そんな変わった容姿と口調の少女の背中をただ見つめる冬弥だった。

 

 

 

音楽ゲーム・格闘ゲーム・大型のカードゲームにアクションゲーム。

様々なアーケードゲームを巡りながら一通りプレイしていく千紗都。

そんな中でも一際異彩を放つプレイをしていたのは──

 

手で銃を構え、画面に向けて引き金を引く。

速射もさることながら、狙いは極めて正確であり稼ぎも確実に行う少女の姿は、

自然と通りかかる人を引き付けていった。

 

「おいあの子すげぇな。結構難しいって噂だぞ」

「ああ、でもしっかりスコアも稼いでるしエイムも完璧だ。

 どんだけやりこんだらあんなプレイ出来るんだ……」

 

ギャラリーが息を飲んで見守る中、

1コインで6つすべてのステージを制覇した彼女は、最後に名前を打ち込む。

そこに表示されたランキングのスコアはすべて彼女のものだった。

 

「ハイスコアには届かず、か。まあいい」

「ウッソだろ、あのスコア全部あの子が出したのかよ!?」

「もしかしたら対した難易度じゃないのかもな。ちょっとやってみようぜ」

 

沸き立つギャラリーを尻目にその場を去れば、

自分達も出来るかもと一部の人達がプレイを開始する。

しかしそんな淡い期待もすぐに打ち砕かれてしまった。

 

1コインでクリアするどころか、2つ目のステージであえなく撃沈していく。

それを見て我こそはと挑戦者が現れてはその近辺が盛り上がっていった。

 

「これこそゲームセンターの醍醐味よな」

 

そんな光景を眺めるのも程ほどにその場を後にしようとしたところで、

冬弥がクレーンゲームをプレイしているところを見つける。

その筐体の中にあるのは、30センチはあろうかという大きなぬいぐるみだった。

 

「(ほう、彼女にでもプレゼントするのか? しかしあのサイズでは到底……)」

 

邪魔にならない位置からその様子を眺めている事にする千紗都。

すると器用に機械を操り、ぬいぐるみの自重(じじゅう)で獲得口まで滑り落とした。

 

「なんと! そのような手があったとは!」

「あなたは先程の……」

 

予想だにしない方法で景品を獲得する彼に対し感嘆の声をあげる。

自然と興味が沸いた千紗都はこれを機会にと話しかけることにした。

 

「いやあ、見事な手腕であった。ちょっとやそっとでは驚かぬ我も、思わず声をあげてしまったぞ」

「それはどうも。……もしよければ、受け取ってくれませんか」

「ぬ? 何故だ、家に持って帰るなり彼女に渡すなりすればよかろう」

「いえ、彼女はいませんし、家に持って帰るのは……」

「ふーむ、ならば挑戦しなければよかろう、というのも酷だな。

 我でよければ引き取ろう」

「助かります」

 

言い淀む彼のトーンから、おおよその事情を汲み取った千紗都は袋ごと受け取る。

もとより手荷物が少なかったため、対した苦ではなかった。

 

「しかし、譲り受けたとはいえ貰いっぱなしは我の性に合わん。

 これを獲得するのにかけた金額はいくらだ?」

「いえ、気にしないでください。俺がやりたくてやったことなので」

「むう、なかなかに強情よな。我が良いと言っているのだ。そのまま受けとればよかろう」

「それでもです。俺からすれば受け取ってくれただけでも十分ですから」

 

お互い一歩も引かぬままその場で均衡を保つ。

端から見れば痴話喧嘩の様に見えるが、

千紗都の口調と内容からしてすぐにそうではないとわかる。

 

「あ、青柳くん!」

 

そんな中、1人の少女が青年に気付き駆け寄ってくる。

千紗都よりも一回り背の高い少女ではあるが、気迫はどこにもない。

 

「ん、小豆沢か。どうした?」

「もうすぐ集合時間だから呼びに来たんだけど……あれ、そっちの人ってこの前の」

「おお、貴女はあの時の。時間をとらせてしまっていたか。申し訳ないことをした」

「ああえっと! そこまで気にしないでください」

 

集合時間、という言葉を聞いて詫びを入れる少女。

その律儀な様子にこはねは両手を振りながら否定する。

 

「いや、この度の非礼を詫びよう。そしていつかまた、この恩は返させてもらう。ではサラバだ」

 

大きな袋を担いで店を後にする。

その姿が完全に見えなくなってから、こはねは冬弥に問いかけた。

 

「えっと、もしかして邪魔しちゃった?」

「いや、小豆沢のお陰で助かった。あのままでは堂々巡りだったからな。

 それよりも、あの少女について何か知っていたのか?」

「うん。この前文ちゃん達が助っ人に入ってくれた時のお客さん。

 確か雲雀千紗都さん……って言ってたかな」

 

ある意味忘れもしないあの日の夜。あの独特な容姿に口調。

今でもこはねの記憶には鮮明に残っていた。

 

「(雲雀……まさかとは思うが……いや、確かめた方が良さそうだ)」

「青柳くん? どうかしたの?」

「ああいや、なんでもない。それより彰人達を待たせない様にしないとな」

 

何か思い当たる節がある冬弥であったが、自分だけで見つけられるものではない。

こうして2人もゲームセンターを後にするのであった。

 

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