暗室に携帯のアラームが鳴り響く。
ベッドの上で白髪の少女がモゾモゾと動き、解除すると再び引っ込めた。
二度寝を決め込む様子であるがそれをアラームが許さない。
解除しても5分おきに一連の動作が繰り返され、
6回目といったところでようやく少女──雲雀千紗都は起き出した。
「ぬぅ……毎度の事ながら低血圧には厳しいな……」
頭を掻きながらも着替えることはせず、スマホで今日の予定を確認する。
そこには「授業日」とだけ書かれていた。
「スクーリングか……面倒な」
通信制高校に通う千紗都であるが、全て自宅で完結する訳ではない。
通う学校や受ける授業によっては実際の授業を受けることが義務付けられている。
千紗都の場合は月2のペースで学校に赴いていた。
しかし当然ながら授業時間は昼。
日差しそのものは注意すれば問題ないが、それ以上に問題となる点があった。
「まあ、卒業できなくなるよりはずっとマシよな」
日焼け対策を施した
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街行く人々の大半がその容姿に気を取られ、思わず注視してしまう。
しかしそれは憧れや尊敬といったものではなく、驚きと忌避が籠ったもの。
果てには会話を中断してまで道を開ける者もいる始末。
「(まあそうなるか。こればかりは仕方あるまい)」
ある意味過剰とも言える日差しへの対策も、
彼女の体質によるものなのは言うまでもない。
同じ症状であっても個人差があるが、彼女の場合は特にひどい方だった。
しかしそれすら逆手にとって、できる限りのおしゃれを楽しんでいる。
それが雲雀千紗都という人間だった。
学校に到着し装飾を外せばその視線や興味は一層引くこととなる。
興味・関心もあるがいざ声をかけるものはおらず、遠くから眺めているだけだった。
いざ授業が始まってもその様子は変わらない。
「じゃあこの問題がわかる人」
教師が問題を黒板に写して回答者を募る。しかし1人を除いて皆手をあげなかった。
それは今の授業範囲よりも先の問題。
態々答える必要がない、というよりも解らないのである。
「では雲雀さん」
「うむ。承知した」
「えっ……なにあの子の返事……」
「承知した、だってー。変なの」
変わった容姿に加えて返事までも異端の極み。
どこからか上がった声をきっかけに教室全体がざわつき始める。
気にしない様子で千紗都は問題を解き終えた。
「正解。じゃあ次の問題もお願いできる?」
「お安いご用だとも」
決して態度を崩さず黒板に正確な解答を記していく。
そんな光景を何度も目にしていると、先程まで騒がしかった教室は落ち着きを取り戻した。
「流石雲雀さん。これなら次のテストもばっちりね」
「何、予習さえしておけばこの程度解けて当然だ」
「皆さんも本来の勉強だけでなく、予習もしておきましょう。
ちなみに次のテスト範囲がここまでの問題となりますからね」
「ええー!」「そんなー!」
意外な事実にクラスメイトが反感を表す中、悠々と席に戻る千紗都。
その後の授業も1人で難なくこなし、他の生徒との違いを見せつけるのであった。
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「(さて、授業も終えたしさっさと帰ってゲームでも……ん?)」
授業を終えて悠然と帰り支度をする途中、何やら廊下の方が騒がしかった。
気にすることはないと教室を出ると、2人の男子生徒が近寄ってくる。
「あ、そこの君。ちょっといい?」
「なんだ。我は早く帰宅しゲームに現を抜かしたいところなのだが」
「我って……いや、それなんのキャラのなりきり? ネットと現実分けた方がいいよ」
「なりきりだと? 我はそんな紛い物の演技などしない。現実など昔から見据えてる」
口調に対する指摘も、持論をもってして切り返す。
しかしその態度は他から受け入れがたいものであった。
「いやでもその格好とかどう見てもコスプレ……」
「ほう、ならば西日の下に我が肌を晒せと言うのか? それで我がどうなってもいいと?」
「おい、こいつ頭おかしいぞ」
「ああ、いこうぜ」
これ以上話していても埒があかないと見た2人は、
気味悪そうな目を向けながらその場を去っていく。
「ふん、人を目先だけで判断する愚か者が。好奇心は猫を殺すということわざを知らんのか」
去りゆく背中へあからさまに不機嫌そうな台詞を吐き捨てると、再び玄関に向かって歩き出す。
しかし行く手を阻むように別の生徒に絡まれてしまった。
「ねえその髪染めてるの? 大分攻めてるねー」
「そのカラコンどこで買ったの? 俺にも教えてよ」
「肌白くて綺麗だけど、学校って化粧禁止じゃなかったっけ?」
「その服なんのキャラ? 最近のやつじゃないよね」
質問者には関係がない上に好奇心を満たすためだけの質問。
中身などどこにもないのだと、千紗都は既に知っていた。
人目を避けるために通信制を選んだというのに、
逆に現実の人との交流に飢えている生徒で溢れている。
「(ま、仕方ないことよ。人は違うものに惹かれるが、
自らそうあろうとはしないからな)」
こうして千紗都が群衆から解放されたのは、
教室を後にしてから1時間ほど経過した後であった。
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「まあ、そういった形で面倒事を引き受けていた訳だ」
『そうだったんですね。それで今は何を?』
「無論ゲームだとも。これは実力がすべてだからな」
千紗都は通話を繋げ愚痴を溢しながらゲームにいそしんでいる。
通話の相手はもちろん言葉であった。
ネットを介したゲームは、あくまで実力がすべて。
容姿や口調などは一切関係ない。
「すまないな。つまらん話だっただろうに」
『いえいえ。それで雲雀さんが楽になるのなら喜んで』
「はっ、まったくもって変わらんな貴様は」
自らの意見を挟まずただ聞いてくれるだけの彼女は、愚痴の捌け口として優秀だった。
どのみち彼女も割りきって聞いているため、真摯に答えてくれることはない。
千紗都もその事に期待はしていない。それでもあえて愚痴を溢したのだ。
「あの時こそ否定したが、今の我にとってはそれが心地よい」
『お気に召したようでなによりです』
その後、対した会話もなく2人の時間は過ぎていくのであった。
ご無沙汰しております。kasyopaです。
第2部序章も終わり新キャラ2人の深堀りをしつつ、
言葉の変わった心境や環境にも触れられたら……と執筆したサイドストーリー編。
ナイトコードはあくまでボイスチャットツールであり、
「ニーゴが使っている特別なものではない」という見解で執筆しているため、
「ナイトコードの連絡先を貰えた≠ニーゴに参加」
ということをご理解ください。
進展したことは確かですけどね。
そして次回からの更新についてですが、
「言葉の苦悩の裏で文が何をしていたのか?」
という文側のお話になります。
次回、鶴音文編「響け! SATISFACTION YELL!」
『届け! HOPEFUL STAGE♪』のIFストーリーとなります!
お楽しみに!