荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第2話「その輝きは過去を照らし」

文はセカイから戻ってきて考え事をする。

どうしてあの時ミクはあんなにも悲しげな表情をしたのか。

いくら考えても答えは出ない。

それどころかよくない気持ちの方が勝っていた。

 

「でも昨日今日会ったばっかりみたいな感じだし、わからなくて当たり前なのかな」

 

ミクは自分の事を知っていた。でも、自分は相手の事をよく知らない。

例え今まで追いかけ続けてきたバーチャルシンガーで遭ったとしても、

実際に会えるなど思っても見なかったこと。

 

部屋中にあるミクのグッズを眺めていても、まだ実感がわかない。

それよりも気になるのは、これら全てが笑顔で描かれているということ。

 

だからこそ、ここまで気になっているのかもしれない。

ゲームでも困った顔をすることはあるものの、そこまで真剣に思い詰めていないようだった。

でも、ミクが自分の意思で歌ってくれたあの歌を、

悲しげに歌ったことがなによりの証明。

 

「ううん、ダメだよね。わたしが暗くなっちゃ」

 

頭を激しく振って気を取り直す文。

気分転換にと動画サイトを漁っていると、MORE MORE JUMP!の動画投稿通知が送られていた。

タイトルは『ビッグニュース!』。よほど大きなことがあったのだろう。

生放送のアーカイブのようで、セカイにいっている間に放送が終わってしまったらしい。

 

さっそく再生すれば、いつものようにメンバーの自己紹介。

そして前振りの後、愛莉がテンション高めに発表する。

 

『──というわけで! MORE MORE JUMP! とななみんさんのコラボ配信が決定したわよ~!』

『『『『いえーい!!』』』』

「こ、コラボ配信!? しかもあのななみんさんと……!?」

 

アイドル事情にそこそこ詳しく、

そして元動画投稿者の文にとって知らない方がおかしい超有名人──早川ななみ。

一度だけメールで挨拶されたこともあるが、

生配信は全てお断りだったため、コラボは叶わなかった。

 

「わたしも続けてたら皆とコラボ配信とか出来たのかな」

 

そんな未練に近い感情が文の心をよぎる。

あのまま順調にチャンネル登録者数を増やし、有名になっていたら、

むしろ自分がコラボの申し出ていたかもしれない。

 

しかし文が選んだのは別の道。アイドルではない選択をした。

そこに後悔はない。後悔はなくても、もしかしたらという未練を考えてしまう。

文の心はまだまだ未熟である。

 

そんな気持ちを振り払うために、彼女は自分の部屋を出て姉の部屋へと飛び込んだ。

大好きな姉と一緒に大好きな友達の配信を見れば、少しは気が晴れるだろうと。

 

「お姉ちゃん! MORE MORE JUMP!の配信見ようよ!」

「ふ、文っ!? 痛っ!」

 

ベッドで仰向けになりスマホを眺めていた言葉。

ノックもなしに飛び込んできた文に驚き、スマホを手から滑らせて顔面に直撃していた。

 

「わわわ、お姉ちゃん大丈夫?」

「だ、大丈夫」

 

手で患部を覆いながらもなんともないと身振りで伝えた。

そんな姉の様子を無事と受け取り、文は隣へと腰かける。

 

「ほらほらお姉ちゃん、今回はコラボ配信の発表するんだって! 楽しみだねー」

「コラボ配信……って誰とするの?」

「早川ななみっていう、アイドルだった人だよ。元々すっごく人気だったんだけど引退しちゃって。

 今はチャンネル登録者数80万人を越える超有名人なんだから!」

「へぇ、知らなかった」

「もー、お姉ちゃんネット事情全然知らないんだからー」

「ほらほら、動画始まってるよ」

 

姉に促されスマホを2人で覗き込む。

動画ではコラボ配信で何をするかの話題について盛り上がっていた。

 

「トーク系かー。でもMORE MORE JUMP!の人達は大体知ってるしなー」

「でも、コメントしたら読み上げてくれるんでしょ? ラジオのお便りみたいに」

「ななみんさんすっごく人気の人だからすぐ流れちゃうよー」

 

配信中のコメントは人気のチャンネルであれば、雪崩のように押し寄せて去っていくのが常。

目につくように投げ銭のようなシステムもあるが、文はそこまでして目立とうとは思わなかった。

 

「(人気の人とコラボしたらみのりちゃんの良いところ、知ってくれる人が増えるかもしれない。

  でも、それと一緒に……)」

 

『またまたパクリ乙wwwwこんなの誰が見るわけ?』

『君3Dモデル使うの上手いねー。何のソフト使ってるの?』

『昔バズったからっていい気にならないでください』

 

見る人が増えるということは、非難の対象にもされやすいということ。

それもかつて自分が投稿していたチャンネル登録者数の約3倍。

炎上経験のある文にとって、この80万人という人達は重圧にしか見えなかった。

 

「文、どうかした?」

「あ、ううん。なんでもないよ!」

 

スマホに視線を戻せば、そこには関連度の高い動画、というリストが並んでいる。

いつのまにか動画は終わってしまったらしい。

 

「じゃあわたし、部屋に戻るね。お姉ちゃん、一緒に見てくれてありがとう」

「どういたしまして」

 

誤魔化すように部屋を再び飛び出し、ある人物に電話を掛ける。

その相手とはもちろん──

 

『もしもし文ちゃん 急にどうしたの?』

「あ、みのりちゃん! 今日の配信見たよー。コラボ配信するんだよね!」

『うんそうなんだー! 遥ちゃんがななみんと知り合いで──』

 

──いつかの自分のように落ち込んでしまわないように。

  今は精一杯の祝福をあげよう。

 

みのりのファンは、自分しかいないのだから。

 

 

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