なにはともあれ、MORE MORE JUMP !のコラボ配信が決まり、
ひとつの生き甲斐ができたのは事実。
少しだけテンションの高い文はいつも通り学校に通っていた。
そしてお昼休み。友人たちと一緒に弁当を食べている時。
「そういえばさ、MORE MORE JUMP!ってアイドルグループ知ってる?」
「あ、うん知ってる知ってる! あの夢みたいなアイドルグループでしょ!?」
「ASRUNの桐谷遥さんにQTの桃井愛莉さん、Cheerful*Daysの日野森雫さんだよねー……
私も知ったときはびっくりしちゃったよ~」
それぞれが思い思いのことを口にしている中、
文は会話に混じらず弁当にがっついていた。
「そういえば文ちゃんって体験入学、宮女だったよね!
生の3人に会ったりしたの?」
「んー? うん。3人とも会ったけど、やっぱり普通の人って感じだったよ」
「普通? どうして?」
「やっぱりみんなアイドルなんだけど高校生だし、辛いことは辛いんだよ。
だからファンとして良識を持って接していきたいなーって」
箸を止めて自分の想いを口にする。
憧れの存在も、大切な親友も、その仲間達も、みんな同じ高校生。
自分達より年上だとしても、やっぱりまだまだ幼いと言える。
体験入学やひな祭り、お花見を通してMORE MORE JUMP!の4人と、
関わってきた文だからこそ言えることであった。
そして何より──
「おおう……炎上した人の言うことは身に染みますな~……」
「文ちゃん本当にもったいないよね。あれだけ踊れるのにあんなことになって」
「いいのいいの。気にしてないし」
炎上した後も、友人達は文を暖かく向かい入れてくれた。
それは実際に躍りを見て知っていたからに他ならないが、文にとって本当に嬉しいことだった。
そんな友人達に思い立った文は、ある質問を飛ばす。
「あ、じゃあみんなはMORE MORE JUMP!で誰推し?」
「アタシは断然遥ちゃん! もうオーラからしてアイドル! って感じだよね!」
「私は愛莉さんかな。ほら、結構面白いしバズらせ甲斐があるっていうか」
「わたしは、雫さんかな~。優しく膝枕とかしてくれそうだしー」
1名ほど理由になっていなかったが、やはりみのりの名前は上がらなかった。
「文ちゃんは誰推し?」
「わたしは花里みのりちゃん!
明るくて楽しくて、見てると元気が出てくる、最高のアイドルだよ!」
「あれ、そうなんだ。てっきり愛莉さん推し継続するのかと思ってた」
不思議そうな顔をされるも、誰1人として「知らない顔」はしなかった。
「愛莉さんも好きだけど、MORE MORE JUMP!の中ならみのりちゃんかなって」
「文ちゃんいろんなの好きだもんね。でもみのりちゃんかー。
大好きマスター文ちゃんがそこまでいうなら凄いのかな」
「文ちゃんはー、なんとなく好きって言わないもんね~」
「そうそう。ただダンスの方は好きというより好きの表現、って感じだし」
バズらせ芸人として一躍かっていた友人が言葉を区切り、文のダンスについて説いた。
文にはそれが妙に気になってしまい聞き返す。
「好きの表現?」
「ほら、普通推しの絵とか小説とか、グッズの写真でアピールするでしょ。
それが文ちゃんはダンスなんだよ。きっと」
「うーん、そうなのかな……自分でもよくわからない」
「あはは、文ちゃん成績悪いんだからそんな難しいこと言ってもわかんないよー?」
ずいぶんと分かりやすい例えのはずなんだけど、と少女は口をこぼす。
しかしそれがどうやら怒りに触れたようで。
「な、何をー! わたしだってその気になれば学年末テストで満点くらい……」
「お、言ったな? じゃあどれか1教科でも満点取れたら、
私達が文ちゃんのお願いなんでも聞いてあげよう」
「え、ほんとに!?」
「なんかアタシ達まで巻き込まれてない?」
「いいのいいの。でも満点取れなかったら、私達にシブヤでクレープ全部乗せ、奢ってね」
「ぜ、全部乗せ!? しかもシブヤで!? でも今月はお財布事情が……」
「細かいことは~、気にしちゃだーめー。満点を取るだけの簡単なお仕事だよ~」
「ぜ、全然簡単じゃないんだけど……」
うまい感じに丸め込まれてしまった気がしなくもないが、
今ここに文の(お財布事情的からして)絶対に負けられない戦いが幕を開けた。
・
・
と、意気込んだ文であったが……
「(ぐぬぬ……眠い……けど先生絶対大事なところって言ってたし……)」
お腹が満たされた午後の授業、しかも春先で心地よい日差しが差し込んでくる。
睡魔という最大の敵に襲われていた。
何度も顔を上下させているさまはまるで鹿威しのようで、
遠目に見ていた友人も笑いをこらえている。
『──♪ ───♪ ──♪』
「わ、わわわ!?」
そんな教室に、文のスマホから突然ミクの曲が鳴り響いた。
視線が一気に集中する中、黒板に向かっていた教師は真面目に指摘する。
「鶴音さん、授業中はちゃんとマナーモードにしてください」
「あ、はいごめんなさい。でも叔母さんから何かあるかもだし着信だけはって」
「はぁ……わかりました。廊下で話してきていいですよ」
「ありがとうございます!」
目覚まし代わりの着信に感謝しつつ、廊下でスマホを取り出す。
それは珍しいことに叔父からの着信であった。
『文さん! よかった繋がって!』
「叔父さん? 急にどうしたの? 今って仕事中なんじゃ……」
『仕事は切り上げて来ました。それより、落ち着いて聞いてください』
「う、うん」
疑問に思いつつも通話を繋げる。
いつも落ち着いている叔父が、こんなにも焦っていることが不安感を煽った。
『言葉さんが事故に遭ったそうです。今病院に搬送中だと連絡がありました』
「えっ──」
その手からスマホが滑り落ち地面に落ちる。
あまりに悲しい現実が、文を襲った。