荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「逃れることなど赦されず」

 

文が病院に駆け込んだ頃には、既に言葉は手術室へと運び込まれている。

設けられた長椅子で祈るように目を伏した叔父と叔母の姿もあるが、

壁にもたれ掛かり手術中と点灯した照明を見つめる少女の姿もあった。

 

「叔父さん、叔母さん! お姉ちゃんは、お姉ちゃんは!?」

 

取り乱しながら2人に駆け寄る文の目には涙が浮かんでいた。

 

「言葉さんは現在手術中です。状態については……わかりませんが」

「ええ。私達が来た時にはもう手術中だったから……」

「そんな……」

 

事故の内容も知らされていない3人は、ただただその場で呆然としている。

ただ出来るのは祈ることだけだった。

しかし文にはそれが出来ない。

事故という単語だけで世界が終わったような顔をしている。

 

「ほーら、なにショボくれた顔してるの」

 

そんな中その場にいた大柄で金髪の少女が文の頭をかきむしる。

それこそセットした髪がグシャグシャになるくらいに。

 

「イタタタ! なんですかあなた!」

「委員長なら大丈夫だよ。

 なんたってここらじゃ一番腕の立つ外科医に見てもらってるからね」

 

痛みで正気を取り戻し抗議する文だが、

それを軽く流しつつ少女は軽く状況を説明した。

 

「とりあえず命に別状はないと思うよ。まあ素人目だからどうかはわからないけど」

「叔父さん、叔母さん、この人誰……?」

 

人見知りの毛がある文は助けを求めるように叔父と叔母の元へ駆け寄る。

その様子を少女はただ可愛いなと思いつつ眺めていた。

 

「この方は言葉さんを助けてくださった方ですよ」

「なんでも応急手当とかもしてくれたみたいで。本当にありがとうございます」

「いやいや、医者の子供として当然のことをしただけですよ」

 

2人の説明を受けて悪い人じゃないと判断し、

向かい合うもやはり身長差から威圧感を覚えてしまう。

 

「はじめまして。私は斑鳩 理那っていうの。委員長……鶴音さんの友達ってところかな」

「あ、えと……鶴音 文です。お姉ちゃんを助けてくれて、ありがとうございます」

「気にしないでいいよ。友達として当然のことをしただけだし」

 

今度は崩れた髪を優しく梳かすように撫でる。

知らない人に頭を撫でられるのは初めてであるが、悪い気はしなかった。

 

そうしていると手術室の明かりが消え、1人の男性が出てくる。

 

「せ、先生、言葉さんは……」

「手術は成功です。今は麻酔が効いてますから、目が覚めるのはもう少し後になりますが」

「ありがとうございます。なんとお礼を言えばいいか」

「医者として当然のことをしたまでですよ。……理那。こちらに来なさい」

「はーい」

 

少しばかり険しい視線を理那に飛ばした医師は、何かを注意した後廊下の奥へと消えていった。

 

「理那さん、あのお医者さんと知り合いなんですか?」

「ん? お父さんだよ。応急手当がまだまだだーって怒られちゃった」

「お、お父さんがお医者さんなの!? じゃあ皆お姉ちゃんの命の恩人さんなんだ!」

「ふふ、ありがと。命の恩人、か……ずいぶん久々に聞いたな」

 

その言葉にどこか遠い目をして理那は天井をあおぐ。

その真意に気付けないまま時間だけが過ぎていくのであった。

 

 

 

家に帰り自室で呆然とする文。

 

その後病室で目を覚ました言葉だが、今後の音楽活動については自分次第、

ということで文は少しショボくれていた。

姉の傍らにあったのはいつだって音楽だ。

いろんなことがあったものの、取り戻せたのは音楽があったからだ。

でもそれは演奏することで得られていたものだと、文はとっくのとうに気づいている。

 

そして自分も見つけかけた新たな道。

それが1つの事故で台無しになるかもしれない。

 

「また、わたしのせいで消えちゃうのかな」

 

自分が大好きになることで消えていく。心から愛したものから失われていく。

そんな呪いが自分にかかっているんじゃないかと思い始めてしまう。

 

「……ほんと、馬鹿みたい」

 

そんな訳がない、と迷いを振り払う。

まだまだ自分には大好きなものがあるのだと。

まだ姉の可能性は失われていないのだと言い聞かせて前を見る。

そこにはいつも笑顔のミクが微笑みかけている。

 

「ミクちゃんのお陰で今も前に進めてる。大丈夫だよね、ミクちゃん!」

 

しかし──

 

『ありがとう。でも大丈夫、気にしないで』

「あっ……」

 

あの時聞いた言葉が甦る。それは紛れもなくミク本人のもの。

誰かが作ったなにかではない。

 

「そう、だよね……わたしが大丈夫でも、ミクちゃんが大丈夫じゃないんだよね」

 

姉にも、愛莉にも、ミクにも本当のことを言えなかったあの時の自分を悔やみながら、

ただひたすら見ないフリを続けてきた。

そんな自分がひどく惨めに思えてくる。

 

「わたし、なんにも変われてないや」

 

道も、夢も見えないまま、ただ自分のやりたいことだけに時間を使い潰してきた。

その正体に気づいたとき、少女はたっぷりと忌みを含めていつもの口癖を呟く。

 

「──ほんと、馬鹿みたい」

 

──と。

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