荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第5話「抗うことなど赦されず」

 

それからというもの、文はお見舞いに行くことはなかった。

自分で「勉強が忙しいから」「今日は友達と一緒に帰るから」と、

何かと理由をつけて叔父と叔母を振り切り、ただ1人自室で時間をもてあそぶだけだった。

見かねた2人によって無理矢理お見舞いに連れていかれたこともあったが、

言葉本人が面談拒否という事態で空振りに終わった。

 

「あ、MORE MORE JUMP!のコラボ配信……」

 

ただ何をするわけでもなくスマホを弄っていると、オススメ欄のトップに1つの放送が現れる。

それはいつしかチャンネル登録をしたMORE MORE JUMP!によるもの。

そういえばこの前そんな予告をしていたな、と気休め程度に再生した。

 

『みんな、見にきてくれてありがとう~』

『ありがと~っ!』

 

放送は今まさに始まったというところで、雫とみのりが視聴者へ感謝を送っていた。

しかしすぐに特定のコメントが散見され始める。

 

『あれ? 知らない子だ』

『誰?』

『新人アイドル?』

 

「あはは……やっぱりみのりちゃんへの風当たり、結構きついね……」

 

いままでの配信をすべてチェックしている文もわかっていたが、

MORE MORE JUMP!の面々においてアイドル経験がないのはみのりだけ。

 

『ひとりだけ素人? なんで?』

『アイドルオーラなくない?』

『遥ちゃん達と釣りあってないよね』

 

それこそ彼女達全員を見るのではなく、

遥・愛莉・雫の3人を一緒に見られるお得感から一躍有名になっていることも知っていた。

そのためどうしてもみのりに対するコメントは辛辣なものが多い。

 

「う……」

『だからどうか、みのりちゃんを見てあげて欲しいの。

 他でもない、ファンであるあなたに』

 

いつか雫にお願いされたことを思い出す。

そういうものじゃないと返答したが、こんな様を直に見せつけられては黙っておけなかった。

 

「みんな、みのりは──」

『みのりちゃん頑張って!』

 

見ているよ! という意味を込めてコメントを送る。

遥がカバーしようとしたところで被ってしまったので、少し複雑になってしまった。

 

その後はななみんのカバーもあり、コメントも段々とみのりに注目し初めている。

これでもう大丈夫かな、と文はコメントを止め放送が流れていく様子を眺めていた。

 

 

 

それからはMORE MORE JUMP!の結成秘話を通じて遥や愛莉、雫の信頼を見せつけていく。

 

「やっぱりみのりちゃんはすごいな。こんな人達と一緒にいるんだもん」

 

屋上で最後に見た4人の姿を思い出しつつ、感傷に浸る文。

信頼できる仲間に囲まれて、自らの夢に向かって一直線に走っている。

途中で道を諦めてしまった自分とは大違いだということも、実感させられる。

 

「(今のわたしには、何が……ううん、何をしたいんだろう)」

 

こうして何もせずただただ時間を浪費するだけ。

好きなものに触れていても、本当の意味で満たされることはない。

 

『わたし、やります! やらせてください!』

 

呆然と眺める画面で急にみのりの声が響く。

何事かとコメントのログを追って確認すると、どうやら振りコピを披露する流れになっていた。

 

ななみんの振りの後、みのりが振りコピを見せる。

しかしところどころ危なっかしくて、バランスを崩しているのは一目瞭然だった。

 

その光景にいつか自分が屋上で踊っていた時の事を思い出す。

いろんなことに気を取られて、振りそのものに集中できていない。

それから導き出される未来は、想像に難くない。

 

『っひゃあ!』

「っ!」

 

みのりが、転んだ。

遥が駆け寄り、ななみが謝罪を述べ、愛莉と雫が放送のサポートに徹しているも、

コメントは非情なものであった。

 

『これくらい余裕でできると思ってた』

『期待の新人って本当は大したことない?』

『みのりちゃんは頑張ってるよ』

『頑張ってるとかそういう問題じゃないから』

『まさか本当の意味で素人? 養成所も通ってないとか?』

 

それを庇う声もあったが、それすら燃料にして反感の声は大きくなっていた。

こうなってくると炎上一歩手前である。

 

『ねえ、あの子があの『Ayaya』って本当?』

『らしいよ。昨日チャンネルもSNSのアカウントも消してたしやっぱり嘘だったんだねアレ』

『うける。因果応報ってやつでしょ。調子乗っててきっもーい』

「っ! 嫌!」

 

脳内で再生される現実の反応に文はスマホを放り投げる。

そのままベッドの中へと沈み何も見ないようにした。

 

「やっぱり、ダメだよ……わたし、なんにも出来ない……」

 

文を信じてくれた誰かのために、大好きを伝えたいと思った。

でも、大好きを伝える前に遠くへ行ってしまう。

自分が期待する分その人の重荷になってしまい、その人を追い込んでしまった。

 

自分が応援する分、その人の大好きを奪ってしまう。

いままでも、これからも。

 

「そんなことになるなら、もう大好きなんていらない」

 

少女は1人、殻の中に閉じ籠る。その瞳からは絶えず涙が流れていた。

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