荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第14話「心無いものだとしても」

 

「──あるところに、変わり者の錬金術師がいました」

 

そんな口上で始まる彼のショーは面白かった。

面白いし真新しさもあるけれど、ただ内容が寂しいものだったために観客はいない。

私ただ一人が見つめるショーだったけれどそれでよかった。

今の私にはぴったりとしか言いようのないショーだったから。

 

まるで沈んだ心にそのまま寄り添ってくれるようなもの。

同じ気持ちになったことがあるからこそ解るような、優しい言葉。

 

「とてもいいショーでした。ありがとうございます」

 

それが終わり、青年が頭を下げたところで私は静かな拍手とお布施を渡す。

 

「こちらこそ感謝するよ。僕のショーを最後まで見てくれてありがとう」

 

紫色を下地にところどころ水色のメッシュが入った特徴的な髪。彼の名前には覚えがある。

季節外れに突然転校して学校を沸かせたと思いきや、

奇抜な考えや発明をするマッドサイエンティストと名高い人。

今でも根も葉もない噂が絶えない神山高校が誇る名物生徒。

 

「神代先輩ですよね。こんなところで何をしてるんですか?」

「見てわからないかい? ストリートパフォーマンスだよ」

「ああ、いえ、それは分かるんですけど」

 

手渡されたお金を受け取りつつも少し自慢げに語り楽しそうだった。

それでもその後は私を見下ろし目を合わせてくれる。

 

「君の質問は何をしているというより、何故こんなことをしている、の方だったね」

「そうです。学校ではあんまりいい噂を聞かないので」

「そうだね、なら僕はここで変な噂の腹いせに町の人々を脅かしている、と言ったら?」

「それは嘘ですね」

「どうしてそういえるんだい?」

 

挑戦的な笑みを浮かべる彼に対してバッサリと切り捨てる。

視線を外してドローンやロボットを見るも、どうも人を驚かすようなことはないように見えた。

 

「噂は噂に過ぎません。実害が出ていればそれこそもっと噂になっていますし、

 あんまり私は噂を信じない人なので。」

「なるほど。それに比べて君は評判通りのようだね」

「私の、評判?」

「ああ。案外君が思うよりも有名だよ。といっても名前が知られていることはあまりないようだ」

 

一応噂の一つに「ドローンで全生徒を監視している」というのがあったけど、

それは間違いではないのかもしれない。

それよりも、彼が名前という単語を出したことで自分がまだ名乗っていないことに気付く。

 

「あ、自己紹介が遅れました。私、1年C組の鶴音言葉と言います」

「これはご丁寧に。僕は2年B組の神代類。もう知っているかもしれないけれど」

「それでも自己紹介してもらったことはなかったので」

 

噂以上に変な人かもしれないけれど、それ以上にいい人だった。

変わっているけれど律儀で誠実な人。

その変わっている要素が強すぎて本当の彼が見えていないような。

ああ、だからあんなにも寂しい脚本が書けるのだと、本能的に理解した。

 

「ところで君の様な真面目な生徒がこんなところまで来ているなんて珍しいね」

「たまには、羽目を外したくなる時もあるんですよ」

 

そう言ってビビッドストリートで演奏した時のことを思い出す。

MEIKOの突拍子もない提案から始まり、色々あって妹と仲たがいしてここにいる。

誰が悪いわけでもない。提案も、意見のぶつかり合いも、こうしてここにいるのも。

 

一つのロボットと目が合ってしゃがみこみ掌に載せる。

器用にバランスを取りながら踊るそれは見てて心を和ませた。

 

「心無いものであっても、意味を見出すのは心が有る者、ですね」

「……そうだね。彼らからすればただ歯車を回し決められた行動をしているだけでも、

 それを見た人が面白いと思えば面白くもなるし、楽しくもなる。不思議なものだね」

「そして、心無い物だからこそ、色々考えることもなくなる」

 

バーチャルシンガーも、本来そういうものだと思っていた。

いくら心を歌ってもそれは機能に過ぎない。本当に心を持っているわけではないのだから。

しかしそれはセカイによって覆されたと言っていい。彼女達には心が有るのだと。

心無いものであったなら、どれほど扱うのが楽だっただろうかと。

 

そして何より、心が有るからこそ人間関係という物が難しいのだ。

言葉にしていても本心が別だったり、本心で話していても相手を疑うことで嘘になったり。

難しいからこそ素敵なものともいえるけれど、今の私にとってそう思うことはできなかった。

 

「やっぱり難しいですね。人と付き合うのは」

「………」

 

そのつぶやきに対して彼は何も言わなかったが、その無言が肯定に聞こえた。

彼も昔何かあったのだろう。私とは違うながらも人とうまく行かず離れてしまった。

あの物語の筋書きから大体の背景は推測できる。ただそれはこちらの勝手な思考によるもの。

 

「ねぇ神代先輩」

「なんだい?」

「もしよかったら一人同士、共演しませんか?」

 

そんな一人ぼっち同士だからこそ、突拍子もないことが私の口から飛び出した。

しばらく彼は考えるそぶりを見せた後、静かに首を横に振る。

 

「興味深い提案だけれど、今の所はやめておくよ。

 共演するほどの余裕をお互い持ち合わせていないからね」

「そう、ですね」

 

断られて冷静になる。今日言葉を交わしたばかりの者同士が共演。

まだお互いのことを知らない上に彼の言う通り、今の私に心の余裕などどこにもなかった。

 

「さて、僕はそろそろお暇させてもらうよ。機会があればまたいつか」

「はい。神代先輩」

 

そういってその場を去る彼の背中はほんの少し小さく見えた。

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