こうして文は話してしまった。自分の身に訪れた悲劇の数々を。
そして今回の配信を通して友達である、みのりのことすら応援してはいけないと気付いたことも。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
文はその場で崩れ落ち、ただひたすらに懺悔を続ける。
数々の約束を裏切った後悔が押し寄せているのだ。
その姿はかつて希望を届けていた
引退することで惜しむ人達がいることはわかっていた。
しかしそれは自分の意思でありどこか遠い世界のようにも思えていたのかもしれない。
しかしそれは確かに誰かの『希望』と『大好き』を奪っていて、
それによって苦しむ人がいるのだと。
特に遥にとっては、かつての仲間の悲痛な叫びを彷彿とさせるには十分すぎた。
雫にとってもかつての約束が文本人を縛っていたのだと気付いた時、
掛ける言葉が見つからないでいた。
しかし──1人だけ、そうは思わない少女がいた。
「なによ、それ……アンタは、アンタはそれでいいわけ?」
「愛莉……?」「愛莉ちゃん……?」
愛莉の胸の内には怒りが沸々と込み上げてくる。
それは震えとなって現れ、拳を目一杯握りしめていた。
「アンタ、ずっと応援してるって言ってたじゃない。
あの言葉は、嘘だったわけ……?」
「嘘じゃないです! でも、でもわたしが応援して大好きになったらきっと……」
「ふざけんじゃないわよ!」
渾身の怒号が鳴り響く。
あまりの剣幕に遥ですら引き下がるほどであった。
「そんなの、ただの言い訳じゃない!
自分で勝手に裏切られたって思って、傷つきたくないから逃げてるだけ!」
愛莉自身にも突き刺さる、言葉の刃。
かつてアイドルとして活躍出来ず、曲げられた行き先でも自らの夢を捨てきれず、逃げた。
本当の想いに気付いているからこそ、あの時の自分の姿が酷く惨めに思えてくる。
理想を理想のまま追いかけて、現実に潰されそうになっている目の前の少女は、
かつての弱気な自分にそっくりだった。
そして彼女もまた、同じ道を歩もうとしている。
「そ、そんなこと……ない! わたしは逃げてなんかない!
ただわたしの応援のせいでみのりちゃんも──」
「ううん、そんなことないわ。
みのりちゃんは文ちゃんが思ってる以上に、強い子よ」
「「雫……?」」
文の言葉を遮ったのは意外にも雫だった。
その目には確かに強い信念が宿っているようで、普段と違った真剣さがうかがえる。
「確かに応援も過ぎればその人を縛り付けるかもしれない。
でもだからって応援しないのは、違うと思うの」
「……そうだね。応援してくれる人がいるからこそ、作られる景色もあるから」
愛莉の想いが飛び火したのか、遥もある光景を思い出しながら口を開いた。
それはかつて自分がステージの上から眺めていた光景。
ペンライトと観客の笑顔で彩られた海。
それは決して、自分だけでは見られないものだった。
そしてそこで受けた声援は、今も確かに胸の中に残っている。
「……それは……」
「わたしだって、そんな風に思いたいよ……」
消え入りそうな声で呟いてうずくまる。
これでもダメか、と3人が諦め掛けるもあの時の屋上を思い出した。
『だからわたしもそんなアイドルになれたらって頑張って。
まだまだだけど、でも、友達が暗い顔をしてるなら、ちょっとでも明るくしてあげたい!』
それは自分達を励まし続けてくれた最高の
先輩のアイドルとして、1人のファンに届けられるのは1つだけだった。
「だったら見てなさい! 『あなたがいるから』見せられる景色をね!」
「ええ。だから『もっと声を聞かせて』欲しいわ」
「私達ももっとファンを『愛したいから』」
「「「『こんなもんじゃないぞ!』ってところを見せてあげる!」」」
それは自分達がこれからのファンに向けた想いが形作られた曲。
みのりはその場にいないものの、それを補っても有り余るほどの希望がそこにはある。
その光景に文は涙を流すことを忘れ、ただただ見とれるのであった。
・
・
愛莉を中心に据えたファンのための楽曲は終わりを告げる。
「アイドルって……すごい……」
「文ちゃん、この前私にいってくれたこと、覚えてる?」
感嘆の声を漏らす文に、雫が前に歩み出てそっと手を握る。
「アイドルがファンを見つけてくれた時、はじめてアイドルになれるし、ファンになれるって。
それは文ちゃんだって同じ。だから、応援しちゃいけないだなんて言わないで」
「雫さん……」
「アンタはみのりにとって……ううん、わたし達MORE MORE JUMP!にとっての最初のファンなのよ。
それはわたし達が認めるわ。だから、自分の大好きを最後まで貫きなさい」
「愛莉さん……」
「それにちゃんと今の私達を見てくれてる。
だからこれからもファンであり、友達であってくれると嬉しいかな」
「遥さん……」
かつての自分が言えていたことを、そっくりそのまま返される。
あまりに他人を思いやるが故に、自分のことが見えなくなっていた少女に、
これ以上の励ましはなかった。
「えへへ、わたし応援するって言ったのに、誰かから応援されてばっかりだ」
「別にいいのよそれで。文はまだまだ子供なんだから、もっと周りに頼りなさい」
「あ、そっか……わたし、頼っていいんだ……」
涙を拭いながら立ち上がる文に対し、半分呆れ顔で愛莉が口を開く。
ありきたりな答えであったが、文にとってはそれこそが求めていた答えであった。
「皆さん、本当にありがとうございます。お陰でわかったと思います」
「? わかったって、何が?」
「それは内緒です! ちゃんとわかってからお伝えしますね!」
肝心なことを言わないまま、文はスマホを片手にどこかへ走り出す。
そんな彼女が向かった先は──
モア!ジャンプ!モア!/MORE MORE JUMP! MUSIC:ナユタン星人