文がやって来たのは『セカイ』。
あれから人目のつかないところに移動して、Untitledを再生したのだ。
相変わらずなにもない寂しいところではあったが、文の心は晴れ渡っている。
しばらく待っていると馬車に乗ったミクが姿を表した。
「あ、ミクちゃん! おーい!」
「文ちゃんいらっしゃい。……どうしたの?」
いつも以上に明るい表情を浮かべる彼女に、ミクは思わず問いかける。
それがきっかけとなったのか、ひとりでに語り始めた。
「えっとね、わかった気がするの! わたしの本当の想い!」
「……ホントに? でもぼくはまだなにもしてないよ? それにここにだって全然来てないし」
「それでも聞いてほしいの。きっとこの想いが、わたしの想いなんだって」
その目と声には、確かな力と熱が籠っている。
それをミクがわからぬはずもなく、信じてみようと馬車を降りて視線の高さを合わせた。
それを確認してから、文はおもむろに語りだす。
「わたしね、ミクちゃんのことが大好きで、ずっと会いたいって思ってた。
でも会ってみたらすごく寂しそうで、
大好きだって言ったら、無理しちゃうのが嫌だった」
「そう、だね。ぼくは……」
その心当たりがないわけではない。
再会した2人がお互いに歌った後、ミクは文になにかを誤魔化した。
歌を大切に思うが為に、自分の想いに気付けないほど鈍感ではない。
「でも、だからって言わないまま居なくなっちゃうのはもっと嫌だ!
だから、わたしの本当の想いは──」
「『わたしはわたしらしく、大好きだって伝えたい』!」
「っ!?」
直後、文のスマホが輝きだす。それは紛れもなくUntitledがウタに変わった証。
その光に驚いたのはミクの方だった。
「本当に見つけたんだね……1人で、本当の想いを」
「ううん、わたしだけじゃないよ。
みのりちゃん、遥さん、愛莉さん、雫さん、それに、ミクちゃん。
皆のお陰で見つけられたんだよ」
「そっか……ふふ、そうなんだね」
「あ、笑ってくれた!」
満足げな文の笑顔が移ったのか、ミクも自ずと笑顔になる。
それはほんの少しだけではあったが、今までの笑顔と違って見えた。
「そうだ! ミクちゃん言ってたよね。
本当の想いが見つかったらUntitledがウタになって、一緒に歌えるって!」
「そうだね。でも、本当にいいの? これは文ちゃんの想いから出来たウタだけど……」
「いいのいいの! むしろ一緒に歌ってほしいな。あ、後ダンスも!」
少しだけ戸惑うミクの手を取って、文は道の真ん中に躍り出る。
スマホからはウタが流れ始めていた。
その音色は元気いっぱいなテクノポップ。その歌詞は想いで明日を作るもの。
たった2人きりのステージで、軽やかにセカイを飾り付けていく。
ウタが終わる頃には文自身がその色を取り戻していた。
しかし変化が訪れたのはそれだけで、セカイに色が取り戻された訳でも、
道の先に目的地が現れたりする訳でもない。
「やっぱり、これくらいが精一杯、かな」
ミクは変化の少なさに少しばかり肩を落とす。
「ミクちゃんがどうしてそんなに悲しそうなのか、わたしはにはわかんないけど、きっと大丈夫!
だってほら、道はまだまだ続いてるんだもん!」
文は道の先を指差してそう言った。
荒野に広がる道の目的地は見えないものの、地平線の先まで続いている。
それは同時に、終わりも見えないことと同意であった。
「もし何もなくっても大丈夫! ミクちゃんとの思い出が出来るからね!」
「そっか、そうだよね」
その言葉を聞いてミクも力強く頷く。
そしてすぐ行動に表すかのように馬車へと乗り込んだ。
「じゃあ、一緒に行こうか。行けるところまで、ね」
「うん!」
その手を取って文も馬車に乗り込む。2人の旅は始まったばかりだ。
・
・
それから数日が経過した放課後。
「うーん、多分この辺りだったと思うんだけどなー」
最初の憧れと大好きを伝え終わった文は、
いつか親友と飲んだタピオカミルクティーを手に宮益坂を走り回っていた。
そう。目的の相手はみのりである。
あれから連絡の1つもしていないが、
それを逆手にとって偶然を装い、応援する算段を立てていた。
その為学園前で待機する訳にもいかずこうしてさ迷っているわけだが、
みのりどころかMORE MORE JUMP!の面々すら一向にその姿を見つけることが出来なかった。
むしろ通りかかる宮女の生徒達の注目を浴びており、下手をすれば不審者間違いなしである。
「(もしかしてまだレッスンしてるのかな……やっぱり連絡した方がよかったかな)」
「……文、そんなところで何してるの?」
「ひゃい!? わ、ととと!」
だんだん不安になってきたところで急に声をかけられ、思わず飛び上がる。
しかし持ち前のバランス感覚でミルクティーは零れずにすんだ。
恐る恐る振り替えると、不思議そうに見つめる志歩の姿があった。
「ってなんだ、志歩先輩かー。びっくりさせないでくださいよー」
「別にそんなつもりはなかったんだけど。もしかして誰かと待ち合わせ?」
「あ、いえ、そういうのじゃなくてもし会えたらなーって」
「ご丁寧にタピオカミルクティーまで用意して?」
「うっ。こ、これは、その、自分用で……」
痛いところを突かれ思わず声が漏れる。
必死に言い訳を考えるも、自分でわかるくらい目が泳いでいた。
「大方、みのりと喧嘩したとかでしょ。最近元気なかったし」
「それは違うの! 喧嘩じゃなくて……約束、守ってあげられなかったから」
「約束……」
その言葉を聞いて、志歩は何故か咀嚼するように繰り返す。
まるで自分にも思い当たる『なにか』があるように。
「志歩先輩?」
「ううん、なんでもない。みのりなら今日も屋上で練習してたよ。それじゃ」
「あ、はい……」
そう言って去っていく志歩を見つめる文には、
どうしてかその背中が小さく見えるのであった。