荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第9話「いつか辿り着くその日を想い」

 

有力な情報を手に入れた文は、街に設けられた手頃なベンチに座る。

思わず自分用のタピオカミルクティーを飲もうとして、手を止めた。

 

「危ない危ない。これはみのりちゃんと一緒に飲む分!」

 

なんとか理性で持ちこたえるも、そろそろ夕飯時という事もあってお腹が減ってくる。

なにか気を紛らわせようとしていると、後方の茂みからいつぞやの三毛猫が現れた。

文の近くに躍り出た後は甘えるように体をすり寄らせてくる。

 

「あらら、どうしたのかにゃー。また遊んでほしいのかにゃー?」

 

そう言いつつカップを遠くに置いて、優しくその体を撫でる。

何度も続けていると上機嫌なのか喉を鳴らし始めていた。

それに負けじと応えていると──

 

「──あれ、もしかして……MORE MORE JUMP!のみのりちゃん!?」

「えっ、みのりちゃん?」

 

街中で誰かが声を上げたのを聞いた。

思わずその方へと目を向ければ、みのりが1人の見知らぬ少女と会話していた。

 

「(みのりちゃんと、誰だろう……宮女の制服じゃないし昔の友達かな?

  でもさっきMORE MORE JUMP!って言ってたし……)」

 

思わずそのまま席を立ち、傍にある木の影からこっそりその会話に耳を傾けた。

 

「いえ! 私、みのりちゃんのファンなんです!

 よかったら握手してもらえませんか……?」

「えっ? は、はい喜んで!」

「(みのりちゃんのファン!?)」

 

思わず声をあげそうになるも、必死に我慢する。

その後、みのりとファンの驚くようなやり取りが幾度とありながらも、ひたすら影から耳を傾ける文。

 

「(今はわたしが出て来たら台無しになっちゃう。

  この瞬間はみのりちゃんにとっても、この人にとっても大事だから)」

 

純粋にみのりをアイドルとして見てくれる存在。

逃げてしまった自分とは違う本物のファン。

見ず知らずの人の声援は、きっと親友である自分よりもずっと響く物。

それでも聞き届けたかった。大事な親友を応援する誰かの声を。

 

「あ、あの、今度のライブ配信……もしよかったら、その配信見てくれませんかっ!」

「えっ……?」

「このあいだのコラボ配信は、ちょっと失敗しちゃったけど……

 次のライブ配信は絶対に成功させるから!」

 

「こんなわたしでも、できるってことを証明するから、

 あなたも……自分のことを信じてあげてほしいの!」

「……みのりちゃん。ありがとう……。

 絶対、絶対見ます! 頑張ってください!」

「ううん、わたしも……ありがとう!」

 

最後にみのりは約束を交わしファンはその場を去る。

その時見えた2人の表情はとても晴れやかだった。

 

「(よかったね、2人とも)」

 

文も続いてその場から後にしようとしたところで、

足元に先ほどの猫がじゃれついてきていた。

遊び足りないのか、にゃあにゃあと鳴き声をあげている。

 

「あ、ちょっ、静かにして……!」

「あれ、文ちゃん!? いつからそこに……」

 

静かにさせるため声をあげるも、むしろその声によって見つかってしまう。

こうなっては仕方ない、と諦め向き直す。

 

「あ、あははー。ごめんね、別にファンの子との会話が気になったとかそういうのじゃなくて……」

「あ、やっぱり聞こえてたんだ……ちなみにどのくらいから聞いてた?」

「……ほとんど全部」

「ええっ!? それなら話しかけてくれたら良かったのに」

「そんな事しないよ! ファンがアイドルとお喋りするなんて、

 人生で1度あるかないかだよ!? そんな大切な時間を邪魔なんてできないよ!」

「そ、そっか。そうだよね! ありがとう、気を使ってくれて……」

 

問い詰められる側の文が今度はみのりに詰め寄っている。

こればっかりはファンとしての経験が長いみのりも頷かざるをえなかった。

 

「配信の事が心配で来てみたんだけど、もう大丈夫そうだね。

 じゃあ、わたしは帰ろっかな」

「あ、待って文ちゃん!」

 

そのまま満足げに去ろうとする文の腕を掴むみのり。

予想外の行動に思わず立ち止まってしまう。

 

「みのりちゃん?」

「あのね、お話ししたいことがあるの」

 

 

 

文が事前購入していたタピオカミルクティーを持ち、

2人はいつもの公園へと足を運んでいた。

 

「文ちゃんと初めてあったのも、ここだったよね」

「うん。わたしとお姉ちゃんがそこのベンチで休憩してたら、

 サモちゃんがすごい勢いで突っ込んできて……」

「あ、あははー、そうだったね……」

 

お互いに昨日の事のように思い返される出来事。

それから始まった縁はこうやって今も続いている。

 

2人はベンチに座るとひとまず落ち着くため、口をつけた。

 

「それで、お話って?」

「うん。見てほしいものがあって……これ!」

 

みのりが鞄の中から取り出したのはスケジュール帳。

中にはMORE MORE JUMP!の動画配信予定日や練習の時間が書いてあった。

メモの欄には練習で教わったことや感じたことがビッシリ纏められている。

 

「やっぱりすごい……みのりちゃんの頑張りが伝わってくるよ!」

「あ、見てほしいのはそこじゃなくて……」

 

そう言って見せられた表紙の裏、ラミネートされた1枚の紙が貼り付けられている。

そこには『花咲き、実を結ぶその時まで応援してます!』と書かれていた。

 

「これって、バレンタインの時の……」

「うん! 文ちゃんがくれた、初めてのファンレターだよ!」

 

本人からすればそんなつもりはなかった。ただ趣向を凝らすための仕掛け。

それでも、みのりはそう思わなかったらしい。

 

「あれから失敗しちゃうこともたくさんあるけど、落ち込んじゃった時はこれを見るの。

 そうしたら文ちゃんが応援してる姿が浮かんできて、

 もっともっともーっと頑張ろうって気持ちになるの!」

「みのりちゃん……」

 

この言葉をもう少し早く聞いていれば、きっと文は折れていた。

惨めな自分を見つめて、ファンとしての期待に応えられなかった。

 

しかし、今は違った。今の文には本当の想いがある。

そしてこの機を逃すわけにはいかなかった。

 

「わたしも、そんなみのりちゃんだから、応援したくなっちゃうの」

「ふふ、なんてたってわたしの最初のファンだもんね」

「ううん、最初とかその次とかそんなの関係ないよ。全部違うけど皆同じ。だから何度だって言うよ」

 

立ち上がりみのりの前に躍り出る文。

それは確かな勇気の一歩。今まで言えなかった大切なこと。

 

「大好きだよ、って!」

 

夕日を背に浴び満面の笑みを送る文。それは愛の告白にも似ていて。

みのりは思わず顔をそらしスケジュール帳で隠してしまう。

 

「……~~~!!」

「あれ? どうしたのみのりちゃん?」

「な、なんでもないでひゅ!」

「えー!? ちゃんと見てくれないと伝えられないでしょー!」

「い、今は見ちゃダメ~~!!」

 

必死に顔を隠すみのりと、それを覗き込もうとする文。

みのりの顔は夕日よりも赤く染まっていた。

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