いつもの様に作業を進めている5人。
時刻は午前4時に差し掛かろうとしていた。
『ふあぁ……私そろそろ限界かも。もう落ちるね』
『じゃあボクも落ちよっかな。みんなおやすみー』
『私も落ちるね。またね、K、word』
『おやすみ、3人とも』
『おやすみなさい。いい夢を』
会話の主導権を握る2人と、それを助長する1人が落ちたことで、
一気に会話はなくなってしまう。
そのままなにも話すことなく1時間が経過して。
『wordは大丈夫? 今日学校なんじゃ』
『そうですね。でももう少しだけ。雪さんのアレンジに合うようにしたいので』
心配するKの声に返事こそしているが、どうも凝り性なようで聞く耳を持たない。
『大丈夫、ちゃんと寝てる?』
『ふふ、Kさんよりかはしっかりと。
それにこれは求められた分は応えなければ、というだけです。
あの日『奏』に求められた時の様に』
『あの日……そっか』
Kも思い当たる節があるのか、首を縦に振る。
しかし何よりも奏という名前。wordはKの本名を知っていた。
そして──
『わたしが、『言葉』と初めて会った日のことだね』
それはKも同じであった。
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それは奏がニーゴを立ち上げ間もない頃。
父の見舞いに行くも話せなかったことに落胆し、街をさ迷っていた。
「あれ、ここ、どこ……?」
元々出不精な奏にとってシブヤという街はあまりにも複雑過ぎたため、
さ迷っているうちに見慣れぬ通りへとやって来ていた。
自分の知った場所に出ようと右往左往している、そんな時。
「──♪ ───♪ ──♪」
どこからか、その場に似つかぬ笛の旋律が聞こえてきた。
導かれるように足を進めれば、自分とさほど年の変わらぬ少女がフルートを奏でている。
ギャラリーこそ少ないものの、その旋律は寂しくも温かさを信じているようなものだった。
自分の曲とはどこか違って聞こえたが、本質的には同じだと感じた。
だからこそ、奏は。
「あの、すみません」
思わず声をかけていた。
曲が終わった矢先であった為、その少女も驚いた様子で奏を見つめていた。
「えっと、さっき聞いてくれた方ですね。リクエストですか?」
「あ、えっと、そうじゃなくて……」
ギャラリーも会話が始まると同時に散っていく。
誤魔化されそうになって言いよどむも、さらに1歩進み出た。
「わたしと一緒に、曲を作ってくれませんか。わたしと、誰かを救える曲を……!」
その発言に名も知らぬ少女は目を丸くする。
奏本人も何を言っているかわからなかった。
「………」
訪れる沈黙が怖くなる。しばらく少女は奏の瞳を見つめる。
少女からすればタチの悪い勧誘と間違われてもおかしくなかった。
それでも胸の内の想いを相手に伝えなければと思った。
そこまで奏という少女は、ある想いに支配されていた。
「……わかりました。貴女のお役に立てるのであれば喜んで」
しかし少女はなにも聞かなかった。
まるで奏の胸の内を見通す様に、
見つめ返す少女の瞳が奏を捉えて離さなかった。
「ああでも、その前にひとつだけ」
ふと少女が微笑んだことで目が逸れて解放される。
呼吸も忘れていたらしく大きく息を吐く奏。
「お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「あ、うん。宵崎奏。あなたは……」
「鶴音言葉と言います。よろしくお願いします。宵崎さん」
「うん。よろしくね」
これが2人の出会いだった。
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『それからナイトコードに入れて貰ったはいいものの、
そもそもなにをやるか決まってない状態でしたから大変でした』
『作曲をわたしがやってるから、アドバイスだけでも良かったんだけど……』
『あの時は雪さんが作詞に加えてミックスとアレンジをされていたので、
少しでも負担軽減できればと。結果的に良い形で落ち着きましたが』
『そうだね。雪の作業量も減ってその分作詞の質もあがったし』
雪よりもwordの方がミックスで優れていた為、
Kと雪による共同作品をwordが整えるというのがニーゴのスタイルになっていた。
どうしてかwordは人の意見を汲み取るのがうまく、それを音で応えてくれている。
今ではニーゴになくてはならない存在と化していた。
そこに問題があるとするならば、
他のメンバーよりもボイスチャットに参加する機会が少ないこと。
作曲中の奏もそうなのだが、彼女に関しては輪にかけて少ない。
その分良い作品で応えてくれていた為、4人は問題ないと思っていた。
『でも、どうしてあの時一緒にやろうって思ってくれたの?』
昔の話をしていたからか、ふと奏の頭に疑問が浮かぶ。
年端もいかぬ初対面の少女にああ言われて、
理由もなにも聞かず首を縦に振る者はどこにもいないだろう。
『ふふ、唐突ですね。Kはいつもそうです』
『うっ……ごめん』
『責めているわけではありませんよ。でも、そうですね……』
『奏が、私を必要としてくれたから。それだけです』
さらりと本心が漏れたようにも思える、息もつかぬ告白。
しかしそれはとてもさっぱりしたものだった。
『本当に、それだけ?』
『はい。意味なんてありませんよ』
『本当に……?』
『私にそれ以上を求められてもなにも出ませんよ?』
うまくはぐらかされたのかと疑ってしまうKであったが、
それ以上問いかけても同じ。ない、ないと繰り返すだけ。
『掴めそうで掴めない』そんな感覚を奏は感じながら、
2人は作業へと戻っていくのであった。