ある日のこと。5人がいつものように作業をしている時であった。
Amiaの眠気が限界に達し、続けてえななんも落ちようとしたところで、
なにか思い出したように話題を持ちかけた。
『ねえ──“OWN ”って知ってる?』
『OWN……?』
『あ! 知ってる知ってる! 一部で騒がれてるよね~!』
聞きなれぬ名前にKもチャットに戻ってくる。
Amiaは先程の眠気などどこ吹く風といったようで、さっそく乗っかっていた。
『そうなの? OWNって一体……?』
『OWN……サッカーか何かですか?』
『word、それはOWN GOALだよ。確かに間違ってはないけど……』
聞きなれぬ単語に対してwordは頭から該当する用語を引っ張り出すも、
英語が得意な雪に窘められる。
『あ、どこかで聞いたことがあると思ったらそういう……じゃなくて!
ネットでボク達みたいに曲を作ってるアーティストだよ。
投稿した曲、全部20万再生くらいいってて、その手の界隈じゃまさに時の人って感じ!』
『活動開始は……2週間くらい前じゃない! なにこれ、やっば……』
そういった噂に詳しいAmiaが解説するなかで、
話題になると踏んだえななんは真っ先にOWNの動画チャンネルに走っていた。
最初に投稿された動画は確かに2週間前と表記されているが、
曲数は4曲とかなりのペースで曲が投稿されている。
しかもそれら全てがAmiaのいう通り20万再生を達成していた。
大手の動画配信サイトにおける1つの名誉が10万再生という節目である中で、
1曲ならともかく全ての曲が達成しているのは、まさしく天才のソレである。
『えななん、そのURL送ってもらえる?』
『あ、うん。今チャットに送るね』
こればかりはKも興味を持ち食い気味にお願いした。
共有チャットに送られたURLを全員が踏み、その事実を目の当たりにする。
『あれ、えななん知らなかったの? 自分から話題持ち出したくせに~』
『あれは! だって、曲の方に圧倒されちゃって気付かなかったから……』
『えななんが、圧倒……?』
いつものように茶化すAmiaだが、えななんの反論も段々と小さくなっていく。
そんな変化に雪が思わず言葉を拾った。
『うん。なんていうか、Kの曲を初めて聴いた時と同じような感じがしたの。
言葉にできないことを全部形にしてくれる、みたいな……
でも……Kの曲と違って、OWNの曲はすごく冷たくて』
『冷たい?』
いつもよりテンションの低いえななんは語る。2人の曲の違いについて。
悲しみに暮れながらも温かさを忘れないK。
その温かさを捨て去りすべてを拒絶するOWN。
似て非なるモノ。
『でも、そこに魅力があって……
正直、ちょっと怖いくらいなんだけど。私は好きなんだ』
『わかるなー。あのキレッキレに鋭い感じがいいよねぇ。
あんな曲作れるなんて、いったいどんな人なんだろ?』
本来なら受け入れがたいものでも、どこか受け入れたい自分がいて、
それがえななんの好みに合っていた。Amiaも賛同している。
話題を広げるためにも疑問系で返すも、えななんは──
『さあね。興味はあるけど……知りたくはないかな。
……私ももっとすごい絵が描けたらな……』
『えななん?』
『あ……なんでもない。ごめん、気にしないで』
消え入りそうな声に、Kが思わず反応するもはぐらかされる。
そんなやり取りが行われている裏で、wordはひっそりとそのOWNが作った曲を流していた。
そして、ただ一言。
『冷たい曲』
まるですべてを拒絶するように、低いトーンで呟いていた。
『え? 今の声誰?』
『さっきの……もしかしてword?』
マイクをミュートにしていなかったからか、会話は打ち切られAmiaが戸惑いの声をあげる。
その正体にいち早く気付いたのは雪だった。
『word、どうかした?』
『いえ、なんでもありません。……私は明日早いので落ちますね。
みなさん、おやすみなさい』
『あ、うん、おやすみ~!』
『『『おやすみ』』』
全員の声を聞き届けてwordはチャットから退出する。
しかし彼女はログアウト表記にしたまま、OWNの曲を聞き始めた。
それと同時に、その名前の意味を調べ始める。
「OWN……自分自身の、独特な、個性的な、人の助けを借りない、と。
しかしOWN GOALともなれば自殺点、ですね」
そこまでこの人物が考えて付けたのだろうか。
そんな思考に浸るよりも前に、楽曲の歌詞が言葉の心に突き刺さる。
「……ああ、なるほど」
誰もいない部屋で1人、納得したように天井を仰ぐ言葉。
心に突き刺さった歌詞の棘は既に抜け落ち、痛みすら感じない。
引き続き流れる曲も、すべてを拒絶するように冷たいものだった。
それでも彼女は聞き続ける。自ら見つけた結論の答え合わせのために。
そして最後の曲を聞き終えた時、こう呟いた。
「思ったより素直なんですね。OWNさんって」
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一方その頃、Amiaとえななんもいなくなったナイトコードでは、
Kと雪がOWNの曲を聞き、そのままの流れで思い出話に花を咲かせていた。
『……ねえ、雪は、なんで一緒にやろうって思ってくれたの?』
『え?』
そしてその最後にKは質問を飛ばした。
いつか言葉に同じ質問をしたように。
『面白そう……って思ったからかな?
誰かと曲を作るなんて、なかなかできないことだし。
あとは、始めて聴かせてもらったKの曲がすごく印象的だったの。
あの時、私……』
すっ、と消えるような声で、彼女はこういった。
『──Kの曲に、救われたような気がしたんだ』
その言葉はKの元へと確かに届き、胸に響く。
『え? 救われた……?』
『……え? あ、私、なんか変なこと言っちゃったね。
そろそろ作業に戻ろう。K。朝になっちゃうよ』
『……う、うん』
『それじゃ、今日はここまでだね。またね、K』
またも誤魔化されるように話を切り上げられ、2人は作業に戻っていく。
その『救われた』という互いの意味を、知らないまま。