荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「自殺点」

ある日のこと。5人がいつものように作業をしている時であった。

Amiaの眠気が限界に達し、続けてえななんも落ちようとしたところで、

なにか思い出したように話題を持ちかけた。

 

『ねえ──“OWN ”って知ってる?』

『OWN……?』

『あ! 知ってる知ってる! 一部で騒がれてるよね~!』

 

聞きなれぬ名前にKもチャットに戻ってくる。

Amiaは先程の眠気などどこ吹く風といったようで、さっそく乗っかっていた。

 

『そうなの? OWNって一体……?』

『OWN……サッカーか何かですか?』

『word、それはOWN GOALだよ。確かに間違ってはないけど……』

 

聞きなれぬ単語に対してwordは頭から該当する用語を引っ張り出すも、

英語が得意な雪に窘められる。

 

『あ、どこかで聞いたことがあると思ったらそういう……じゃなくて!

 ネットでボク達みたいに曲を作ってるアーティストだよ。

 投稿した曲、全部20万再生くらいいってて、その手の界隈じゃまさに時の人って感じ!』

『活動開始は……2週間くらい前じゃない! なにこれ、やっば……』

 

そういった噂に詳しいAmiaが解説するなかで、

話題になると踏んだえななんは真っ先にOWNの動画チャンネルに走っていた。

最初に投稿された動画は確かに2週間前と表記されているが、

曲数は4曲とかなりのペースで曲が投稿されている。

しかもそれら全てがAmiaのいう通り20万再生を達成していた。

 

大手の動画配信サイトにおける1つの名誉が10万再生という節目である中で、

1曲ならともかく全ての曲が達成しているのは、まさしく天才のソレである。

 

『えななん、そのURL送ってもらえる?』

『あ、うん。今チャットに送るね』

 

こればかりはKも興味を持ち食い気味にお願いした。

共有チャットに送られたURLを全員が踏み、その事実を目の当たりにする。

 

『あれ、えななん知らなかったの? 自分から話題持ち出したくせに~』

『あれは! だって、曲の方に圧倒されちゃって気付かなかったから……』

『えななんが、圧倒……?』

 

いつものように茶化すAmiaだが、えななんの反論も段々と小さくなっていく。

そんな変化に雪が思わず言葉を拾った。

 

『うん。なんていうか、Kの曲を初めて聴いた時と同じような感じがしたの。

 言葉にできないことを全部形にしてくれる、みたいな……

 でも……Kの曲と違って、OWNの曲はすごく冷たくて』

『冷たい?』

 

いつもよりテンションの低いえななんは語る。2人の曲の違いについて。

悲しみに暮れながらも温かさを忘れないK。

その温かさを捨て去りすべてを拒絶するOWN。

似て非なるモノ。

 

『でも、そこに魅力があって……

 正直、ちょっと怖いくらいなんだけど。私は好きなんだ』

『わかるなー。あのキレッキレに鋭い感じがいいよねぇ。

 あんな曲作れるなんて、いったいどんな人なんだろ?』

 

本来なら受け入れがたいものでも、どこか受け入れたい自分がいて、

それがえななんの好みに合っていた。Amiaも賛同している。

話題を広げるためにも疑問系で返すも、えななんは──

 

『さあね。興味はあるけど……知りたくはないかな。

 ……私ももっとすごい絵が描けたらな……

『えななん?』

『あ……なんでもない。ごめん、気にしないで』

 

消え入りそうな声に、Kが思わず反応するもはぐらかされる。

そんなやり取りが行われている裏で、wordはひっそりとそのOWNが作った曲を流していた。

そして、ただ一言。

 

『冷たい曲』

 

まるですべてを拒絶するように、低いトーンで呟いていた。

 

『え? 今の声誰?』

『さっきの……もしかしてword?』

 

マイクをミュートにしていなかったからか、会話は打ち切られAmiaが戸惑いの声をあげる。

その正体にいち早く気付いたのは雪だった。

 

『word、どうかした?』

『いえ、なんでもありません。……私は明日早いので落ちますね。

 みなさん、おやすみなさい』

『あ、うん、おやすみ~!』

『『『おやすみ』』』

 

全員の声を聞き届けてwordはチャットから退出する。

しかし彼女はログアウト表記にしたまま、OWNの曲を聞き始めた。

それと同時に、その名前の意味を調べ始める。

 

「OWN……自分自身の、独特な、個性的な、人の助けを借りない、と。

 しかしOWN GOALともなれば自殺点、ですね」

 

そこまでこの人物が考えて付けたのだろうか。

そんな思考に浸るよりも前に、楽曲の歌詞が言葉の心に突き刺さる。

 

「……ああ、なるほど」

 

誰もいない部屋で1人、納得したように天井を仰ぐ言葉。

心に突き刺さった歌詞の棘は既に抜け落ち、痛みすら感じない。

引き続き流れる曲も、すべてを拒絶するように冷たいものだった。

それでも彼女は聞き続ける。自ら見つけた結論の答え合わせのために。

そして最後の曲を聞き終えた時、こう呟いた。

 

「思ったより素直なんですね。OWNさんって」

 

 

///////////////////////

 

 

一方その頃、Amiaとえななんもいなくなったナイトコードでは、

Kと雪がOWNの曲を聞き、そのままの流れで思い出話に花を咲かせていた。

 

『……ねえ、雪は、なんで一緒にやろうって思ってくれたの?』

『え?』

 

そしてその最後にKは質問を飛ばした。

いつか言葉に同じ質問をしたように。

 

『面白そう……って思ったからかな?

 誰かと曲を作るなんて、なかなかできないことだし。

 あとは、始めて聴かせてもらったKの曲がすごく印象的だったの。

 あの時、私……』

 

すっ、と消えるような声で、彼女はこういった。

 

『──Kの曲に、救われたような気がしたんだ』

 

その言葉はKの元へと確かに届き、胸に響く。

 

『え? 救われた……?』

『……え? あ、私、なんか変なこと言っちゃったね。

 そろそろ作業に戻ろう。K。朝になっちゃうよ』

『……う、うん』

『それじゃ、今日はここまでだね。またね、K』

 

またも誤魔化されるように話を切り上げられ、2人は作業に戻っていく。

その『救われた』という互いの意味を、知らないまま。

 

 

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