言葉がそこにたどり着いた時には話が進んでおり、
Kがその理由を説明しているところであった。
K達の後ろから姿を表した言葉は、邪魔をしないように物陰に身を隠し声だけを聞く。
「……根拠はない。でもわかる。
ニーゴで作ってる曲の傾向とは全然違うけど、間違いない。
……そうだよね、雪」
雪と呼ばれた先にいる、紫髪の少女。
いつものように明るく健気で、優しい雰囲気はどこにもない。
一瞬言葉の方を見たかと思いきや、すぐにKへと視線を戻す。
「……………うん。そうだよ。OWNは、私」
「マ、マジですか……」
「……雪が、OWN? ほんとに?」
「そういってる」
それから雪は淡々と、ただひたすらに3人を拒絶していた。
その態度にえななんが大声をあげつつ反論するも、知ったことかと持論を述べる。
自分はニーゴにいる必要がない。ニーゴにいても足りないから、と。
「ねえ、聞いてるんでしょword。出てきてよ。
そんなところでいつもみたいにいないふりしてないでさ」
まるで引きずり出すように、雪が声のボリュームをあげる。
先程気付いていながら呼ばなかったのも、Kの推理を聞き届けるためだったらしい。
声で釣られるように3人が振り返った場所には、三角のオブジェがある。
その後ろから、誰でもない少女が現れた。
「えっ、word? あの子が?」
「ずるいよね。自分だけ遠くから聞いてるだけで、なにもしない。
それなのに誰よりいろんなことを知ってる。そんなことをしてなにが楽しいの?」
「ちょ、ちょっと雪! まだあの子がwordだって決まった訳じゃ」
「いいえ、いいんですAmiaさん。私はword。本名は鶴音言葉と言います。
以後お見知りおきを」
饒舌になる雪に対して、非礼を詫びるように上品なお辞儀をすれば、
それにつられてAmiaとKがお辞儀をする。
「アンタ、いつからそこで聞いてたの!?」
「ちょうどKがOWNの正体を話していた時、ですかね。
でも驚きました。まさか雪がOWNだなんて──」
「もういいよ、そういうの」
そのまま口を開かせていれば、称賛の言葉を送っていただろう。
しかしそれすら雪は拒絶する。
「気持ち悪いの。あなたを見るのが。あなたの声を聞くのが。
あなたの全部が、気持ち悪い」
「ちょ、ちょっと雪なに言ってるの!? なんか変だよ!」
「変? 私が変なら、あなた達だってそうでしょ。
だって本当は、Kも、えななんも、Amiaも──
──誰よりも消えたがってるくせに」
「「……っ!」」「「…………」」
その言葉にえななんとKは息を呑み、Amiaはただ驚いた。
対するwordは、表情ひとつ変えることはなかった。
「どうして、私だけが変だなんて言えるの?」
「……ホントに、どうしちゃったの雪?
それにボクが消えたいってどういうこと?
ボクは毎日楽しい~し、そんなこと思ってなんて……」
「……そういうの、もういいよ」
いつものようにおちゃらけるAmiaだが、それすら封殺する。
まるで先にwordの言葉を遮ったように。
「Amia。あなたはいつも楽しそうにしてるけど、
私が言ってることの意味、全部わかってるんでしょ?」
「……へぇ」
その容姿から想像もつかないような低い声で感心して見せるAmia。
えななんとKは先程の言葉に囚われ耳に届いていない。
「……消えたがってる、ですか。なるほど」
「ああ、あなたは違うよねword。ならどうしてニーゴにいるの?
あなただってわかってるんでしょ、いる意味なんてどこにもないって」
「はたしてそうでしょうか」
「だからそういうの、やめてって言ってるでしょ。次に言ったら、ミクに消してもらうから」
横にいた白髪の少女を引き連れ、言葉の前に立つ雪。
しかしミクは戸惑いながらも問いかける。
「……あなたは、本当にそれでいいの? 本当にひとりで、見つけられるの?」
「ミクが、私が、まだ私を見つけられるっていうのなら、
全部捨ててでも探し出す。私には、それしか残されてない。
もしそれでも見つからないなら、私はもう……消えるしかない」
雪の独白を聴き終えて、諦めたようにミクが手をかざす。
合図ひとつで消すことができると言わんばかりに。
「ねえ、誤魔化さないで教えてよ。
この気持ち悪さはなに? あなたならわかるでしょ」
最後の問いかけ。選択肢などどこにもない。
しかしwordはただこう告げた。
「見つけてくれる相手も無しに、探し物が見つかるとお思いで?」
「っ! ミク!!」
相変わらずの正論に嫌気が差す。
雪の中で気持ち悪さが爆発しミクがwordに触れる。
その体は光に包まれ、やがて見えなくなった。
・
・
次にwordが目を覚ましたのは自室だった。
その後、ナイトコードから必死の呼び掛けが聞こえ始める。
『K! ねえ、K! ……奏! 大丈夫!?』
『K、wordもいるんだよね!? 戻ってたら答えてよ!』
『……ふたりとも……?』
『ああはい、大丈夫ですよ』
『K! 良かった……!』
『はぁ……とりあえず、みんな無事に帰ってこれたんだね。よかった~』
えななんは既にKしか眼中になく、Amiaは全員を心配していた。
お互いに安堵しつつも、現状を確認しあう。
セカイのこと。ミクのこと。そして、雪のこと。
『……ほんと、なんなの? 雪のやつ
自分がOWNだってこと騙して、こっちのこと馬鹿にして……!
すごいって言ってた私が馬鹿みたいじゃない!!』
『馬鹿にしていた、とは思えませんが』
激昂するえななんに対してwordが口を挟む。
確かに称賛したのはえななんだけではない。
それでもえななんにその言葉の意味は伝わらない。
『そういうwordだって、影で私のこと笑ってたんでしょ?
ボイチャにだっていつも遅れてやってきて、なんにも言わないのも全部そうだったんでしょ!?』
『ちょっとえななんそれはさすがに言い過ぎだよ!』
『Amiaは黙ってて。今はwordと話してるの。
ねえword、教えなさいよ。アンタがどうしてたのか』
雪がえななんに残した爪痕は、思いの外深かった。
そして雪がwordに告げた言葉もまた、怒りの矛先になるには十分な材料である。
『そう見えたのなら、そうなんでしょう』
『っ!!』
『あっ、えななん!』
Amiaがその名を呼ぶ前に、えななんがボイチャからいなくなる。
まだ不穏な空気が漂っていた。
『ねえword、さすがにさっきのはないんじゃない?』
『自分に植え付けられた印象はそう簡単には変えられません。
だからもう事実を言うしかなかった。相手の印象次第、だと』
『……ああ、そうなんだ。wordってそういう人間だったんだね』
植え付けられた印象、という言葉が酷く胸に突き刺さる。
反射的に低いトーンで冷酷に告げるAmiaの声。
『ごめんK、ボクも落ちるよ』
『あ、うん……』
半ば放心状態だったKは名前を呼ばれて我に帰る。
その声を聞き届けてからAmiaはいなくなった。
『……wordはこれからどうするの?』
『私のやることは変わりません。Kの曲を作り続けるだけです。
空いた分の作業が山積みですからね』
いつもと変わらぬ明るい声で答える。
そんな温かさに少しだけ胸が軽くなるも、
やはり雪に言われた言葉が胸に突き刺さっていた。
『足りなかった……か』
『……奏』
ふと声が漏れていたのか名を呼ばれる。
なんだろう、と耳を傾けているとひとりでにwordが話し始めた。
『消えたい、と願って消える人はいません。
大丈夫、奏なら出来ますよ。誰よりも救いたいと願う、貴女なら』
その言葉に、父の言葉が重なる。
『奏はこれからも、奏の音楽を作り続けるんだよ』
『違う……願いなんて、綺麗なものじゃない……』
『奏?』
『……ごめん、わたしも落ちる』
こうしてナイトコードからは誰もいなくなった。
残された少女は1人、天井をあおぐ。
「みなさんはやはり、同じなのですね。それは少しばかり──」
──羨ましい。
そんな言葉を呑み込んで、少女は眠りに就くのであった。