──雪がいなくなってから、さらに1週間が経過した。
25時。少女達はまた動き出す。しかしその動きはあまりにも歪だった。
『よーっし、サビ前はこんな演出でっと! K、見てもらってもいい?』
『Kさん、先程のミックスが終わりました。確認していただいても?』
『………』
『あー、えななん、今そっちのイラストどんな感じ?
よかったら動画に使いたいし確認くらいさせてほしいなーって……』
『今描いてる途中なの。黙ってて』
Kに問いかけても返事はない。えななんにおいては反発すらする。
まるで立場が逆転したように。
Amiaとwordはいつも通りのペースであるが、えななんとKは明らかな暴走状態である。
『……ところでさ、次の曲作詞って誰がやるの?
アレンジはwordがやってくれてるけど……』
『わたしがやる』
どうにか話題を切り替えようとするも、出てくるのは現実的な問題。
デモは完成したといっても、曲として完成させるには多くの行程が必要となる。
しかし曲の話題だったためか、Kが食い気味に返事を返した。
『いやいや、さすがにキツくない?
ただでさえKは作曲が大変なんだし、雪の代わりを探した方が……』
『そんな時間はない。わたしは作り続けなきゃいけないの。
もっとたくさん、曲を』
『Kさん、無理はいけません。少しは休ん『邪魔しないで』』
『えななんもちょっとは休憩しなよ、根詰めすぎても『うるさい!!』』
それを皮切りに、2人はミュートを決め込む。
これ以上なにを言っても無駄だった。
『……今話すのは難しそうだし……そっとしとこっか』
『そうですね』
こうして先導者と仲間を失った2人は、今出来ることを続けることしかできなかった。
・
・
作業を黙々と続けている2人のもとに、ある通知が飛んでくる。
『あ、OWNの新曲』
それは雪が生きている証拠とも言えるものだった。
しかしそこから聞こえてくるのは、相変わらず暗い歌詞とメロディ。
『なんていうか、今回もクるものがあるよね……』
『相変わらず、冷たい』
消えたいと想うからこそ、刺さるものがあるのだろう。
『あんな場所にずっといたら、まあこんな歌詞にもなっちゃうよねー』
『そうですね。でも──』
Amiaは誰もいないセカイの事を思い出しながら、そう告げる。
しかしあくまで陽気に。それにwordは同意するも言葉を続ける。
『──どうして曲を作るんでしょうね。別に生きるために必要不可欠、というわけでもないというのに』
『どうしてって……それはだって待ってくれてる人がいるし』
wordらしからぬありきたりな質問。
それに対してAmiaもありきたりな答えを返す。
OWNの楽曲は今も再生数を伸ばしコメントも上々。
そして人々は望む。次の楽曲を、新曲が聞きたいのだと。
『待ってくれてる人、ですか。では、誰も望んでいないのに作品を発表する人は?』
『え? えーっと……それは……』
『そんなの、決まってるじゃない……!』
戸惑うAmiaを押し退けて、ただならぬ怒気を放ったのはえななんであった。
どうやら通話から退出した後も会話だけは聞いていたらしい。
『見返してやるのよ、馬鹿にされた分、アンタも、雪も!!
才能があるやつ全員、私だって出来るんだって!!』
『見返す……ええ、動機としては完璧です』
矢継ぎ早に意見を投げ返すえななん。
しかしそれに対してwordの答えはシンプルなものだった。
『つまり曲も、絵も、自分の意思を相手に示すもの。
言葉だけでは足りないから、芸術という表現技法を選んだ。
そうですよね、えななんさん』
『……勝手に言ってれば。私は作業に戻るから』
最初から知っていたかのように、えななんに対して同意を求める。
いつまでも気にくわない態度を崩さぬwordに愛想を尽かし、再び作業へ戻ろうとしたところで。
『え、待って。それならもしかして雪は……
自分がわかってほしいから、まだ曲を作ってるってこと?』
Amiaがなにかに気付いたように声をあげた。
『恐らく。本当に拒絶するなら出会い頭にミクをぶつけて消せばよかったんです。
でも彼女はそうしなかった。それはまだ貴女達に望みがあったから。
そして今も、音楽という形で自分の心境を紡いでいる』
『え……あ……』
その気持ちが誰よりも強いのはえななん本人である。
自分の絵で、誰かに認められたいという承認欲求。
しかしそれが解っても、相変わらず才能の違いに溝を感じてしまう。
見て見ぬふりを続けてしまうのが、今のえななんだった。
『……だったとしてもあんなすごい作品作れるなら、どうでもいいでしょ。そんなこと』
そう言い残して再びミュートを決め込む。しかしスピーカーはまだ残っていた。
『そっか……wordにはOWNの、雪の曲がそんな風に聞こえたんだね』
『元々、歌は信者が神に捧げる神聖なものですからね。
想いを伝える、という点に関しては芸術の中でも最上位かと』
『それ、Kにも教えてあげてよ』
『そうですね。でも、Kさんなら自分で気付けると思います。
なによりも曲に、音楽に思い入れの強い彼女なら』
こうしてまたいつものように夜は過ぎていく。
最初のように歪な空気は、ほんの少しだけ軽くなった気がした。