翌日、25時。
『やっほー! 今日もみんなでがんばろーねー!
……って、あれ、wordだけ? Kとえななんは?』
『まだ離席中ですね。えななんさんは遅れるそうです。
Kさんは……返事がなくて』
『まさか倒れちゃったとか……? そんなことないよね……』
『わかりませんが、今は私達の出来ることをするだけです。
最悪の場合、作曲も作詞も私がやります』
『最悪の場合って……まあいいや。
スピーカーはオンにしてるから、なにかあったら教えてよ』
『わかりました』
当然のごとくいない雪に関しての話題を避けつつ、
言っても聞かないwordに急かされながらもお互いの作業に戻っていく。
それからしばらくして、えななんがボイチャに参加した。
『あれ、Kは?』
『あ、えななんこんこん~。Kは返事待ちだって』
『そう、なんだ。それで、次の新曲はどうするの?
雪がいないんじゃなにもできないけど……』
先日の話題を掘り返す。
Kがいない状態でも疑問がつきないのはえななんも同じであった。
『今はKが作詞、wordがアレンジするって言ってるけど……』
『ふーん……なら別にいいじゃない。雪はひとりであんなすごい曲作れるんだし』
『まあ、そうかもしれないけど……』
先日の話を踏まえて、Amiaは考える。
OWNとして活動するのは、Kといても見つけられなかったから。
だからすべてを捨ててまで、探し出すと言った。そしてなにより──
『変? 私が変なら、あなた達だってそうでしょ。
だって本当は、Kも、えななんも、Amiaも──
──誰よりも消えたがってるくせに』
ああ言ったからには、自分も消えたがっているということ。
でもそうだとするならwordの見解に矛盾が生じる。
だからこそ、自分だけが知っている情報を伝えるべきだと思った。
『雪も、本当はずっとキツかったんだろうな』
『え?』
こうしてAmiaは語り出す。雪が消えた日に聞こえた雪と母親の話を。
人から印象を与えられ、それが正しいとして認識しつつ、矛盾を孕んで生きていく。
それに気付くことさえできず、だんだんと自分が見えなくなっていき……そして限界を迎えた。
『だから、思うんだよね。もし雪が苦しんでて、そのせいでああなっちゃって、
それで、消えちゃうっていうのは……ボクは、ちょっと寂しいなって』
自分と同じ、他人に縛られる運命。
その思いを少しでもわかってくれるかもしれない相手が雪だ。
確証はないが、期待はある。
その結果得られるものがあると、以前の言葉とのやり取りで痛感していた。
『……………』
『……ボク、もう1回、雪と話したいな。
あの“Untitled”って曲を再生すれば行けるんだよね。
それでなら……』
『たしかに、そう言ってたけど……
でも、肝心の雪があんな感じじゃ、会いに行ったところで──』
いくらOWNとして曲を発表し、心のどこかで求めているとは言え彼女は拒絶している。
それこそすぐにミクを差し向け消してしまうかもしれない。
そんな不安が絵名にはあった。
しかしその思考を遮るように通知音が鳴り響く。
それはOWNの新曲通知。それが立て続けに3回。
『3曲連続……? ちょ、word!』
『はい。こちらでも確認しました。今聞いてるところです』
『ちょ、抜け駆けして……私も!』
遅れて2人も新曲を再生する。
それは今までよりも突き刺し、抉りとるようなもの。
それこそ持っていかれた、と表現するのが近い。
『この曲……もう助けてほしいとかそんなのじゃないでしょ……』
『そう、だよね……wordはどう思う?』
『………』
返事はない。聞き入っているのか、答えに迷っているのか。
2人には解らなかった。
『ああもう、肝心なときに役に立たないんだから!』
『えななん落ちつい──』
荒ぶるえななんを落ち着かせようとして、またも通知音が響く。
誰かがボイチャに参加した時のものだった。
『……えななん、Amia、word』
消え入りそうな声でその名を呼ぶ。彼女の名前は。
『『K!』』『Kさん』
ニーゴのリーダー、Kであった。
彼女は今まで返事をしなかった理由を説明する。
セカイに行き、そこで得たひとつの答えを形にすると。
『わたしは雪のために曲を作る。雪を……救いたいの』
その言葉に、3人は笑みをこぼす。
『wordの言った通りだね。Kはちゃんと、自分で見つけて来てくれた』
『ほんと、腹立つくらい正確にね。これだから正論botは嫌い』
『え? wordが?』
『Kさん、その話については追々。今は曲を作るんですよね。お手伝いします』
話を知らないKが戸惑うも、その意思を尊重しつつwordが後押しする。
理由を聞かないのはいつものことだった。
『ありがとう。じゃあいつもどおりミックスだけお願い。
今回は曲だけだから、えななんとAmiaは──』
『ねえ、K。ボクも一緒に連れてってよ』
『え?』
申し訳なさそうに2人へ言葉を送るKだが、それをAmiaが止める。
『もちろん、ボクが行ってもなんにもなんないし、
雪のことは、雪にしかわかんないけど。
でも、ボクの感じた気持ちを伝えたっていいと思うんだよね』
『……雪がいなくなったら、寂しいって気持ちはさ』
『Amia……わかった。セカイに行く時は、連絡する』
『ありがとう、K』
AmiaにはAmiaの想いがある。それを汲み取れぬほど、Kも鈍感ではない。
『……………』
そんな会話に対して、えななんはただ迷うだけ。
『……えななんは、一緒に行かない?』
そんな彼女に対して、優しく手を差しのべる。それでも。
『行かない。KもAmiaも、雪のこと構いすぎじゃない?
しんどいのなんて、みんな一緒でしょ。雪だけ特別なわけじゃない。
……あのセカイとかいう変な場所にいるってところだけは、ちょっと違うかもしれないけど』
『でも、だからって雪のためにあんなところにいきたいなんて、私は思わない。
……だから、行かない』
馬鹿にされたまま彼女の前に姿を見せるのは、自分の許さなかった。
凡人であるが故の、意地であり見栄だった。
『……そっか』
『……wordは、どうする?』
『私も行きません。私が行っては曲を聴いてもらうどころではないでしょうし』
迷いはなかった。それがどこか寂しく感じるもなにも言い返せない。
それはひとえに雪の言葉があるからで。
『気持ち悪いの。あなたを見るのが。あなたの声を聞くのが。
あなたの全部が、気持ち悪い』
『だからそういうの、やめてって言ってるでしょ。次に言ったら、ミクに消してもらうから』
雪が最も強く拒絶した人物。それを彼女自身が理解していないわけがない。
『そっか……でもありがとう。えななん、word。話を聞いてくれて』
こうして2人は作曲作業に移るのであった。