やがて曲は完成し、KとAmiaはセカイへ旅立った。
今、ナイトコードにはえななんとwordだけが残っている。
『ねえ、なんでアンタは行かなかったの?
一緒に曲作ったのに、雪の反応見たくないわけ?』
『気にならないと言えば嘘になりますが、
それ以前に私は雪さんに拒絶されてますからね』
それは尤もだとえななんも理解していた。
でもそれより創作者として、感想を知ることがなによりの活力になることは知っている。
それは称賛だけではない。指摘だってそうだった。
ちゃんと自分を見てくれている、なによりの証拠だ。
でも画面の向こうの少女は、それすら興味を失っている。
誰よりも的確な言葉をくれるのに、誰よりも冷たかった。
『拒絶とは意識的な物です。時として無意識をも欺くもの。
一瞬の可能性すら無下にしてしまう。
それは今の雪さんにとっても、Kさんにとっても、Amiaさんにとっても、よくありません』
『じゃあアンタはその可能性のために、自分を捨てるってこと?』
『それが最良の未来を導くのであれば』
『……アンタの言ってること、ホントわかんない』
むしろどこか、理解してはいけない気がした。
創作者としての観点とどこかずれている。いや、むしろこれは──
『えななんさん』
『なに? なにか言い忘れた?』
『ああいえ、私からも少し質問がありまして』
思考を遮るように、または先程の質問のお返しか今度はwordが話しかけてきた。
別段することもないのと、怒りが静まっているからか聞くだけ聞こうと思うえななん。
『OWNの曲、好きなんですよね。どういったところが好きなんですか?』
『……前にも言ったでしょ。Kの曲と違って、OWNの曲はすごく冷たい。
ちょっと怖いくらいなんだけど、そこが魅力的だって。でも……』
『でも?』
『雪が、あんなこと言ったから……!』
その曲を聞くとどうしても雪の顔がちらつく。
自らの作品を囃し立てていた本人が、あんなろくでなしだったと気付いたからには、
もう素直な視点でOWNの曲を聞けなくなっていた。
『だから、見返したい! 私は、私の方法で! 雪を!』
『……そうですか。では、今OWNの曲は嫌いだと』
『それは……っ!』
嫌い、とは言えなかった。なぜなら今もOWNの新曲を聞いているから。
嫌いなのに、聞いてしまう。
どれだけ脳裏に雪の姿が写っても、耳を自然と傾けてしまう。
『嫌いなわけ……ないじゃない!!』
それがえななんの本心だった。
『それなら、同じ作り手としてやることはひとつではありませんか』
『……でも、KとAmiaには、行かないって』
本心に気付いていても、やはり先程の見栄が足枷となって動けない。
誰よりもプライドが高い自分自身が、恨めしかった。
『では言葉を変えましょう。このままでは
『っ! そんなこと、アンタに言われなくても私が一番わかってる!!』
その言葉を最後にえななんは沈黙した。恐らくセカイに行ったのだろう。
『──私にはそれに対して応援することも、背中を押すこともできませんが……
貴女達が帰ってきた時に、出迎えることくらいは出来るかと思います』
誰もいない空間に少女は1人、優しく呟いた。
・
・
やがて、ナイトコードから声が聞こえてくる。
『あ……いつの間に……?』
『戻ってきた! みんないる?』
『うん、ちゃんと戻ってる』
『雪は……』
長い沈黙。永遠かと思われるその静寂は、1人の少女によって破られた。
『……いるよ』
『雪!』
『……そっか。よかった』
それは紛れもなく雪の声だった。
以前のように明るく優しいものではないが、たしかにそこにいる。
『みなさん、おかえりなさい』
『word……うん。ただいま』
『ただいま~♪ お蔭様で無事雪を連れて帰ってこれたよ~!』
『……その、ただいま』
『……? ただ、いま?』
wordの出迎えにそう返す4人。
心なしかどこか暖かく感じられたのは、気のせいかもしれない。
『wordは最後まで来なかったんだね』
『はい。出迎える人が1人もいないのでは、寂しいじゃないですか』
『……wordは、寂しいかった?』
『そうですね。雪さんがいないナイトコードは、どうも暗かったですから』
『あーはいはい、そういうのいいから。でも、なんかちょっともったいなかったかも』
セカイにいかなかった理由を唯一知るえななんが、話題を変えようと必死に頭を回す。
そして導き出されたのはセカイでの不思議な出来事だった。
『そうそう、“Untitled”が曲に変わってさ! みんなで歌ったんだよね……って、あー!!』
なにか異変に気付いたのか、大声を張り上げるAmia。
あまりの大きさにみなが耳を塞いだ。
『うるさっ! なによ急に!?』
『共有フォルダ見てよ! “Untitled”が……!』
『共有フォルダの“Untitled”……? それがどうかして……』
その声に導かれ、Kがフォルダを確認するとタイトルが変わっていた。
“悔やむと書いてミライ”と。
『ミクは、本当の想いを見つけたら、想いから歌が生まれる……って言ってた』
『じゃあ、これがさっきの……』
『……うん……』
その変化と、雪が戻ってきたことに対する嬉しさでみなが沸き立っている。
しかし現実の時間はそんなにいい時間ではなかった。
『……もう朝になるから、解散しよう。
早めに休んで……また明日から、次の曲を作り始めたい』
『そうだね。あと実際すっごく眠いし……ふわぁ』
『それじゃあ──』
『あ、ちょっと待って!』
いつものようにKが絞めようとしたところで、Amiaがまたも声をあげる。
それはオフ会をやろう、というものだった。