荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第10話「おかえりなさい」

やがて曲は完成し、KとAmiaはセカイへ旅立った。

今、ナイトコードにはえななんとwordだけが残っている。

 

『ねえ、なんでアンタは行かなかったの?

 一緒に曲作ったのに、雪の反応見たくないわけ?』

『気にならないと言えば嘘になりますが、

 それ以前に私は雪さんに拒絶されてますからね』

 

それは尤もだとえななんも理解していた。

でもそれより創作者として、感想を知ることがなによりの活力になることは知っている。

それは称賛だけではない。指摘だってそうだった。

ちゃんと自分を見てくれている、なによりの証拠だ。

 

でも画面の向こうの少女は、それすら興味を失っている。

誰よりも的確な言葉をくれるのに、誰よりも冷たかった。

 

『拒絶とは意識的な物です。時として無意識をも欺くもの。

 一瞬の可能性すら無下にしてしまう。

 それは今の雪さんにとっても、Kさんにとっても、Amiaさんにとっても、よくありません』

『じゃあアンタはその可能性のために、自分を捨てるってこと?』

『それが最良の未来を導くのであれば』

『……アンタの言ってること、ホントわかんない』

 

むしろどこか、理解してはいけない気がした。

創作者としての観点とどこかずれている。いや、むしろこれは──

 

『えななんさん』

『なに? なにか言い忘れた?』

『ああいえ、私からも少し質問がありまして』

 

思考を遮るように、または先程の質問のお返しか今度はwordが話しかけてきた。

別段することもないのと、怒りが静まっているからか聞くだけ聞こうと思うえななん。

 

『OWNの曲、好きなんですよね。どういったところが好きなんですか?』

『……前にも言ったでしょ。Kの曲と違って、OWNの曲はすごく冷たい。

 ちょっと怖いくらいなんだけど、そこが魅力的だって。でも……』

『でも?』

『雪が、あんなこと言ったから……!』

 

その曲を聞くとどうしても雪の顔がちらつく。

自らの作品を囃し立てていた本人が、あんなろくでなしだったと気付いたからには、

もう素直な視点でOWNの曲を聞けなくなっていた。

 

『だから、見返したい! 私は、私の方法で! 雪を!』

『……そうですか。では、今OWNの曲は嫌いだと』

『それは……っ!』

 

嫌い、とは言えなかった。なぜなら今もOWNの新曲を聞いているから。

嫌いなのに、聞いてしまう。

どれだけ脳裏に雪の姿が写っても、耳を自然と傾けてしまう。

 

『嫌いなわけ……ないじゃない!!』

 

それがえななんの本心だった。

 

『それなら、同じ作り手としてやることはひとつではありませんか』

『……でも、KとAmiaには、行かないって』

 

本心に気付いていても、やはり先程の見栄が足枷となって動けない。

誰よりもプライドが高い自分自身が、恨めしかった。

 

『では言葉を変えましょう。このままでは()()()()されますよ?』

『っ! そんなこと、アンタに言われなくても私が一番わかってる!!』

 

その言葉を最後にえななんは沈黙した。恐らくセカイに行ったのだろう。

 

『──私にはそれに対して応援することも、背中を押すこともできませんが……

   貴女達が帰ってきた時に、出迎えることくらいは出来るかと思います』

 

誰もいない空間に少女は1人、優しく呟いた。

 

 

 

やがて、ナイトコードから声が聞こえてくる。

 

『あ……いつの間に……?』

『戻ってきた! みんないる?』

『うん、ちゃんと戻ってる』

『雪は……』

 

長い沈黙。永遠かと思われるその静寂は、1人の少女によって破られた。

 

『……いるよ』

『雪!』

『……そっか。よかった』

 

それは紛れもなく雪の声だった。

以前のように明るく優しいものではないが、たしかにそこにいる。

 

『みなさん、おかえりなさい』

『word……うん。ただいま』

『ただいま~♪ お蔭様で無事雪を連れて帰ってこれたよ~!』

『……その、ただいま』

『……? ただ、いま?』

 

wordの出迎えにそう返す4人。

心なしかどこか暖かく感じられたのは、気のせいかもしれない。

 

『wordは最後まで来なかったんだね』

『はい。出迎える人が1人もいないのでは、寂しいじゃないですか』

『……wordは、寂しいかった?』

『そうですね。雪さんがいないナイトコードは、どうも暗かったですから』

『あーはいはい、そういうのいいから。でも、なんかちょっともったいなかったかも』

 

セカイにいかなかった理由を唯一知るえななんが、話題を変えようと必死に頭を回す。

そして導き出されたのはセカイでの不思議な出来事だった。

 

『そうそう、“Untitled”が曲に変わってさ! みんなで歌ったんだよね……って、あー!!』

 

なにか異変に気付いたのか、大声を張り上げるAmia。

あまりの大きさにみなが耳を塞いだ。

 

『うるさっ! なによ急に!?』

『共有フォルダ見てよ! “Untitled”が……!』

『共有フォルダの“Untitled”……? それがどうかして……』

 

その声に導かれ、Kがフォルダを確認するとタイトルが変わっていた。

“悔やむと書いてミライ”と。

 

『ミクは、本当の想いを見つけたら、想いから歌が生まれる……って言ってた』

『じゃあ、これがさっきの……』

『……うん……』

 

その変化と、雪が戻ってきたことに対する嬉しさでみなが沸き立っている。

しかし現実の時間はそんなにいい時間ではなかった。

 

『……もう朝になるから、解散しよう。

 早めに休んで……また明日から、次の曲を作り始めたい』

『そうだね。あと実際すっごく眠いし……ふわぁ』

『それじゃあ──』

『あ、ちょっと待って!』

 

いつものようにKが絞めようとしたところで、Amiaがまたも声をあげる。

それはオフ会をやろう、というものだった。

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