午後の授業もほどほどに放課後へ突入するや否や、
理那の机上にはお昼と同じ光景が広がっていた。
「理那ー、今日どうするよ?」
「私はパスー。ちょっと勉強してから帰るからー」
「オッケー、委員長は?」
「私も理那に付き合うよ。ごめんね」
「はーい。それじゃあ2人ともまたねー」
「またねー」「うん、また」
クラスメイトの誘いを断りつつ、
椅子を持ち出した言葉は理那の席までやってきていた。
相変わらずヘッドホンを片手に、
ミキサーやらリズムマシンが映った画面で試行錯誤を繰り返している。
その手元には参考書を書き写したであろうノートがある。
箇条書きや表を多用されており、到底勉強できない人間のものとは思えない。
そんな作業を延々と続けて時間が過ぎていく。
しかしうまく形にならないのか頭を掻きむしっていた。
「もし良かったらなにか買ってこようか?」
「いんや、もうすぐ終わるから大丈夫。根詰めすぎるのもだめだからねー」
「そっか」
ふと声をかけるも理那はむしろそれを機会と捉え、音量調整に集中し始める。
作業終わりになにか差し出せたらな、と思い教室を後にした言葉。
「(理那はよく食べるし、パンも買ってあげた方が喜ぶかな)」
「あれ、鶴音さんだ。ずいぶん遅いね、委員会の仕事?」
そんな中で杏とすれ違った。
鞄を肩にかけているところを見るに、今から帰るところらしい。
「あ、白石さん。ちょっと理那に付き合っててね。そっちは部活?」
「そうそうバレー部の助っ人。理那ってば最近忙しいみたいだから呼ばれることも多くってさー」
理那は部活に入っていないがその実、
運動神経がよく知り合いも多いため部活の助っ人を頼まれることも多い。
しかし今はDJの勉強で忙しいために全て断っていた。
「ってことはまだ理那も帰ってないの? ちょっと気になるし覗いてみよっかな」
「あ、ならもし聞かれたら購買でなにか買ってくる、と伝えてくれると嬉しいかな。
なにも言わずにきちゃったから」
「オッケー。理那ってば何してるんだろ」
そこで別れた2人はそれぞれ目的地に向かって歩き出すのであった。
・
・
言葉が購買から戻ってくると、そこには理那と杏が仲睦まじく話し合っていた。
「で、ここは逆にスローテンポでキックマシマシにして……」
「なるほどねー、ここで上げてるから休憩みたいな感じにしてるんだ」
「そうそう。あ、言葉お帰りー」
杏が言葉の椅子に座りながら、理那のヘッドホンを使っている。
「あ、ごめんね椅子勝手に使っちゃって」
「別にいいよ。それより余り物しかなかったけど、良かったら」
「お、流石言葉お昼も貰っちゃったのにいいの?」
「うん。あ、お金は気にしないで。白石さんも良かったら」
「え、私の分も? ありがとうー! お腹ペコペコだったんだ」
2人は差し出されたパンを頬張りながらも、相変わらずパソコンに目を向けている。
そのそばから立って眺めていると、理那がちょいちょいと手招きした。
「ねえ言葉も聞いてみてよ。感想聞きたいなー」
「あ、うん。いいよ」
ヘッドホンから流れてくるのは、
本来の音源とは違う差し替えられたメロディーと時おり聞こえてくるフレーズ。
聞きなれたバーチャルシンガーの曲だが、
本来よりも盛り上げることに特化したアレンジになっている。
「すごい……これってリミックスっていうんだっけ」
「そそ。ただちょーっと物足りないんだよねー」
「これで物足りないの? なんていうかこういう感じの曲聞かないからわからないけど……」
「あ、そっか言葉ってば結構シンプルなやつ好きだもんね」
日頃からその演奏を耳にしているだけあって、
どういった曲が好みなのかなどお見通しだった。
「ってことは杏だけが頼みの綱かー。この前聞かせてくれた曲もEDMとかそういう系だったよね」
「そうだねー……でもこういうのって今まで聞いてきた音楽の数が影響してくるし、
よかったらCD持ってこよっか?」
「えっホントに? じゃあお願いしよっかな」
そんな会話をしている間でも、言葉は食い入るように楽曲を聞いていた。
確かにこういった曲は聞かないものの、なにか助言できることはないか、と。
「……インパクト、かな」
「えっ?」
「なんて言うか、掛け声とか、ガツンって来る感じのアクセントがあれば変わると思う。
後は盛り上げる時に使う、だんだん音が上がっていくアレとか……
あ、でもそれって人のスタイルにもよるから一概にも言えないんだけど」
「それすっごくわかる! 私だったらここのフレーズリピートしたりして……」
ヘッドホンから漏れる音を聞きながら杏も同意する。
伊達に彼女も場数を踏んでおらず持ち歌も少なくない。
歌唱力だけでなく『自分の歌』として歌い上げる力は確かなものであった。
「いやー流石経験者のいうことは違いますなあ。私なんかとは大違い」
「でも理那だってここまで出来るなんて大した腕だよ。
正直こんなにうまいなら音楽の学校とかに行った方がよかったんじゃない?」
「かもねー。でもそうしたら言葉と杏に会えなかったし、それに……」
理那はパソコンを操作し、動画サイトのお気に入り登録欄を表示する。
そこには、あるアーティストの楽曲が並んでいた。
「この世には、もっとすごい人達がごまんいるからね」
その名は『
投稿された楽曲は全て投稿して数日足らずで20万再生を達成していた実力者。
少し前までは時の人として騒がれていたが、
今は更新もなくなり悔やむ声がコメント欄に溢れている。
「あー、この人ね。私も知ってるけど曲がちょーっと暗すぎるっていうか……」
「あはは、杏はもっとテンションカチ上げる曲の方が好きそうだもんねー!」
笑って誤魔化す理那だが、言葉はある1点においてこの人物を認識していた。
「これって確か理那が最初に勧めてくれた人、だよね」
「あ、やっぱり覚えててくれたんだ」
言葉がセカイに導かれて間もない頃、理那が勧めたアーティストがOWNだった。
勧めた理由としてはその頃ニーゴの楽曲を好んでいたからに他ならないが、
話題の共有という側面が強い。
「じゃあとりあえず今日は解散! 杏、良かったら連絡先交換しとこうよ」
「いいね、それに何かあったらうちの店まで来てよ! 協力するしさ」
「ありがとう! やっぱり持つべきものは友だよねー!」
こうして3人は居残り勉強もほどほどに帰路につくのであった。