荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「第三の刺客Ⅱ」

 

「よーし出来た。すみません結構使わせてもらっちゃって」

「気にするなと言いたいところだが、それは俺に言うよりそのお客さんに言った方が良さそうだ」

 

こはねがやって来て少し経った後、理那がようやくこちらに戻ってきた。

こちら、といっても位置ではなく現実の問題だが。

 

謙が向ける視線を追えば、自然とこはねの元にたどり着く。

 

「っと、ごめんなさい。ちょっと集中しちゃってて。

 すぐ空けるからもう少し待っててもらっていいかな」

「あ、いえ気にしないで下さい。それより、出来たっていうのは曲……ですか?」

「あはは違う違う。私みたいなトーシロが0から作るなんてできないよ。

 アレンジっていうかリミックスだね。もしそっちが良かったら聞いてく?」

「はい! 是非!」

 

この店で様々なアーティストがプレイしているのはこはねも知っていた。

しかし自分達とは別の、同年代の少女がやっているのは見たことはない。

そんな理由から物腰柔らかに受け答えする理那に同意を示す。

 

「それじゃ、しっかり付いてきてね!」

 

そんな掛け声と共にスピーカーから流れ出したのは──

 

「えっ、ウソ!?」

「この曲……!」

「あ、リンちゃんとレンくんの曲だー」

 

こはねと杏の『十八番』であった。

しかし原曲に比べて重低音を効かせたものであり、

Bメロはチップチューン調に仕上がっている。

 

ここの客からすれば聞きなれた曲であり、一気にその注目を浴びた。

しかしその旋律はノるというよりも聞き入るものに近い。

 

それでも理那の闘志はひしひしと伝わってきた。

やがて曲を終えて機材を片付け1人席へと戻る。

呆然と眺める客を余所目も振らず、ソファにどっかりと座り天井を仰ぐ様は、

まるで疲れ果てたサラリーマンのようだった。

 

「サンドイッチ食べます?」

「あーうん。ありがと」

 

最初に声をかけたのは文だった。それも称賛の声ではなく心配によるもの。

文からサンドイッチを受け取りつつ頬張る。

それをコーヒーで一気に流し込んでから、こはねの方へと向き直った。

 

「あ、ごめんねライブスペース占領しちゃって。もう大丈夫だから使っちゃっていいよ」

「あ、はい! ありがとうございます」

「こちらこそありがとね。ねえ杏、あの子って一緒にお化け屋敷来てた子だよね?」

「そうそう、そういえば紹介してなかったね。私の大切な相棒」

 

ライブスペースに駆けていくこはねの背を目で追いながら、理那は杏に問いかける。

かつて屋上で聞いた告白の相手だと気付くのに、そこまで時間を要しなかった。

 

謙の許可をもらいつつ歌い始めるこはね。その歌声に理那と文は目を丸くした。

 

「わーお、さすが杏の相棒さん」

「こはねちゃんかっこいい~!」

 

先程まで圧倒されていた客達も、だんだんとこはねの空気に塗り替えられていく。

確かな実力と少ないながらも経験から得た覚悟が伝わっていた。

その証として文は身振り手振りで喜びを伝えており、

こはねは恥ずかしそうに頬を赤く染めている。

 

「あはは、文ちゃんってばあんなに夢中になってる」

「それだけあの子のことが好きなんでしょ。相棒取られても知らないよー?」

「それは文ちゃんでも流石に勘弁かなー。そういう理那は音ネタ、録らなくていいの?」

「今はいいよ。っていうかもうそんな空気じゃないしね」

 

ほどなくして歌も終わり、観客となった面々からリクエストを受けていた。

 

「ねえこはねちゃん、わたしと一緒に歌おうよー」

「いいよ。なに歌おっか」

「それじゃあねー」

 

文もそれにあやかってリクエスト……ではなくその先を行く。

歌唱力は到底及ばなくても、恐れず突っ込んでいく心を持った彼女に怖いものはなかった。

歌唱と舞踏による変わった舞台は観客を魅了していく。

 

「(やっぱり、どんな分野にも天才ってのはいるもんだね)」

 

2人のライブを眺めながら理那は思い知る。

 

万能の天才を目の当たりにして、

それでもどれかひとつでもと願いを込め打ち込む日々。

しかしどれも自分を満足させることはできず、結果も得られなかった。

 

そして今は音楽という道に進んでいるものの、

やはり『格の違い』を思い知らされる。上り詰めても更なる上が存在する。

皆が最初からそうでなかったと知っていても、今自分のいる場所と比べてしまう。

 

「……理那?」

 

どこか遠くを見つめる理那に思わず声をかける杏。

その表情はいつしか屋上で見た顔に似ていた。

 

いつもより騒がしいWEEKEND GARAGEでの時間は、こうして過ぎていく。

 

 

 

店を後にしつつ、文と理那の2人はビビッドストリートを歩いていた。

 

「ごめんなさい、わたしのせいで全然録音できなかったですよね」

「気にしないで。むしろお陰さまで人前で披露できたんだから」

 

そのタイミングで文も本来の目的に気付いたのか、肩を落として謝っていた。

そんな文に対して、今日得られたものに感謝を述べる理那。

自分の実力の無さを実感できただけでも収穫はあったと言える。

 

「はーあ、結構手応えあると思ったんだけどなー」

「確かにお客さんはノッてなかったですけど、でも……なんていうんだろ。

 凄くてなにも言えなかった、みたいな?」

 

観客として見ていたからこそ感じられるものもあると言わんばかりに、

あの時の空気感を思い出しながら、文が励ましの言葉を送る。

 

「へえ、文ちゃんってばいい勘してるんじゃん」

「えへへ、誉めてもなにも出ませんよー」

「じゃあ嬉しいからお姉さんがなにか買ってあげよーう!」

「わーい!」

 

自分とは違った感性の持ち主。

どこか説得力のある言葉に癒されながらも、2人は帰路につくのであった。

 

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