荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第5話「巡りめぐる出会いⅠ」

理那は家に着くなり、部屋着に着替えて散らかった部屋の椅子に身を投げ出す。

その衝撃で机の上に山積みになった本が崩れ床に散らばった。

 

「あーあー……せっかく積んでたのに」

 

それはDJに関する本……ではなくカウンセリングに関する本だった。

といっても本屋で目についたものをある程度買い揃えただけに過ぎず、

今や無用の長物として部屋の一部を占拠していた。

 

本棚へ戻そうとしても、今度は外科に関する本で溢れている。

入れる余地などどこにもない。

クローゼットの中に押し込もうと開けば、古びたアルバムが何冊も積み上がっている。

こちらも入れる余地はなかった。

 

「いらないなら捨てたらいいんだけど、捨てられないんだよねー」

 

理那の部屋を占拠しているのはいつも本ばかり。

しかも全て自分で選んだものなのだからタチが悪かった。

 

一度こうだと決めた時の行動は早いものの、

段々と楽しさが消えていきいつしか手をつけなくなっていく。

昔も、そして今も。

三つ子の魂百まで、とはよく言ったものだった。

 

とりあえず部屋のすみに散らばった本を積み上げ、

机上に広がるDJの参考書を読み漁る。

良いと思ったところは全てノートに書き写しては、

箇条書きや表を多用し見やすくまとめていく。

 

そのままいつしか時が過ぎ、

11時に差し掛かろうとしたところで理那の腹の虫が鳴った。

 

「……うん、今日はこれくらいにしよっかな」

 

適当なところで切り上げて食卓へ移動する。

小さな灯りがついており、1人の男性がお茶漬けを(すす)っていた。

 

「父さん帰ってたんだ。おかえり、珍しいね」

「ああ。今日は思いの外患者が少なくてな」

 

一切顔も合わせず言葉を返す彼の横で、レトルトカレーの封を切る。

冷ご飯の上に盛ってそのまま電子レンジへ。

 

「と言いつつ大体断ったんでしょ」

「最近の患者は評判ばかり気にしてたまらん」

「皆最新医療が一番治りやすいとか思ってたりするもんね」

 

理那の父、譲太郎はテレビで取り上げられるほど凄腕の外科医である。

しかしその評判から態々彼を求める声も大きく、

大した病気や怪我でなくても譲太郎に診てもらいたいという患者が後を絶たない。

 

実際のところテレビの取材など、病院側の評判をあげるために上が勝手な承諾しただけで、

本人は一度たりとも首を縦に振ったことはない。

ただ勝手に録らせているだけに過ぎなかった。

 

「いただきます」

 

出来上がったカレーを頬張るも、なにかひと味足りない。

お茶漬け用に添えられた沢庵を1枚掠め取る。

 

「おい理那、それは私のだぞ」

「1枚くらいいいでしょー。福神漬け代わりに」

「それくらい冷蔵庫にあるだろう」

「ならそっちのだって入ってるでしょ」

 

そんなやり取りにため息ひとつ吐いて、再び箸を進める。

それ以上の会話は食卓になかった。

 

 

 

部屋に戻った理那は再び勉強のために机上へ向かう。

するととなりに置いていたスマホが一瞬光った気がした。

 

「んー? なになに、『Untitled』……?」

 

見覚えのない楽曲がダウンロードされている。

興味本意で再生すれば、途端に溢れ出した光に包まれ────

 

 

 

理那は1人、(わだち)の残る道の上に立っていた。

灰色の雲が空を覆い尽くし薄闇に包まれている。

道以外には枯れ草だけが敷かれており、目印になりそうなものはどこにもなかった。

 

「なにこれ、夢?」

 

ためしに自分の頬をつねってみるもただ痛いだけ。

足の裏に感じる土の感触も、吹き抜ける風の冷たさも現実だった。

 

「てかさっむ!? なにこれ秋とか通り越して真冬じゃん!」

 

最近暖かくなってきた影響で寒いことこの上ない。

靴も無いため段々と体温が奪われていく。

宛もなく歩くかと思いきや、道端に近場の枯れ草を敷いて座り込む理那。

スマホの動作を一通り確認しつつも、地図アプリなどは全て役に立たない。

 

「なんか目印でもあれば『───! ──!』……ん?」

 

参った様子で辺りを見渡していると、道の先に小さな村を見つける。

祭りをやっているようで、灯りの他に歓声と歌声まで聞こえてきた。

 

それに導かれるように歩を進め、目の当たりにしたのは。

 

『皆盛り上がってるかー!』

「「「おおおー!!」」」

『それじゃあまた回していくわよ! しっかり付いてきなさい!』

「「「おおおー!!」」」

 

照明代わりに周囲に配置された松明の数々。

村の広場に集まり歓声をあげる人々と、荷台がステージに改造された大型トラック。

その上では1人の女性がDJを務めていた。

 

ピンクのベストワンピースにむき出しのネクタイ、ベストを留める太いベルト。

個性的な衣装であったが、それよりも特徴的なピンクのストレート髪が目に入る。

聞こえてくる歌声も自分には聞きなれたものだった。

 

「な、なんでルカが居るの?」

 

バーチャルシンガー、巡音ルカ。

一方的に知っているだけの存在が、まるでそこにいるように歌いディスクを回している。

それはまるで村全体がひとつのフロアと言わんばかりに。

 

「おうアンタ、ルカさんを知らねえのか!?」

「ルカさんは最高よ! 彼女こそ私達の太陽なんだから!」

「アンタも分かるだろ、ルカさんの天才っぷりが!!」

 

観客が理那の疑問に答えるようにルカを称賛する。

その声と全体の様子を見れば嫌でもわかる。彼女もまた天才だ。

 

「そうだね。間違いなく天才だ」

 

歌に関して右に出るものはいない。それがバーチャルシンガーにとって当たり前。

ライブが終わるまで、理那は観客に紛れルカの姿をただ眺めるだけだった。

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