それから理那の挑戦が始まった。
再びセカイを訪れた彼女は村人達を沸かせようとある準備をしている。
「よーし、セッティング完了! 何回もやってたら慣れるもんだね」
「ねえ理那、本気でやるつもりなの?」
「もっちろん! だってその方が面白そうじゃん」
荷台の上で満足げに声をあげる理那の前にはDJ用の機材が揃っている。
それはもちろんルカのものだが、何故か自分のそれと同じ。
扱い方も同じであるため1から覚える必要はなかった。
音を出しながら調子を見ている理那の元へ、続々と村人達が集まってくる。
「おーっし、皆集まってくれたねー。じゃあしっかり付いてきてね!」
それに気分を良くして、独断の元で選び抜かれた楽曲を回し始める。
しかし村人達は盛り上がることを知らなかった。
理那は構わず曲を回し続けるも、見かねた人達は自分達の家へと帰っていく。
数曲流し終えた頃には、そこに誰も残っていなかった。
「ありゃりゃ、まあそう簡単にはいかないよね」
そんな光景を目の当たりにしても、仕方ないと割りきる彼女。
最初から誰もがうまくいくわけがない。
翌日も、その翌日もDJを努めるも村人達の反応はよくない。
「なんだよ、またあいつのステージかよ」
「前座は引っ込んでろー!」
「私達はルカさんのステージを見たいの! 邪魔しないで!」
そんなある日のこと、ついに村人の不満が爆発し罵声を浴びせる人が出てくる。
果てにはブーイングとなって会場を覆っていった。
「(わかってはいたけど……実際言われるとキツいね……)」
物こそ飛んでこないが、収拾をつけるには理那には到底無理である。
まともに罵声を浴びた理那の手が止まろうとした時、ルカがとなりに立った。
「理那、代わるわ」
「で、でも私のステージだし」
「それどころじゃないでしょ。現実を見なさい。
皆ごめんね! これからが本当のステージよ、しっかり付いてきなさい!!」
励ましてくれるかと期待するも非情なもので、
見かねたルカがステージを代わって別の曲を歌い始める。
すると観衆の罵声は歓声へと変わり、空気が一変した。
「(やっぱりルカはすごいなー……でも、ちゃんと見なきゃね)」
出来る限り多くのものを盗むために観察を続ける理那。
しかし彼女の感覚をもってしてもその理由はつかめず、
むしろ魅了されていき観衆の1人としてルカに声援を飛ばすのであった。
・
・
無事にステージを終えていつものようにコーヒーを淹れるルカ。
そのとなりには当然のように理那の姿もあった。
「ありがとねルカ。代わりに立ってもらっちゃって」
「本当に感謝してるなら早く戻って勉強でもしたらどう?
それに、同じDJでなくてもあの人達を沸かすことは出来るでしょ?」
確かにルカの言う通りで、村人を沸かすのにDJである縛りはない。
しかし理那はあえて同じ壇上で勝負しようとしている。
その理由は伺い知れなかった。
それにこの村人達はルカという存在を知っている。
しかも相手が現役であるため、比較対象にされるのも無理はなかった。
「いいじゃん別に。逆にDJはダメって言ってないしさ」
それでも理那は返し刀で切り返す。
これ以上は何を言っても聞かないと判断したのか、
ルカはカップをおいて運転席の方へと歩き出した
「今日も運転席で寝るの?」
「ええ。理那も早く戻りなさい。コーヒーは体を冷やすから」
「じゃあ他の人の家に泊めてもらったらいいじゃん!」
節約しているのかと思いきや違うようで、ならばと提案してみる。
あれほど村人達を沸かせたルカであれば一晩くらい泊めることは容易いだろう。
それにカリスマシンガーを泊めたとなると皆に自慢も出来る。
「前も言ったけど、泊まれる場所はないわ。このセカイのどこにもね」
全てを諦めたように吐き捨てる彼女。その顔はどことなく過去の友人に似ていた。
「……じゃあ私がお願いしてあげるよ!」
「あっ、理那!」
一方で諦めきれない理那は、一番近くの家のドアを叩く。
出てきた村人にその旨を伝えると──
「ありがたい申し出だが……ウチにはルカさんを出迎えられるほどのものがなくてね。
悪いが他を当たってくれないかい」
「あ、わかりました……」
そう言われてしまい扉は固く閉ざされる。それでもと別の家を当たってみるが……
「ウチも貧乏だからとてもじゃないが──」
「ルカさんはもっとウチより綺麗なところが──」
「ウチは1人暮らしだから寝床がなくて──」
それぞれが何かと理由をつけて断っていく。
数回程度であれば「そんなものか」と割りきれるが、
村の半数を越えた辺りで嫌でも違和感を覚え始める。
そしてついに泊めてくれる家を見つけることは叶わなかった。
足取り重くルカの元へ戻る理那だが、
最初に声をかけた家のそばを通りかかったとき、僅かに開いた窓から声が漏れている。
『いやぁ、ルカさんの歌は素晴らしいが泊めるのは別だろう』
『そうね。あんな恐れ多い方を泊めたら気が気じゃないわ』
『そうだな。やっぱり我々は見てるだけが一番だよ』
「っ!」
その声を振り払うように駆け出す。目指すのはルカの元。
「どうだった?」
「最初から知ってたの……断られること」
「そうね」
再び席に戻りコーヒーのお代わりをしているルカは、顔も合わせず空を見つめている。
「ふっざけんな!! あれだけ太陽だの天才だの持て囃して、
皆、皆そうだ! 人の本当の姿も知らない癖に──」
「──理那」
激昂する理那を引き戻すように名前を呼ぶ。
その言葉に我を取り戻し、肩を落として席に戻った。
「ごめんルカ、私が怒ることじゃなかったよね」
「別に気にしてないわ。……ふふ、太陽ね。そんな風に言っていたの。あの人達は」
理那のマグカップにコーヒーを注ぎながら、ルカは笑う。
「太陽は確かに光をくれるけれど、直に見ればその目は瞑れ、傍に寄ればその身は焼かれる。
言い得て妙、とはまさにこのことね」
差し出されたコーヒーを一杯。
理那はそれがずっと苦く感じるのであった。