ところ代わって現実世界。
理那は1人でWEEKEND GARAGEを訪れていた。
「(何がいけなかったのかなー……)」
まだ早い時間だからか客は理那しかいない。
ただただスプーンで特製ブレンドをかき混ぜるだけで、一切口をつけていなかった。
思い出しているのは当然ルカのステージであり、
考えているのは自分とルカのステージの違い。
自分の感覚で正しいと思ったことをしているが、それで村人達は満足してくれない。
好きな曲を、と思ってみても村人の好みがわかるわけでもない。
ましてや罵声を浴びせられ無責任にも止まりかけた。
ルカのお陰で事なきを得たが、昔も今も誰かに向けられる言葉の暴力は、
理那にとって心の古傷を思い出させるには十分である。
「はーあ……またこのパターンかー……」
冷めきったコーヒーをちびちびと飲みつつ、奥のライブステージへ目をやる。
そこではこはねと杏が練習のために歌っていた。
それは熱意と闘志の籠ったもので、なにかに向かってまっすぐ突き進まんとしている。
それはそれとして、やはり納得させるには腕を磨くしかないのだろう。
それこそ、あの時見たライブステージを越えるような何かを。
そのために必要な物は────
「ほら、お呼びがかかってるぞ」
「あえ?」
謙が理那の視線を奥のライブスペースへと誘導すると、
そこでは歌い終えたこはねと杏が手招きしていた。
思考を中断させて2人の元に駆け寄る。
「はいはいお2人とも何か私にご用かなー」
「もう理那ってば呼んでも気付かないんだから。ほら、この前アレンジした曲今持ってる?」
「まあそりゃ、自分でやったアレンジだし? それがどうしたの?」
「よかったらさ、それ私達に歌わせてくれない?」
そう申し出る杏の隣ではこはねがコクコクと頷いている。
あの時観客を沸かすことができなかった自分のアレンジを、
友人とはいえ抜群の歌唱力を持つ2人が歌う。
本来なら喜ばしいことだが、今の理那にとってはその意味がわからなかった。
「別にいいけど、私のでホントにいいの?
あれだけ有名な曲、探せばもっといいアレンジあるよ」
「いや、それはそうなんだけどさ……
なんていうの、こう、胸の奥に訴えかけてくるっていうかさ、
理那だってあるでしょ、そういうこと」
「ははーん、さてはビビッと来たなー。オッケー、杏にそこまで言われちゃ仕方ないね。
そこの相棒ちゃんも問題ないかな?」
「は、はい! えと、よろしくお願いします!」
理那もそこまで言われて感づかないほど鈍感ではない。
こはねに問いても同じ答えが返ってきたので、早速準備を始めことにした。
「それでー? リンとレンのパートはどっちがやるの?」
「こはねがリンのパートで私はレンのパートだけど……」
「はーい。じゃあ1番だけさらっと歌ってみてよ」
「? う、うん」
何故1番だけなのか、その意図を汲み取れないものの歌い上げる。
当然歌い方は曲に合わせて本来の物とは変えていた。
「(相棒ちゃんの声はリンより丸い感じ。杏はまあ男声レベルまで弄って大丈夫でしょ)
なるほどね、大体わかった。そんじゃしっかり付いてきてね!」
一通り聞き終えてからカウントを入れつつ再び曲を再生する。
先程と同じように歌う2人だが、耳から入ってくる声が違っていた。
お互いの特徴を引き出しながらも、曲のアレンジに合わせてフィルターがかけられている。
まるで様変わりした持ち歌に、謙も少し驚いていた。
「こんにちわ謙さん……って2人が歌ってんのか」
「小豆沢と白石に……あれは確か」
「ウチのクラスの斑鳩だよ。最近DJ始めたっつってて、すぐにやめると思ってたが……」
「ああ、彰人と冬弥か。いいタイミングだな」
そんな中訪れた2人の常連も、それに耳を傾ける。
「「はぁ……はぁ……」」
曲が終わり、こはねと杏の呼吸をマイクが拾う。胸の鼓動が止まらなかった。
「すごい……おんなじ曲なのにまだ心臓がドキドキしてる」
「すごいよ理那! こんなに出来るなら最初っから言ってくれたら良かったのに!」
「お粗末様でした。楽しんでくれて私も嬉しいよ」
称賛の声に理那は笑顔で返す。
しかしどこか思い悩んでいるようで、素直な笑みには見えない。
そんな中で次の曲を流し始めた。
「───♪ ──♪ ───♪」
それは先程の前衛的なものではない。
一般的なバンドサウンドに理那の歌声が乗る。シンプル故に歌詞が響く。
その曲は奇しくもルカのもの。
それもソロでは最高峰の知名度を誇る名曲中の名曲だった。
周りに振り回されながらも自分も必死に回る様は、さながら理那の心境を謳ったようで。
「おじ様ありがとう。コーヒー、ごちそうさま」
「……ああ」
曲は終わると同時にお金を置いて、理那はWEEKEND GARAGEを後にする。
そこに残されたのは、その後ろ姿を見つめるVivid BAD SQUADのメンバーと謙だけだった。
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「おい杏、アイツに何があったんだよ」
「私も分かんないんだよね。アレンジ歌わせて、ってお願いしただけだし」
「だが、後のあの曲は斑鳩だけで歌っていたみたいだが?」
「うん。最初の曲は私達がお願いしたんだけど……後の曲は全然知らなくて」
戸惑いを隠せない彰人は、とりあえず理那と仲がいい杏に尋ねてみる。
しかしあの変化に杏とこはねも戸惑っていた。
「技術はあるが覚悟がない、か。まったく、最近の客は変な拗らせ方をする」
そんな中で、理那が置いていったお金を預かりつつ謙が呟く。
最後に答えを決めるのは紛れもない自分。
それを謙はここに居る誰よりも知っていたのだった。
ダブルラリアット/アゴアニキ
ご無沙汰しております、kasyopaです。
この話にてACT1は終わりになります。
途中で気付かれた方もいると思いますが、しばらくは『斑鳩理那』のお話が続きます。
全3章構成、その1がこの9話。
こんな感じでちょっと湿っぽい話が続きますがよろしくお願いします。
これでバーチャル・シンガーも4人目。
ビビバスカイトが来るより前の執筆だったので正直ビビバス箱イベでは戦慄してました。
高評価もいただき、お気に入りも気づけば120件越え。
1話平均2400ほどながら話数は170話以上という長い長いお話ながらも、
読んでいただける方が増えるのは作者冥利につきます。本当にありがとうございます。
次回「GENIUS DREAMER」。お楽しみに。
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