荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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全8話構成になります。


ACT2「GENIUS DREAMER」
第1話「少女達の探求Ⅰ」


 

授業中の教室に淡々と声が響く。

英語の教科書を持った生徒が内容を読み上げていた。

 

「はい、ありがとう。では次の文章を……斑鳩さん、お願いできますか?」

「………」

 

その名を呼ばれても教科書に食い入るように見つめ、ノートを取っているだけで返事はない。

寝て過ごしているのが日常茶飯事な彼女にとって、

授業態度としては正しいものなのだが、その見ている内容が違っていた。

 

「斑鳩さん? ノートをとるのもいいけど程々に……」

 

教師がその内容を覗き見れば、それは教科書の裏側に隠されたDJの参考書。

ノートもご丁寧にそれ専用のものであった。

 

「斑鳩さん、今は音楽の授業ではありませんよ」

「ああっ! 今いいとこなの……って先生!?」

「では斑鳩さんには罰として、残りを全部読んでいただきましょうか」

「ええっ!? ま、まあいいですけど……」

 

やんわりと怒られつつも席を立ち、指定されたページの英文を流暢に読み上げる理那。

その饒舌さたるや教師のそれとも引けをとらなかった。

 

「ありがとう斑鳩さん。でも本当にもったいないわね、

 読みと会話なら文句無しの100点満点なんだけど……」

「あはは、文法全然わかんないんですよねー」

 

勉強嫌いの理那ではあるが、英語──特に読みや聞き取りに関しては完璧であった。

しかし書く方に関しては、てんでダメなため補習常習犯となっている。

 

「ねえ先生、私だけ英会話でOKにしてくれません?」

「それはちょっとね。それに、授業態度も成績に含まれるから以後気をつけましょうね」

「うぐっ……はーい」

「「「ははは……」」」

 

理那の冗談で乗りきろうとするも釘を刺されてしまい、そんな道化の姿を見て皆が笑う。

これがいつもの1年C組の授業風景であった。

 

「「………」」

 

しかしそんな光景を言葉と彰人の2人だけは笑うことなく見つめていた。

 

 

 

「おい斑鳩、ちょっといいか」

「んー、でも今私勉強で忙しいしー?」

 

昼休みに入り真っ先に声をかけたのは彰人だった。

しかし乗り気ではないのか、理那は目も合わせずパンを齧りながらパソコンを操っている。

ここから動く気はないらしい。

 

クラスメイトである彰人も、彼女がDJの勉強に躍起になっているのは知っている。

春に合わせて新たな自分探しを始める者は数知れず、そして長続きせずに終わっていくことも。

 

理那もその類いだろうと思って放置していたが、

日を追うごとにその度合いが増していき、ついには先程の授業の始末である。

 

『ねえ、こういうのってDJの人が曲回したりするやつ?』

『それはディスコだろ。全然違ぇよ』

『えー、ちょっと興味あったのに』

『確かに理那の直感なら盛り上げられるかもね』

『ほらー、委員長もこういってるしさー』

 

いつかのやり取りを鵜呑みにしたのかはわからない。

しかしWEEKEND GARAGEで見せたプレイは本物だった。

それはこはねと杏の2人が称賛したことがなによりの証明である。

それでもなお、彼女の満足に至らない。

 

「(こいつが見据えてるのはなんだ……まさかこいつもRAD WEEKENDを……)」

 

彰人も杏も突き動かされたあの伝説のステージ。

それを見ていない限り初心者である理那が満足しない訳がない。

その真相を確かめるべく声をかけたのだが、当の本人は全く興味が無さそうだった。

 

「理那、よかったら一緒に食べる?」

「お、言葉ナイスタイミング! 新しいアレンジ出来たから聞いてほしいなー」

「え? あ、うん……」

 

一方で言葉が声をかければ嬉しそうにヘッドホンを差し出してアレンジを聞かせる。

まるで彰人のことなど眼中にないように。

 

「彰人、今日の昼は──どうした?」

「ああわりぃ。今行く」

 

廊下から冬弥に声をかけられたことで見切りをつけ、彰人はその場を後にする。

互いの理由を知ることなく退散した彼の背中を見つめながら、言葉は口を開いた。

 

「行かなくてよかったの?」

「大丈夫大丈夫。なにかあっただろうけど別に今する話でも無さそうだったし」

 

直感の優れる彼女がそういうのなら、と言葉も黙り混む。

そのヘッドホンから流れてくるのはチップチューンと呼ばれる電子音とノイズにまみれた曲。

その歌詞も自分が日々奏でている哀愁に満ちた曲のように悲しげで、

それでも暖かい日々を思い出しているようなものだった。

まるで世界の終わりを歌っているような、そんな──

 

「どうどう? 方向性とか変えてみたんだけど」

「私は好きだよ。でも……ううん、なんでもない」

「そんなこと言って私を誤魔化せると思うなー!」

「わ、ちょ、理那!?」

 

まるでじゃれつくように言葉へ抱きつく理那。

贖罪を聞いてからというもの、スキンシップが激しくなっていた。

毎度抵抗する言葉だが体育系の彼女に敵うわけもなく、やがて受け入れてしまう。

 

「わ、わかった話すから。ちょっと離して」

「はーい。で、どうだった私のアレンジ」

「曲は素敵だなって思う。でも、これを作ってる理那は楽しかったのかなって」

「ああそういうこと? それは……正直私にもわかんないだよね」

「えっ?」

 

予想外の答えに言葉は思わず声が漏れる。

ひどくさっぱりと答える理那だが、その目は自分の過去を語った時のように遠い物だった。

 

「最初は楽しかったんだけど、やっぱり格の違いってやつ?

 上には上がいるし、人気になる理由とかさ、わかんなくて」

 

日々『面白そうだから』や『ビビッと来た』というのが口癖の彼女が、

その本質を見失ってまで曲を作っている。

そんな彼女に1人の親友の為に、自分が出来ることはないかと思考を巡らせる言葉。

 

「わからないなら、聞いてみるのはどうかな」

「? 急にどうしたの?」

「他の人の楽しいこと。楽しいことはみんな同じじゃないし、いい刺激になると思うんだけど」

「なるほどね。じゃあ言葉に早速質問しよっと。楽しいことってある?」

 

言い出しっぺの法則と言わんばかりに質問を飛ばされる。

しかし何やら思い詰めた顔をして考え込んでしまった。

 

「あれ? もしかして言葉ってば思い付かない?」

「……そうかも」

「じゃあいつもやってる演奏は? あ、後読書もあるじゃん!」

「演奏は自分が認められるくらいまでだから義務みたいなものだし、

 読書も楽しいっていうより暇しないからかな。

 好きな物とかはあるけど、それは楽しいとは別だし……」

「あちゃー、そりゃダメだよ。って今の私が言えたもんじゃないけどさ」

 

言葉も自分で言ったはいいものの、

これと言って人生の楽しみを見いだしていなかった。

何もない少女の、ルーチンワークの様に消化されている日々。

それに気付くのも、自分のアドバイスが原因とはなんとも皮肉なものだった。

 

「じゃあ言葉も付き合ってよ。楽しいもの探し」

「……そうだね。よろしくお願いします」

 

こうして理那と言葉による探求が幕を開けたのだった。

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