荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第3話「“楽しい”を教えてくれる場所Ⅰ」

「おっ邪魔しまーす! 青柳君のお知り合いの方はいませんかー!」

 

扉を勢いよく開け放ち目的の人物を呼ぶ理那。

その後ろにはいまだ連行されている言葉の姿もある。

 

「おお、よく来たな2人とも! 確か言葉と……むう、前に見た気がするが思い出せん……」

「1のCの斑鳩理那でーす。言葉の友達で、神高祭で司会やってました」

 

司がそれを出迎えるも、大半の生徒は即座に厄介事の気配を察知し、そそくさと教室を後した。

まさに訓練済みと言える2年A組のクラスだが、その理由は別にある。

 

 

「なるほどあの時の……しかし態々この教室に来るとは、何かあったのか?」

「ここに青柳君の恩人がいるって聞いてきたんですけど、天馬先輩ご存じです?」

「冬弥の恩人……そうか、ならば思い当たる人物がいるぞ!」

「え! ほんとですか!?」

 

『恩人』という言葉を聞いて司の声量が上がる。

それを理那は半ば不思議に思いながらもその答えを待つ。

その様子に言葉は影に隠れつつこっそり耳を塞いだ。

 

「冬弥が恩人だと称える人物、それは……」

「それは……!」

「この……オレだっ!!」

「はい?」「………」

 

自前のかっこいいポーズと共に声をあげる。

それに対して呆気にとられる理那と、

いつにも増してげんなりとした表情を浮かべる言葉。

 

「はい? じゃない! 何を隠そうこのオレが冬弥の……」

「いやー冗談キツいですよ天馬先輩! あの青柳君が先輩みたいに変、じゃなかった。

 おもしろい人を紹介するわけないじゃないですかー!」

「ぐぬぬ……そこまで信じられないなら……これを見ろ!」

 

大笑いしながら否定するも、司は自分のスマホを見せる。

そこには確かに冬弥と思わしき人物から、今日の件についての連絡が入っていた。

 

「え? 嘘、マジじゃん」

「どうだ、これが紛れもない証拠だ。恐れ入ったか!」

「恐れ入る……かは置いといて、へー……あの青柳君がねー。言葉は知ってた?」

「予想はしてた。でも本当にそうだって思わなかった」

 

なぜ言葉が逃げようとしたのか、その理由もわかったところで言葉に質問を飛ばす。

 

バレンタインの際に連絡したのも冬弥である。

その時は疑問にも思わなかったが、少し前のやりとりで感づくには十分過ぎた。

 

「すみません天馬先輩。理那が失礼しました」

「いや、誤解が解けたならオレも気にはしない。それよりもオレに聞きたいことがあるそうだな。

 態々こちらに赴いてくれた礼として、なんでも聞いてくれていいぞ!!」

 

そのあたりはサッパリとした性格からか引きずることはなく、話題を切り替える。

理那も言葉もこの陽気なテンションにはついていけないものの、

機嫌を損ねて本題に入れないよりマシだった。

 

「じゃあ早速、天馬先輩の楽しいことってなんですか?」

「それはもちろん、仲間達とショーをすることに決まっている!」

 

それ以外ない、と言わんばかりの答えだった。

その堂々とした態度に思わずたじろぐ2人。

 

「そういえば天馬先輩ってフェニランでショーしてるんですよね。

 ずいぶん長くしてるみたいですけど、飽きないんです?」

「飽きる? そんなことあるわけないだろう。最高の仲間達と最高のショーをするんだぞ?

 まあ少しばかり疲れることもあるが、飽きることはないな」

「「………」」

 

それは『楽しい』ということに対する明白な答え。

そして同時に天馬司という人物を知るには十分なものだった。

 

「なるほどねー。天馬先輩って変な人って思ってたけど、案外見直したかも」

「何が変だ! あと完全に誤魔化すことすらやめてるだろう!?」

「あはは気のせいですってー! じゃあ私達は聞くこと聞いたんで帰りますねー」

 

そういって走ってその場を後にする理那。

見直したとは言っても相性の問題までは解決するまでにいかず、

彼女もまた一刻も早くその場から逃げ出したかったようだ。

その場に置き去りにされた言葉は、失礼の無いようにと向き直ってお辞儀する。

 

「天馬先輩、その、ありがとうございました」

「言葉も大変そうだな。あんなにも活発なのが友人では引っ張り回されてばかりだろう」

「いえ、むしろ私にはそういうのが合ってるんですよ」

 

走り去る理那の背中に、司は自分の仲間や妹の面影を見つつそう呟く。

しかし言葉はそう思っていないらしく首を横に振った。

 

「そうか。まあなんにせよ、疲れた時や楽しくなりたい時は、フェニランに遊びに来るといい。

 えむもお前の妹に会いたがっていたからな」

「えむ……ああ、あの時の宮女の生徒さん、ですね」

 

自己紹介こそ受けていないものの、周りからそれらしき名前を呼ばれていれば覚えるもの。

あそこまで理那のように活発な少女は他に見たことがなかった為印象に残っていた。

 

「わかりました。また機会があれば是非」

「もちろん、我らワンダーランズ×ショウタイムのショーも忘れないようにな! ハーッハッハッハ!」

 

いつしか眩しく感じていたその笑顔も、人となりがわかればある程度緩和されるもの。

上機嫌に高笑いする司に対し、ただ優しい笑みで答える言葉であった。

 

 

 

その後家へと帰った言葉は、勉強の片手間にパソコンを起動する。

しばらくすればいつもの人物からチャットが飛び通話が始まった。

 

「こんばんわTisato。今日もゲームですか?」

『ああいや、今は楽器の練習中だ。通販で頼んでいた電子バイオリンが届いたのでな』

 

耳を澄ませれば確かにそれらしき音が混じって聞こえて来る。

本物とはずいぶんと違うが、そういう楽器なので仕方がない。

そういえば、と彼女はかつてバイオリン奏者であったことを思い出す。

 

「Tisatoは……楽しいことって何かありますか?」

『どうした急に改まって。ふむ、しかし楽しいことか……』

 

彼女が今演奏を続けているのは他でもない罪滅ぼしの為である。

そんな彼女が楽しいと思うことがあるのだろうか、と自然と興味が湧いたのだ。

 

『無いわけではないが、言葉で表すのは難しいな。

 審判者は今週末空いているか?』

「えっと、まあ、はい」

『ならば昼前にシブヤ駅で合流しよう。そこで我が楽しくなれる場所へ案内しようではないか。

 ああ、無論あの斑鳩や妹をつれてきてもらっても構わない。

 楽しいことは分かち合うものが多いほど、楽しいものだからな』

「そうですね……では聞いてみます」

 

今だ変わらぬ呼び方と彼女の考えに戸惑いながらも同意する。

それでも、断罪を求めてさ迷い続けた少女の楽しみを知ることができる。

大勢で分かち合った方が楽しい、というのも一般的にはよく言われていることである。

 

言われた通りに理那と文を誘い、その日を待つことにするのだった。

 

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