休日の駅前。特にシブヤの駅ともなればいくら目印があっても人混みに埋もれてしまう。
指定された場所にやって来た3人は異彩の空気を放ちながら存在する者を見つける。
見舞いの時と同じ格好を身に纏ったその人物こそ、千紗都その人だった。
「ねえお姉ちゃん、もしかしてあの人?」
「そうだよ。ちょっと呼んでくるね」
その返答に文は思わず理那の後ろに隠れてしまい、チラチラと様子を伺う。
そんな様子に随分と懐いてるな、と笑みをこぼして2人のそばを離れた。
「お待たせしました雲雀さん」
「おお、審判……失礼鶴音よ、よく来たな! そして皆の衆も……うむ?」
臆することなく近付き声をかければ、千紗都は嬉しそうに返事を返した。
あまりにも周りに人が多い為か、いつもの呼び方も自重し名字に言い直す。
遠目にこちらを見ている見慣れた少女へと目をやれば、
自然とその後ろに隠れていた文の存在にも気付いたようだ。
「鶴音よ、斑鳩の後ろに隠れているのは妹ではないか?」
「はい。ちょっと人見知りがあるのでお手柔らかにお願いします」
「ふーむ、しかしずっと隠れられてもこれからが大変だからな」
そう言って2人の元に歩み寄る千紗都。
少し悪い予感もしつつ急いで追い付く言葉。
「そちらの少女よ、姉とのライブは拝見させてもらった。
貴女の躍り、Vivid BAD SQUADにも負けぬ素晴らしいものだったぞ」
「ふえ……?」
何を言い出すかと思えば、それは称賛の言葉だった。
しかもあまり近寄りすぎず、適切な距離を保っている。
変な見た目に対して案外まともなことを言ったことで意外に思ったのか、
おずおずと目を合わせる文。
「おっと申し遅れてしまったな。我が名は雲雀千紗都。
アルビノ故こんな格好だが、貴女とは変わらぬ
これからも姉共々よろしくしてくれると嬉しい」
「……???」
「ほーら、そんな難しい言い回ししたら文ちゃん困っちゃうでしょ!」
「わ、わわわ!」
そんなやり取りにしびれを切らせた理那が、回り込んで文の背中を押す。
そしてお互いの手をとって無理矢理握手させた。
「ほら文ちゃん、お名前教えてあげたら?」
「あ、えと! 鶴音文、です……」
「そうか、文と言うのか。……む、しかしこのままでは鶴音で被ってしまうな。
鶴音妹、と呼んでも構わぬか?」
「な、なんでもいい、です!」
そういって文は再び手を振りほどいて理那の後ろに隠れてしまう。
身長は彼女の方がずっと大きいのだが、気の小ささはまだ中学生であった。
そんな様子を見ていた言葉も、思わず理那に注意する。
「理那もそんなことしたら文が驚くでしょ。少しはわきまえて」
「えー、名案だと思ったんだけどなー」
「まあこればかりは仕方あるまい。目的地へ向かうとしよう」
やれやれと肩をすくめる千紗都の案内の元、3人はある場所へと向かう。
こうしてたどり着いた場所は──
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『皆ー! 今日も来てくれてありがとう!
精一杯おもてなしするから、みんなもいっぱい楽しんでいってねー!』
入場口のそばでは、スタッフによる独特のアナウンスが鳴り響く。
多くの人々が笑顔で我先にと目的地へ向かって歩いていた。
この付近で暮らしている者なら知らぬものはいない、アットホームな遊園地。
その名も、フェニックスワンダーランド。
「さあ到着したぞ! こここそが楽しくなれる場! その真髄がここにある!」
「いや、確かに楽しくなれる場所って聞いたけどさ……」
「なんていうか……雲雀さんのことだし真面目なところかと思ったけど……」
「わー! 前にも来たけどまた来れるなんてびっくり!」
目の前に広がる光景に言葉と理那は思わず足を止める。
唯一上機嫌な文は辺りを駆け回り、
早速フェニーくんのぬいぐるみと楽しそうに交流していた。
「我とて時には現を抜かして遊びたくなる時もある。
それに今日は我が誘ったのだ。チケット代は我が受け持とう」
「ですが、相当な値段ですよ……?」
「何、皆でこの場を共有出来るのなら安いものよ」
「では食事代だけでも」
「ああ、それで構わない」
言葉の申し立ても軽くいなし悠々と文の元へと歩いていく。
ぬいぐるみのフェニーくんに対し、千紗都が何かを伝えるとパタパタと羽ばたき始めた。
「どうだ? これぞ知る人ぞ知る『フェニーくん、飛んで!』だ!」
「すごーい! ほんとに飛びそう!」
その様子に瞳を輝かせながら文は歓声を上げている。
「フェニーくんってあんなこともしてくれるんだ」
「私も知らなかったなー。でも文ちゃん喜んでるしいいんじゃない?」
「そうだね。雲雀さんも悪い人じゃないし、文と仲良くなってくれたら嬉しいけど」
「お姉ちゃーん! 理那さーん! 皆で写真撮影しよー!」
遠目に見つめる2人に手を振りながら呼び掛ける。
最初は人見知り全開だった文の面影も、今はもう感じさせない。
「そんじゃ私達も行きますか。雲雀の楽しくなれる場所、だしね」
「そうだね」
お互いに笑みを溢しながら2人の元へと歩く。
自らの楽しいことを確かめるために。