そんな一方で片付けをしつつ、会話に花を咲かせている者もいた。
「神代センパーイ、この機械どこにしまいますー?」
「ああ、それならステージの上座に集めておいてくれないかい?」
「はいはーい」
演出用の重い機械も軽々と運ぶ理那は、類と共に大道具などの片付けを行っている。
元々セカイでこういった準備や後片付けを手伝っていたため、
もはや慣れたものであった。
「本当に助かるよ。今回のショーは特別演出に凝っていたからね」
「その辺はお気にせずー。代わりに面白いもの見れましたし」
その視線の先にあるのは、同じく片付けに励む4人と1体の姿だった。
「そこで司くんがビシー、ってポーズを取ったんだけど、
ネネロボちゃんがピカーって光ってねー!」
「あはは! 司先輩よりネネロボちゃんが目立っちゃったんだー!」
「ま、まあスターたるもの、他のキャストを目立たせるのも大切だからな!」
「そんな事言ってあとで悔しがってたでしょ」
「ハイ、私のメモリーニモ、シッカリと記録サレテイマス」
ハイテンションな空気にも慣れた寧々が、
ネネロボと共に3人の抑制に徹している。
それでも作業の手は止まらず、装飾などの小道具をまとめていた。
「これでこの前の約束は果たされたってことで」
「おや、本当にあれだけでいいのかい?
ショーでならネネロボの性能を存分に発揮した姿が見られるというのに」
「言われてみれば……あー、私もショー見たかったなー」
「それは次回のお楽しみということで」
あの司が楽しいと豪語するのだから、
きっと自分の楽しいも見つかると思ったショー。
図らずもここに訪れることになったが、むしろその為か見られなかった悔しさが顔を出す。
類としても楽しみにしてくれるお客さんが増えるのは嬉しいため、
その場で全てを見せることはしなかった。
そんな寧々とネネロボを眺めていると、ひとつの疑問が飛来した。
「そういえばあの寧々ちゃんって子も一緒にショーをやってるんですよね」
「ああ。共に最高のショーを届ける仲間だとも」
「ならなんでネネロボって何であの子をモチーフにしたんです?
他の外見ならもっとキャストと差別化出来るのに」
理那の言い分はもっともだった。
キャストとしてロボットを引き入れている斬新さは目を引くが、
態々同じステージに立つ少女に似せる必要はない。
「それにはちょっと入り組んだ事情があってね。
勘の良い君なら、わかるんじゃないかな?」
「へー、なら受けてた立とう!」
多くを語らない類の挑戦を受けて、理那は思考を回す。
上手く焦らすことこそ、演出家としての本領であった。
元より関わりの薄い彼について探っても意味はない。
『さて、メンテナンスはこれで終わりだ。
後は軽い動作チェックと行きたいけれど、彼女のお気に召すかは本人に見てもらわないとね』
『あれ、神代先輩が使ってるんじゃないです?』
『僕はあくまで設計者だよ。……と、噂をすれば』
以前ネネロボについて語っていた事を思い出す。
寧々の事を想い類が設計した。それはつまり寧々本人に何か問題があったからで。
彼女と初めて出会ったのは神高祭で屋台に並んだ時。
綿飴の売り子をしていた寧々に、理那が彼女にお願いした。
そして記憶に新しい校舎裏での出来事。
顔見知りでもその姿を隠してしまうほどの人見知り。
そんな彼女がショーで多くの人の前に立つなど、想像もつかない。
「なるほどね、大体わかった」
「わかってくれたかい?」
「あの子の代わりにネネロボがステージに立ってる。
だからあの子に似せて作った。そうですよね、神代センパイ」
「ご名答。といっても今は寧々も一緒にステージに立っているけどね」
理那の答えに対して満足げに首を縦に振る類。
普通に考えれば導き出せる答えかもしれないが、
以前ショーを見た際は言葉も理那も立ち見であり、キャストの顔を拝むことができなかった。
寧々と関係の深い言葉はともかく、理那など数回会った程度に過ぎない。
そんな情報量の少なさから的確に解を見いだせるのは、慧眼という他なかった。
「でもそれならもうネネロボを……あー、ごめんなさいなんでもないです」
「特に気にしていないよ。君の場合、悪気はないだろうから」
これ以上ネネロボがステージに立つ必要はない。
そう思ったことを口にする彼女だが、それこそ地雷だと気付きすんでのところで留まる。
類も興味の延長線上にある疑問に過ぎないと知っていた。
「確かに代行としてのネネロボの役目は終わった。それでもまだ必要としてくれる仲間がいた。
なら設計者としてそれに応えないわけにはいかないだろう?」
「必要としてくれる仲間、ね……」
『もう二度と、───には近付かないでくれ』
『───はあなたと違って優秀なお医者さんになるの。
あなたといたら、その夢を奪うだけだってわからないの?』
ふとその言葉に過去を思い出し、目を伏せる理那。
必要とされたから引き合わされ、不要として切り捨てられた。
誰かの為に使い捨てられる物。
「私にはわかんないな。何もかも」
かつての友ですら理解することは叶わなかった。
今の友も全て理解出来ているかすらわからない。
どんなに直感が優れていても、真実までは辿り着けなかった。
そして今は楽しさも失っている。
いつまで経っても追い付けない、という枷に囚われながら。
「──わからないままで、いいんじゃないかな」
「へ?」
そんな突拍子のない言葉に理那は目を丸くする。
同じく慧眼である彼とは思えない発言であった。
「過程も結末もわかっているショーなんてつまらない。
何が起こるかわからないからこそ楽しいんだ。違うかい?」
「……はは、そりゃそうですね」
自分こそがその証明であるように、自信たっぷりに類は告げる。
その顔があまりにも挑戦的なものだった為か、理那は悔し紛れに質問を返した。
「じゃあ神代センパイは、今楽しいですか?」
「ああ、楽しいとも。最高の仲間と最高のショーをする。
試していない演出も、まだまだあるからね。フフフ……」
ショーも終わったばかりだというのに、類は不適な笑みを浮かべる。
そんな態度に、またも敵わないと両手をわざとらしくあげる理那。
「あーあ、ほんと神代センパイが羨ましいなー。
今が楽しくって最高の仲間も一緒だなんて、この先怖いもの知らずじゃないですか」
「それは君も同じじゃないかな?」
「? それってどういう……」
先程の理那の態度に疑問を覚えたのか、言葉がそばにやって来ていた。
「ん、どうしたのさ言葉。何かあった?」
「何かあったって、急に両手あげたりしたから。重い物持ってたし腕でもつったのかなって」
「恩人さん大丈夫ですか!? 怪我でもしたんですか?」
「おいおい、自分から手伝いを申し出ておいて負傷など笑えんぞ」
会話の内容までは聞かれていなかったものの、
動きに大きく現れていたため心配したのだろう。
自然と文や千紗都も集まってきていた。
「(ああ……なんだ。こんな簡単なことだったんだ)」
何気ない日々を共に暮らしながらも、
こんな些細なことでも自分のことを心配してくれる。
追い付けないからといって諦めていたのは、いつも自分の方だった。
それでも振り返り手をとってくれる誰かがいる。
理那が長らく求めていたものの答えが、そこには確かに存在していた。
ご無沙汰してます。kasyopaです。
のほほんと更新しながらも新作との温度差で風邪引きそうです。
UAもお蔭様で順調に伸びて2万が見えてきました。
近々記念話アンケートをとる予定ですので、またご協力のほどよろしくお願いします。
とはいえもうネタが……いや、捻り出しますのでご心配なく。
理那のお話もまもなく終わり。決着の時は、まもなく。
次回「私の未来、貴女の未来」。お楽しみに。