2人と4人がテーブルに座り食事を摂っている。
しかしその組み合わせはいつもとは違っていた。
「ねえ瑞希、あの人は一体……まふゆと知り合いみたいだけど」
「さ、さあ……? ボクも理那と知り合ったのは最近だし、そこまでは知らないかなー」
「えっと、文ちゃんはお姉さんからなにか聞いてたりしない?」
「わたしも全然。恩人さんがお姉ちゃんの友達って知ったのも入院した時ですし」
「そっか……」
4人用のテーブルでは文・奏・絵名・瑞希の4人が、向かいのテーブルの様子を伺っている。
ニーゴのメンバーからすればまふゆの過去をよく知るものはいない。
むしろそこまで踏み込んだ話は誰もすることがなかった。
それ故に、一度露見した2人の関係には興味が尽きない。
特に救いたいと願う奏にとっては。
「でも、まふまふって……あだ名だよね?」
「まあそうだろうけど……さすがに高校生にもなってそれで呼ばないでしょ」
「でもまふゆもあだ名で呼んでたし、そこまで仲が悪い訳じゃないのかも」
探っても答えが見えないままの3人と、あまり関心のない文は自然と無言になっていく。
一方で2人用のテーブルでは。
「髪染めたんだね。前は緑だったから解らなかった」
「高校に入ってからのイメチャンってやつだよ。金髪美少女ってのに憧れてたし」
「美少女って、それ、自分でいうこと?」
「あ、言ったなー? 顔面偏差値ならまふまふにも負けないと思うけど」
「そうだね。顔の良さだけなら確かにそうかも」
まふゆにしては珍しく、からかいながらも理那と会話を続けている。
対する理那も反論するも、文武両道である彼女に敵うわけもなく、
悔し紛れに自分の前にあった料理を頬張った。
「うんまーい! いやこれ無限に食べられるくらい美味しいよ!」
「本当に昔からよく食べるよね。なんにも変わってない」
「そういうそっちはどうなの? おいしくない?」
きれいに盛り付けられた料理を一口。よく噛んでから喉元を過ぎていく。
そして食器を置いてこう答えた。
「おいしいよ。そんなにおいしそうに食べてるから、ね」
「……ふーん。そっちも変わってないんだ」
わざとらしく含みのある言い方をする彼女に対して、少しの沈黙を挟んで答える理那。
その真意に気付いていないわけがない。
「それじゃ、今も続けてるんだお医者さんの勉強」
「そうだよ。途中で放り投げた誰かとは違ってね」
口調こそ変わらないものの、まふゆの声から感情が消え失せていく。
そんな曖昧な状態でも会話が続いていた。
「今じゃなにやってる? 趣味とか目標とかないの?」
「それだとアクアリウムかな。なにも入ってないけどね」
「なにも入ってない……ね。別に入れたいわけじゃないんでしょ?」
「……そうだね。りなりーはどう思う? 私らしいって思うかな?」
「別にどうも。それだけじゃなんにもわかんないからね」
問いを放棄する理那。
これ以上嘘を吐きたくない彼女にとって、もう適当な答えを出すことはない。
「それじゃあそっちは今なにしてるの。カウンセラーの勉強、続けてる?」
「カウンセラーはやめちゃった。今はDJの勉強」
「DJ……唐突だね。もう医学からも外れちゃったんだ」
「面白くないからね。それなら続ける意味なんてないよ」
「そっか。──それで、今度はいつやめるの?」
凍りついた様な目で理那を見るまふゆ。
一度ならず二度までも諦めた存在が目の前にいる。
「やめないよ。それに新しい友達の為にもね」
しかし理那は怯えず答えてみせる。
まだ道は見えずともその覚悟だけは持ち合わせていた。
「……羨ましいね、そうやってまた新しく始められるのは」
「そういうまふまふだってそうじゃない? 友達と遊びに来るなんてさ」
わざとらしく向かいのテーブルにいる3人に目を向ける。
明らかに覗き込んでいた彼女らはそれに気づくと慌てて視線をそらした。
「あの子達とはどんな関係? 幼馴染みとして聞きたいなー」
「別にいいでしょ。関係ないことだから」
「へぇ……」
饒舌だったまふゆが口を閉じる。しかしその態度に笑みを浮かべる理那。
そしてまた、これ以上話すことがないというのも悟る。
「それじゃあ私はお暇しますか。また機会があったら話そうよ」
「ううん、話すことはないよ。もう会うこともないだろうから」
決別の言葉。しかしその顔は笑っている。
「人生、生きてりゃ縁なんて切れやしないよ」
それに対してどちらともとれる言葉を残し、理那は店をあとにした。
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・
「ま、待ってくださいよー理那さーん!」
1人で街を歩く理那の背に声がかかる。
振り替えれば焦った様子で追いかけてくる文の姿があった。
「あー、ごめんごめん。でも残っててよかったんだよ?
あの絵名って人知り合いだったんでしょ?」
「そうなんですけど、でも理那さんちょっと寂しそうだったし……」
「寂しい? 私が?」
「はい。あの朝比奈先輩と話してる時、楽しそうだなーって思ってたんですけど……
お店を出るときにはなんかこう、しょんぼりしてるっていうか」
うまく言葉に表せないものの、必死になにかを伝えようとする。
そんな文に対しまふゆと同じように、目線の高さを合わて頭を撫でる。
「わぷっ」
「ありがとね、心配してくれて。いい子いい子」
「あっ、ちょっ、わたしもうそんな歳じゃないですよー!」
「私がやりたいからいいの。もうちょっと文ちゃんも甘え慣れた方がいいって」
「……それなら、少しだけ」
街中であるため人目が気になるも、
甘えるという言葉に弱い文はしばらくされるがまま。
「(鋭いな文ちゃんは。そんなだと気苦労も多いのに)」
いつかの自分を思い出しながら、親友の妹を愛でる理那であった。