荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第7話「相棒」

自分の行いが、過去の記憶がそれを拒んでいた。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいよ。

 でも結局、私が本当に欲しいのは相棒じゃなくて世界でたった1人だけの友達だよ。

 それは今も変わらない」

 

自分の贖罪を聞き届けてなお、言葉は受け入れてくれた。

だからこれ以上望むのは、自分の器を越えた願いだと断じた。

 

「ごめんね。変なこと聞かせちゃってさ。それじゃあ私は帰るから」

「あっ──」

 

席を立ちその場を去ろうとする理那。

引き留めようとしても次の言葉が浮かばない。もはや今の彼女にはどんな言葉も届かないだろう。

 

それでも、こはねは諦めたくなかった。

その姿が昔の弱気な自分や、失敗を引っ張って進めなくなった自分に似ていたから。

それになにより、あの時聞いたアレンジは本物だった。

 

「(どうしよう、このままじゃ!)」

 

焦る思考をどうにか纏めようとして空回り。そんな時──

 

「あっ、こはねー! 今日も歌ってた……ってどうしたの?」

「杏ちゃん! えっと、理那ちゃんが、その……!」

「え? 理那?」

 

状況が理解できない杏だが、いちいち説明していれば理那が去ってしまう。

焦って互いを目で追っていると、自分が使っていたスピーカーとマイクが目に入った。

 

言葉は意味をなさない。それでも彼女達には、歌があった。

 

「──一緒に歌ってほしいの!!」

 

差し出されたマイク。ただならぬこはねの様子に杏は相棒としての役目を果たす。

2人の間にも言葉は不要だった。

 

『───♪ ──♪ ───♪』

 

それはお互いの手を取り合って進むもの。同じ夢をもって進むことを誓った曲。

立ち去ろうとする誰かに向けて、自分達の想いを伝えるために。

 

「……………」

 

2人の想いから生まれた曲だからこその力。

理那はいつしか足を止め、その歌に耳を傾けていた。

通りかかる人々もその歌声と歌詞に聞き惚れている。

 

やがて曲が終わりを告げて、杏もまた理那を見つめていた。

 

「へえ、それが2人の本当の十八番ってやつ?」

「まあね。それで理那はどうするの?」

「どうするもなにも、変わんないよ。最後にいい曲聞かせてくれてありがとう」

 

そのまま背を向けて歩き出す理那。杏もそれ以上引き留める理由はない。

しかし先ほどのこはねの様子を見るに、ただ事ではないと理解していた。

だからこそ杏は──

 

「ちょっと。私の相棒にここまでさせておいて、そのまま帰るなんて言わないよね?」

「あ、杏ちゃん……!」

 

あえて挑発的な言葉を選んだ。

隣ではこはねが大事の気配を察知してなだめている。

 

「そんな見え見えの挑発、誰が乗ると思ってるの?」

「他でもない理那だから言ってるんだよ。あの時のアレンジ、最高だったし。ね、こはね」

「う、うん! 私もとっても素敵だなって思ったよ!

 理那ちゃんのアレンジ、もっと一緒に歌ってみたいな」

「そっか、2人にはそう聞こえてたんだ。あれ」

 

ここで理那もようやくこはねが引き留めた理由を看破した。

そしてなにより、凄腕シンガーの2人にここまで言われて引き下がるDJもいない。

 

「それじゃ、もっと面白いもの見せてあげるね」

 

そういって理那は2人の元に歩み寄る。

スマホの画面にはアプリのターンテーブルが写っていた。

こはねからマイクをもらって流し始めたのは初音ミクの曲。

軽快なピアノの音に綴られるのはどこか寂しさを感じる歌詞──のはずだった。

 

「──♪ ───♪ ──♪」

「えっ……別の曲!?」

「でもリズムもテンポも……嘘、こんなのってあり!?」

 

しかし理那が歌い上げるのはまったく別の曲。

杏もこはねも歌ったことがある、巡音ルカの曲。

失恋の悲しみと孤独を歌ったものだった。

 

しかもそれだけではない。1番が歌い終われば曲と歌詞が入れ替わる。

それは、マッシュアップとよばれるもの。

歌唱力だけでは到底補えない、奇抜さと発想による見せ方。

先ほどまで杏とこはねの曲に聞き入っていた人々は、完全に理那が乗っ取っていた。

 

「どう、面白かったでしょ」

 

自慢げに微笑む理那。これでお互いの曲は披露された訳だが……

 

「あの子凄いぞ、歌はともかくこの空気、Vividsの2人に負けてねえ!」

「でもどこの子だ? 全然みたことないけど……」

「おい、Vividsに勝負挑んでるやつがいるってよ!」

 

周囲からは理那がこはねと杏に勝負を挑んでいる様に見えたらしく、

観客もすっかりその気であった。

そして今観客の空気は理那の方へと傾いている。

喧騒も大きくなり呼び水となってさらに観客を、そして他のアーティストを増やしていった。

 

「なんか予想と違う展開になっちゃったけど……ま、十分でしょ」

 

しかしそんな歓声も理那にとっては関係ないこと。

相手の想いを知っても胸の内に響くことはなかった。

こはねと杏の持ちネタは尽きた。これ以上彼女がここにとどまる理由もない。

 

「待てよ」

 

そんな人混みに響く、1人の青年の声があった。

それは理那もよく知る人物。なによりも夢を追いかける事に命を燃やす人物。

 

「彰人!? どうしてここに……今日個人練習だって」

「んなもんとっくに終わったよ。それで、なんだこの騒ぎ」

「観客いわく、斑鳩が小豆沢達に勝負を挑んだらしいが」

「あ、青柳くん……」

 

彰人と冬弥も練習を終えて一服しようとしたところでこの騒ぎを見かけた。

興味本位で覗いてみればその中心にいたのが3人であり、なにより理那を称賛する声が大きい。

冬弥が観客から聞いた情報も合わせれば、聞き捨てならない事態であった。

 

「おい、もしかして今度はVivid BAD SQUADでやりあうのか?」

 

Vivid BAD SQUADが勢揃いともなれば、期待をしない方が難しい。

観客もまた段々とその気になっていく。

 

「これだけ空気作ってておいて、そのまま帰るなんて言わないよな?」

「いや、作るもなにも、そっちが始めたことじゃん。私はただ乗っかっただけだよ」

 

今の理那には、理由もなければ意味もない。しかしその技術は最高。

自分が欲しいものを持っていながら、そんなことに興味を持たぬ少女。

それに気付いていないからこそ、彰人は心底腹が立つ。

しかしそれを必死に噛み殺し、一言だけ告げた。

 

「なら、最後まで乗ってけよ」

 

その内に秘められた闘志は、誰よりも熱かった。




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