ビビッドストリートの一角。4人の少年少女と1人の少女が向き合っている。
一方は勢いの増すVivid BAD SQUAD。一方は無名の少女。
しかしVividsが作り上げた空気をかっさらったことで、注目を浴びていた。
「なら、最後まで乗ってけよ」
彰人が告げた一言はまさに宣戦布告。Vivid BAD SQUADによるリベンジである。
「でも、もしここで私に負けたらそれこそRAD WEEKENDを越えるどころじゃないでしょ」
「そりゃ、オレ達が負ける前提で言ってんのか?」
「世の中、絶対ってことはないからねー」
しかし理那は回避策を講じる。
それは尤もな正論であったが、なによりも挑戦的に聞こえた。
理那自身もこの4人を越えられるとは到底思ってはいない。
しかしイレギュラーが発生する可能性も否めない。
外的要因による影響をなによりも重視してしまう理那なりの心配であった。
──ただ、言葉足らずな点を除けば。
「じゃあ理那は私達に勝てるって思ってるんだ?」
「そこまでは言ってないんだけどなー。こはねと青柳君はどうなのさ」
「わ、私!?」
「俺は……」
意外にも乗り気な杏に言葉を濁しつつ、冷静な2人へと話題を振る。
2人であれば相棒を止められると思ったのだろう。
「俺は、彰人の相棒だからな。彰人が歌うのなら、俺も歌う」
「私も、杏ちゃん達と一緒に歌いたい! それに、理那ちゃんにも諦めてほしくないから!」
「……ふーん、そっか」
相棒の意志を尊重するだけではない。ちゃんと自分の意志を持った上で行動している。
互いに互いを信頼した最高の相棒だった。
「じゃあ、先行は私が貰うけどいいよね」
「別にどっちでもいいぞ。オレ達に勝てるんならな」
「ははっ、でもまぁ、私1人だからって油断しないでよね」
空気を感じとり、観客の求めるものを第一に考える。
想像するのはルカのステージ。機材はなくてもやりようはいくらでもあった。
それこそ、先ほど自分がやった時のように。
「やるなら本気で。その方が楽しいでしょ?」
理那が流し始めたのはミクとルカのデュエットでは最高の知名度を誇るであろう楽曲。
特にBメロが高速であり歌唱も困難なものである。
それに最初から合わさる別の楽曲。
「(理那ってば無茶する、結構難しい曲で勝負するなんて)」
歌唱力が低い彼女にしては技量で勝負するにも限度がある。
無論ただの偶然に過ぎないのだが、それでも自分の首を閉めていることに気付いていない。
──それでも、その予想を上回るのが彼女であった。
『っ!?』
聞こえてくるのは全く別の歌姫の声。
同じマッシュアップだが、その様相はまるで違った。
要所ごとに激しく2曲が入り乱れ、お互いの強みを引き出している。
曲の最後には相対する2つの歌詞が合わさり、共鳴していた。
あえて片方を歌うことを捨てることで実現する残響。
他でもない感性による賜物だった。
曲の終わりと共に歓声が巻き起こる。それは先ほどよりもさらに上。
空気は完全に理那が物にしている。
「す、凄かったね……見てるこっちまでドキドキしちゃった……」
「ああ。曲の特徴をしっかり理解した上でそれをさらに引き立てている」
思わず称賛してしまうも、彼女の経験のなさを加味すれば相当な物であった。
しかしその程度で止まる4人ではない。
「それじゃ、こっちの番だね。なんの曲でいく?」
「ここまで盛り上げられたなら、アレでいいだろ」
彰人が提案したのは、冬弥が決心した時に生まれた楽曲。
様々な理由をつけて逃げようとする理那に対してはぴったりの物だった。
『──! ───♪ ──!』
自分の想いに気づいてもなお吹っ切れなかった想いを、確かなものに昇華させた物。
進むことに、理由などいらないのだと。
そして楽曲が終わりを告げれば今までで最高の歓声が沸き立つ。
4人だからこそ魅せられる、最高のパフォーマンスだった。
「やっぱりVivid BAD SQUADのやつらが最高だな!」
「ああ、こいつらを越えるやつなんていないだろうな」
「いやでもあの子も相当やるぞ」
「1人であそこまでやるやつなんてあいつぐらいだと思ってたが……」
空気は完全に塗り替えられ、この場はVivid BAD SQUADが納める。
しかし理那を支持する声も消え失せたわけではない。
「いやー、いい線行ったと思ったけど、やっぱりオリジナルには勝てないよね」
完敗、と言わんばかりに両手を上げる理那。しかし杏が前へと進み出る。
「なに言ってんの。理那だって相当凄かったじゃん」
「でも負けは負けだし。あーあ、私の出せる最高の持ちネタだったんだけどねー」
「なら、また挑んでこいよ。いつだって相手してやる」
「また、ね」
その言葉に、取り返しのつかない過去を思う。
それを見て、こはねは思う。
いつか立ち止まりそうになったあの日のこと。
一緒に夢を追いかけられたらと願っても、現実はそううまくいかないと思い知らされたこと。
それでも、セカイで確かに背中を押されたこと。だから──
「ここで止まるか、次の扉を開けるかどうかは、自分で決めることなんじゃないかな」
「えっ?」
──今度は自分が背中を押す番だと、そう思った。