思わぬ発言に、理那は目を丸くする。
彼女が見たのは、いつにも増して真剣な表情をするこはねの姿であった。
「理那ちゃんがどう思ってDJを始めたのかはわからないけど、
やっぱり今の、本当の想いには嘘をついてほしくないって思う。
だってそれは、理那ちゃんだけの大切な想いなんだから」
「こはね……でも」
1度ならず2度までも裏切ってしまった罪の重さを、理那が知らないわけがない。
結果として、過去の友人を変えてしまったのだからなおさらだ。
もう一度始める、と言ってくれたにも関わらず過去に囚われていた。
「グダグダ考えてんじゃねえよ。お前、バカなんだろ」
「は? なに言って──」
そんな中で彰人が口を挟む。唐突にバカにされシリアスな空気に水を指される。
反論しようとする理那に対して、彰人はさらに言葉を重ねた。
「足りない頭で考えるだけ無駄なんだよ。それなら、やりたいことやるのが一番だろ」
日頃の彼女の行いは彰人もよく知っている。
友達と下校中に寄り道したり、部活の助っ人として試合を垣見だしたり、
授業中であっても必死に別の勉強をしたり。
言葉足らずではあるが、慧眼な理那にとっては効果的だった。
「……へぇ、彰人君にしては結構まともなこと言うじゃん」
「当たり前だ。こちとら経験が違うんだよ」
「まさか杏だけじゃなくて周りの2人にまで啓蒙されるなんてねー。世界はやっぱり広いや」
「どう? 答えは見つかりそう?」
「うん、ありがとね2人とも。それに青柳君も。この前天馬先輩紹介してくれたし」
「そうか。役に立てたならなによりだ」
目を閉じて今までのことを反芻しているようだ。
ずいぶんと遠回りになってしまったが、結論は出たらしい。
「それじゃ、私はちょっと行くとこあるから」
その場から駆け出す理那に、今度こそ声をかける者はいない。
そんな彼女が向かった先は。
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「よーっすルカー! 今日も張り切ってるねー!」
セカイであった。今はまだステージの準備中でありいつもより元気な声で話しかけている。
「張り切るもなにも、いつも通りよ。ところでいつもより暑苦しいけどどうかした?」
「どうもしてないよ。強いて言うなら……本当の想いを見つけたくらいかな」
それを聞いたルカは硬直するも、すぐに立て直す。
それもそのはず、自分の与えた課題は達成されていなかった。
なにをもってしてその課題を与えたのかは、ルカしか知り得ない。
しかしその上で見つけた『本当の想い』には、セカイの住人として興味があった。
「その前にさ、ステージ立たせてくれない? 今の私の実力、知りたいからさ」
「ええ、ご自由にどうぞ」
自慢げに微笑んだ理那はステージの準備を始めるのであった。
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「よーっし、みんなしっかり付いてきてね!」
村人達が集まる中で盛り上げに徹する理那。罵声にも動じず、今自分のやりたいことを貫き通す。
そんな想いの中選び抜かれた楽曲群は。
『──♪ ────♪』
音色は洗礼された心地よい雰囲気ながら、歌詞は感傷に浸るようなものばかり。
それはルカの普段の姿を写し出しているようだった。
「なんか、今回は雰囲気違うな……」
「でも、なんでだろう。聞くのをやめられないっていうか」
盛り上がるつもりで出てきたというのに、これでは話が違う。
しかし観客は聞き入ってしまった。それは熱中ではなく夢中。
活気こそないが完全にその場は理那が制していた。
やがて楽曲が終わりを告げれば、観客は静かに自分達の住み処へと戻っていく。
「ありがとねルカ。お陰さまでいいステージになったよ」
「ええ、良いステージだったわ。じゃあ聞かせて貰おうかしら。貴女なりの答えを」
満足げに微笑む理那にルカは問いかけた。
「私はね、結局誰かの……友達のそばに居たいんだ。もう二度と裏切りたくない」
理那の持つスマホに仄かな光が宿る。
しかしそんな答えに対してルカは思った以上に辛辣だった。
「理那、貴女の言ってることはわかるわ。
でも誰かを裏切らないということは、他の誰かを裏切ることになるのよ」
「他の誰か、ね……」
不意に脳裏に写るのは過去の思い出。
まふゆと過ごした楽しい日々。そして言葉と過ごした高校生活。
前者は自分の罪であり、後者はその贖罪の代替品だ。
「それでも、過去に囚われて今を楽しめないよりずっとマシだよ」
「理那……」
「だから私はあの子の傍にいるよ。それが一番私らしくいられる場所だから。
それに過去ってものは変えられないし、消せやしない。
だから自分なりに決着をつけなきゃいけないんだ」
その言葉と共にスマホの光が強くなる。Untitledが曲に変わった証だ。
それは、決意の曲。前を向いて進むための、過去との決別。
「強いわね……貴女は本当に」
「別に? ここに至るまで長かったからそうでもないよ。さあルカ、一緒に歌おうよ」
理那はルカの手をとる。共に奏でられる曲はセカイに響き渡り、
一瞬地平線に日の光が差した──ような気がした。
その光に照らされ理那は自身の色彩を取り戻す。
しかし曲の終わりと共にそれは消えてなくなってしまう。
「朝日が拝めるって思ったんだけどなー。うまくいかないか」
「そうね。貴女だけの変化ではそうそう変わらないわ。それでも、確かな変化よ」
ルカも普段と違ってどこか晴れやかな表情を浮かべていた。
するとどこからともなく拍手が聞こえてくる。それは村の住人達だった。
「今までで最高のステージだったぞ!」
「ええ、そこの貴女もよかったわ!」
その声はどんどん広がっていき、村全体を包み込んでいく。
それはルカのステージとは違い、満足に満ちた物。
そんな歓声に紛れて、ルカがひとつ呟いた。
「まさか、本当に沸かせてみせるなんてね」
「でもノーカンじゃない? だってルカと一緒だったし」
「あら、私は別に『1人で』だなんて言ってないわよ?」
「いや、言ってないけどさ。なんかこう、違うじゃん?」
ルカの顔は笑っていた。まるで成長を見届けた親のように。
それでも理那は首を横に振る。どうやらまだ満足していないようだった。
「ならこうしましょう。次の街の人達を沸かせられたら、でどうかしら」
「次の街って、ここ人達は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。私のエゴで縛るのもおしまい。それに、救ってばかりでは成長出来ないでしょう?」
今までのルカらしからぬ発言だった。
セカイよりもルカが変わったかと錯覚してしまうほど。
想いを導く存在であるなら、その言葉は本心によるものだろう。
あまりに巧妙な手のひら返しに理那が納得いかない様子で悩んでいると、クラクションが鳴り響いた。
運転席には窓から顔を出したルカがハンドルを握っている。
どうやら悩んでいる内に移動したらしい。
「ほら、早くしないと置いてくわよ」
「あー! ちょっ、それひどくない!?」
「悩むくらいなら進むって決めたんでしょう? そんな事じゃ友達に笑われるわね」
「それとこれは話が別でしょー!?」
こうして2人は村を後にし、宛のない荒野をいくこととなる。
その先になにがあるか、理那はまだ知らない。