荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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2022/01/27のまふゆ誕生日記念話です。
当然ですがオリキャラが出てきます。


閑話 一人一人の孤独

 朝比奈まふゆの誕生日。去年に比べて知り合いも増え祝ってくれる人数も増えたことでいつも以上に笑顔を振り撒く彼女。未だ優等生の仮面の内を真に知る者はその中におらず、輪の外側こそが本当の彼女を出せる場所であった。

 

 それでも、今までのように心が動かない訳ではない。家族からとは違う善意による贈り物の数々は、手放すことを惜しませる。結果として母親からの印象操作染みた助言は聞き流しつつ、全てを抱えたまま自室へとたどり着いた。

 

 優等生の仮面を外し、どこに繋がるかもわからない勉強に時間が取られる。学生の身分だからといえば当然だが絶対ではない。成果は成績で現れるだけであり、A3サイズの白と黒の模様が自分自身の評価ではないことなど既に彼女は知っていた。

 

 それでも周りの為にただ取り組むだけ。外の景色が見えたとて、阻む扉の開け方すら知らない少女に取れる選択肢は現状維持。しかし、そんな自分でも救ってくれる誰かがいるだけで心が軽いのは決して錯覚ではなかった。

 

「まふゆ、荷物が届いているわよー」

「はーい、今行くね」

 

 階段の下から聞こえる上機嫌な母親の声を合図に仮面を被り、勉強を切り上げる。荷物と言われても自分の身に覚えがない。ただ母親が上機嫌に伝えてくるということは、恐らく自分の為に()()()()物だろう。ならば早めに片付けてしまうに限る。

 

 今晩は、他でもないニーゴのメンバーが祝ってくれるらしい。それまでにやるべきことはすべて終わらせておきたかった。リビングの机にあったのは小さい段ボール。封は既に解かれており、隣にはそこそこの厚さを持った医学書が鎮座している。

 

「穣太郎さんからの誕生日プレゼントよ。なんでも学生時代によく読まれた医学書らしいわ。あの人のおすすめなら間違いないわね」

 

 まふゆの同意もなく開封した本人は、何事もなかったかのようにその表紙を見つめ中身を称賛していた。朝出る時には友達からの贈り物を『受け取らなくていい』と念押ししていたのにこの態度である。つまるところ、母親の()()に合格したということだ。

 

 穣太郎、というのは父親と母親が尊敬している知り合いの外科医の事だ。近所に住んでいることから昔は交流があったものの、今はとある理由で家に赴くことは許されていない。厳密に言えばその娘が原因であるのだが。

 

「……わあ、嬉しいな。すぐ読ませてもらうね」

 

 だからこそ、まふゆ自身もそこまで気に止めることもなかった。『どうして今なんだろう』という疑問も『誕生日だからそういうこともある』という適当な理由で一掃されてしまう。こじつけに近い風習とも取れるイベントに多少の嫌気を覚えながら、本を部屋へと持ち帰った。

 

「(後で内容聞かれるだろうから、数ページくらい読んでおこう)」

 

 扉が閉まると同時に思考はいつものソレに戻る。夕飯の時にでも内容を聞かれるだろう、と予測を立てて本を開けば間に挟まっていた紙が溢れ落ちた。

 

「なんだろう……手紙?」

 

 白紙の上に書かれていたのは筆記体と見間違えるほどにまで崩れた英文。『Happy Birthday Mafuyu』と書かれた下にはURLと思わしき文字列もあった。これを書いた人物をまふゆは知っている。ズボラで、自由人で、面白そうだと思うことには全力で取り組むかつての友人。文字が体を表すように彼女の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「……理那」

 

 彼女とはあのライブ&カフェバーで別れた以来会っていない。あれからまふゆ自身が赴くこともなかったからだ。道を違えた者同士当然の末路だが、どうやら誕生日くらいは覚えていたらしい。

 

 以前のまふゆならすぐにゴミ箱行きであろうが、ほんの気まぐれでパソコンを立ち上げURLを打ち込む。祝ってくれることには代わりないのだから、せめてこの先に何があるか見てから決めようと。その意思と共に現れたのはシークバーと再生ボタンであり、どうやらネットに上がっている音声ファイルのようだ。躊躇なく再生ボタンを押す。

 

 流れ始めたのは音数の少ないしっとりとした電子音。宇宙に取り残された方舟の様に思えるメロディーにメッセージ性の高い英語の歌詞。本来の彼女の様子とはまるで違う曲に活かされている。むしろこれが今の自分なのだと表現するように歌詞が紡がれていた。

 

 まふゆが優等生であるために培ってきた力の中には、当然英会話が存在する。そして会話というのだからその意味は手に取るように解った。やがて曲が終盤に差し掛かったところで、ノイズと共に歌が途切れてしまう。

 

「……………」

 

 何かの演出かと思い待ってみるもシークバーは既に動きを止めていた。長い沈黙の後何もないのだと理解したところで、空虚な何かが押し寄せる。未完成という事実への怒りか、不備に対する諦めか、まふゆにはわからない。

 

 気付いた時にはペンを取り、ノートも医学書も押し退けて電子ピアノへと手が伸びていた。それは彼女の作詞風景と同じではあるものの、そこから紡がれる歌詞はいつもと違う『何か』であった。

 

 

 

 日も完全に落ち込み、かつての友人であった少女は自室で変わらずDJの勉強に勤しんでいた。

 

「そういえばまふゆ、聞いてくれたかな」

 

 その人物こそあの医学書の送り主であり、手紙を仕込んだ本人であり、URLの曲を歌った歌い手──斑鳩理那であった。本人の名前は一切出さず、父親の名前を借り医学書を送りつけることでまふゆの母親という検閲を逃れる術は、本人が考えたにしては妙案である。

 

 いつか父親に言われるだろうが送り出すという目的は果たせた為あまり気にすることではなかった。問題は本人が手紙を受け取りその先にたどり着いたかである。

 

「まあ、どうとでもなるでしょ」

 

 考えても仕方ないと参考書へと目を落とすと、スマホの通知が鳴る。送り主すら確認せずに開いたその先には、短いメッセージと共にとある音声ファイルが添付されていた。

 

Thank you waiting for such a long time

 

 それは自分を知らない少女からの感謝の言葉と歌。ノイズの先には彼女が考えたであろう歌詞が、本人によって紡がれていた。

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