荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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全8話構成。先月末にとったアンケ話です。


外伝 幕間の物語2
鶴音さんちのクッキングパーティー その1


 

 

春から夏にかけての季節の変わり目。

涼しげな夜風を窓から取り込みながらも、言葉はパソコンに向かっている。

スピーカーからは千紗都の声が響いていた。

 

『時に審判者よ。ひとつ尋ねたいことがあるのだが……』

『はい、なんでしょう』

 

今日も千紗都はゲームに勤しんでいる。

普段ならば他愛ない雑談で時間を潰すのが日常であった。

しかし今回はかなり思い詰めたようなトーンで話している。

これには言葉も少しばかり真剣に耳を傾けた。

 

『料理を嗜んではいないか?』

『料理……ですか?』

『そうだ。料理、調理、食品加工だ』

 

意味は通じているが意外な質問に思わず聞き返してしまう。

それは千紗都も理解しているらしく言葉を続けた。

 

『突飛な話で申し訳ない。これには少々事情があってな』

 

彼女が語るには、

これまでカップ麺やファーストフードと言ったジャンクでなんとかなっていたが、

その期間が長すぎたらしく舌が受け付けなくなったらしい。

今はパスタや冷凍うどんなどの麺類で誤魔化しているが、

これからの季節というもの暑さが増し食欲に影響が出てくる。

そうめんなどでは味に代わり映えがなく、外食をしようにもお金がかかる。

そういった事から自分の料理のラインナップを増やそうとしたものの、

いざ何から始めていいかわからず今に至るらしい。

 

『でもそれなら料理本や調理番組で足りるのでは?』

『たわけ、もう試したが内容がアバウトすぎてよくわからんわ』

 

本や動画を見ながらの調理というのは案外と難易度が高く、

その上で少々、や耳たぶくらいの固さ、さっと炒める、などの曖昧な表現が多用されている。

千紗都にとってそれが気にくわないらしく挫折したらしい。

 

『ならばこれはもう、審判者に願い出るしかないと思ったわけだ』

『なるほど、事情はわかりましたが……私は料理をしないので……』

『ふむ……そうか。ならば諦めるしかあるまい』

 

返答に肩を落とす。

彼女の知り合いなど皆無であり、唯一の頼みの綱は言葉だけ。

断罪したあとはある意味良好な関係を築いているといえる。

 

『やはり料理本に頼るしかあるまいか。すまない審判者、変なことを聞いたな』

『ああいえ、そんなことは……』

 

ここで会話が終わってしまうのは、断っただけで終わるのは言葉としても忍びなかった。

それもそのはず、彼女のお陰で理那と向き直れたとも言える。

その恩を今だ返せずにいた。

 

「言葉ちゃーん、ご飯よー」

 

そんな中で階段下から声がかかる。言葉の叔母だ。

言葉は断りを入れて一旦マイクをミュートにし、食卓へと降りる。

そこには待ちかねた様子の妹、文が並べられた料理を見つめていた。

 

「ねえねえお姉ちゃん、今日はわたしも手伝ったんだよー」

「そうなの? あっ……ふふ、これかな?」

 

天津飯に中華スープ、焼売などの蒸された点心が数種類。そこには甘いものも含まれる。

その点心の中に形がいびつなものが含まれていた。

 

「むー、笑わないでよー! それに味はピカ一なんだから!」

「わかってる。じゃあこれは私がもらおうかな?」

「やったー!」

「はいはい文ちゃん、お話もいいけどせっかくの料理が冷めちゃうわ」

「そうですよ。では、揃ったところでいただきましょう」

 

「「「いただきます」」」「いただきまーす!」

 

食事を告げる挨拶と共に、それぞれが箸や匙を取り食べ進めていく。

今ではもう慣れてしまっているが、その味足るやお店も顔負けのレベルである。

それこそ理那や瑞希が称賛するほどに。

 

「ハフハフ……おいしー!」

 

文も感嘆の音をあげる。そんな光景を見てふと案が舞い降り

る。

 

「そういえば叔母さん、料理教室の先生やってるんだよね。

 それってお願いしたら友達とかにも教えてくれたりする?」

「ええ、むしろ言葉ちゃんや文ちゃんのお友達なら大歓迎よ。あなたはどう?」

「私としてもお2人のご友人であれば構いません。ただ私の部屋だけはご遠慮したいですが」

「それは大丈夫。今学生さん向けの指導も考えていたところだから、いつもの場所を使うわ。

 といっても初挑戦だからできれば2人のお友達から、と思うんだけど……どうかしら?」

 

話を聞くに、叔母の料理教室は主婦や自営業を営む大人向けらしい。

バレンタインやクリスマスといったイベントがある際はそうでもないが、

今彼女の構想にあるのは学生などの若者を対象とした初歩的な指導。

 

言葉にとってそれはまさしく天啓であった。

 

「それなら、ちょっと教えてほしい人がいるんだ」

「皆とお料理なんてすっごく楽しそう! 任せて叔母さん!」

 

普段から友の話を聞かない2人だからか、意外な返事に叔父と叔母は微笑むのであった。

 

 

 

というわけで早速言葉は晩御飯を終え、千紗都にその旨を伝えたところ。

 

『確かに良いアイディアだ。まさに天啓といい』

『なら』

『──だが、我がその恩恵に預かることはできない』

 

返答は否であった。

肯定してからの拒否であるため、話を聞いていないわけではない。

 

『あの、それはどうして』

『それは当然、我が雲雀家の人間だからだ。

 審判者に裁きをもらったとはいえ、その関係者が許したわけでもあるまい』

 

あまりに現実的な回答。

それは世間体からの批判を受けあり方がねじ曲がった彼女だからこそ言えること。

 

『なに、考えすぎと言われればそれまでの事よ。

 ここは我らが元居た地より遥か東方。悲劇の記憶も世間からすればもはや朧気。

 だがな、警戒するに越したことはない』

 

叔父と叔母はそういう風には思っていない、と言っても、

気休めにならないのだと、言葉の裏で語っているようで。

もはやこれは当人達の問題を越えていると気付くには、さほど時間はかからなかった。

 

『特に強者を、権力者を、天才を蹴落とすのであれば、

 血眼になってアラ探しをする連中もいるものだ』

『あの、それは一体どういう……』

『おっと話しすぎたな。審判者相手では口が軽くなってかなわん』

 

ふと千紗都がこぼした文句を思わず聞き返すも、正気に戻った為かごまかされてしまう。

仕切り直しと言わんばかりに彼女は口を開いた。

 

『とにかく、貴様が料理を嗜まないのであればその叔母から伝授されるがいい。

 そして我に教えるのだ。それで万事解決だろう!』

『はあ……わかりました』

 

いまいち事情を聞き出せぬまま、その後進展もなく会話は終了する。

ベッドの上で横になり、考えることはひとつ。

 

「……アテがなくなっちゃったな」

 

千紗都の為でありながら、当の本人がいない。

しかし先に叔母の願いを聞き入れたことにかわりなく、代役を見繕わなければならない。

理那辺りでも誘ってみようか、と考えたところで改めてお風呂へと向かうのであった。

 

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