翌日のお昼休み。
同じ教室で昼食をとる理那に、料理教室の話を持ちかけていた。
「──というわけなんだけど、どうかな」
「別にいいよ?」
「えっ」
二つ返事だった。
あまりに早すぎる返答の為ちゃんと話の内容を理解しているかすら気になるほどに。
「えっと、大丈夫? もう一回説明しようか?」
「いや、大体わかったから大丈夫。
まあ普通なら料理とか興味ないし、断ってたかもしれないけど……」
そう言いつつおもむろに言葉の弁当へと手を伸ばし、を摘まんだ。
「参加したらこれよりもっと美味しいもの食べられるかもだしさ、安いもんでしょ」
「あっ、また」
「いいじゃん減るもんでもないし」
「いや、私の食べる量が実際に減ってるんだけど……」
「じゃあ私のカレーパンと交換で」
理那らしい実を取る考えであり、そこでようやく納得のいく言葉。
一方的な押し付けは交換ではない、と思いつつもカレーパンを受け取る。
こうなっては理那と瑞希にあげる分を見越して弁当の量を増やしてもらおう、とも。
「……そういえば、暁山さん最近来ないな」
「ん? 学校に来てないって話?」
「ううん、廊下で見かけることもあるから学校には来てはいるんだけど、
前みたいに一緒にお昼食べたりしてないなって」
そう言って以前瑞希本人が話していたことを思い出す。
一度はこの弁当をつまむ為に学校に来ている、との事だったが、
最近は学校で姿を見かけても話しかけてくることはなく、昼休みに2人の元へ現れることはなかった。
「なにかあったのかな」
「まあ、あったにしても意図的に距離とられてるんならやめといた方がいいよ。
下手に関わろうとしたら拒絶されちゃうかもだし」
「確かにそうだね」
理那の助言を受けつつ、それに同意する。
今だ言葉は能動的に応援したり誰かの背を押したりはしない。
ただ普通に過ごし、戻ってきた時に出迎えるだけ。当たり前の日常に彼女はいつも存在していた。
ふと理那は教室の外へと視線を向ける。
そこにはこちらをこっそりと覗く瑞希の姿があった。
ちょうど言葉からは死角となっており、気付いていない様子。
不意に視線がぶつかり、瑞希はそそくさとその場を後にする。
「(確かになにかあったっぽいね。迷ってるっていうか。
ってまあ、私が言えたことじゃないけどさ)」
割りきるというあっけない結末を迎えたものの、かつては優柔不断な面が目立っていた理那。
自分の場合は言葉がいてくれたからこそ、乗り越えることができた。
「(まあ、私が出る幕はないでしょ。ぽっと出の知り合いが首突っ込むわけにもいかないしね)」
「理那、どうしたの。ぼーっとして」
「ううん何でもない。それよりはやくお昼食べよ」
言葉の心配を軽くいなした理那はそう割りきり、少しだけ静かな昼休みを過ごすのだった。
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なんとか1人確保出来たものの、料理教室で教えるには心もとなさ過ぎる。
スマホの連絡先を眺めつつ、
料理に興味のありそうな人物を探してみるも、そういった趣味がある人がいるとは思えない。
文からも連絡があり、色々誘ってはいるもののあまり人数は誘えていないらしい。
「うーん……」
自分の顔の狭さが情けなく思える言葉。そんな彼女に対し理那が歩み寄ってくる。
「どうしたのさ言葉。もしかしてお昼のアテの話?」
「うん。文が色々声かけてくれてるみたいだけど、あんまり言い返事がもらえないみたいで」
「ふーんそっか。なら……」
ふと教室を見渡す理那は、ふと荷物をまとめていた彰人へと狙いを定める。
「彰人君ー! ちょっといい?」
「げっ」
「ちょっとー、クラスメイトが話しかけてるのにその返事はないでしょ」
「いや、他ならともかくお前は厄介事しか持ち込まないだろ……」
最近の理那の態度から色々とわかることもあったが、
それでも厄介事を持ち込むことにはかわりない。
特に言葉絡みであれば多少無茶するのが理那という人間。
それに巻き込まれるなど彰人にとってごめんであった。
「まーまー、話を聞くだけならタダだしいいでしょ。
実は言葉の叔母さんが料理教室やるんだけどさー──」
強引な彼女らしく話を進めていく。
一方の彰人は荷物をまとめながら軽く聞き流していた。
「って訳なんだけど、どう?」
「興味ねえ。というか別にオレ以外にも杏とか暁山を誘えばいいだろ」
「あー、杏はお店の手伝いあるらしいんだよね。瑞希は最近忙しそうだしさ。
ちなみに青柳君も誘ってみたけど家の事情で無理だって」
「だからってオレを誘うこた無いだろ。それじゃあな」
「あっ、ちょっと! ……行っちゃった」
引き留めようとするもそれは叶わず、鞄を背負い足早に去っていく。
「ごめんね言葉ー、フラれちゃった」
「気にしないで。でもどうして東雲君に声をかけたの?」
「杏に断られちゃったからさ、その穴埋め的な? ほら、もしかしたらってこともあるし」
どうやら理那なりに考えてはいるようだが、その後が完全に当てずっぽう。
若干の期待を寄せたことに反省しつつ、言葉も帰路につくのであった。