一方その頃、所変わって教室のセカイにて。
すれ違いを乗り越え、プロを目指すと決めたLeo/needの面々は、今日も練習に打ち込んでいた。
「うん、皆随分上手くなったね」
「ありがとうミク。でも、もっと頑張らないと」
「そうだよね。じゃあ、もう一回……!」
「待って」
練習に付き合っていたミクの労いの言葉に一歌が感謝する。
しかしプロという道を目指すのには、まだまだ実力不足なのはわかりきっていた。
咲希が練習を再開しようとしたとき、制止の声がかけられる。
それは他でもない志歩からであった。
「頑張りすぎても逆に体壊すだけだから。的確な休憩をとるのもプロへの近道だよ」
「ひゃっ! 冷たい……!」
そういって冷えたペットボトルを咲希のおでこに当てる。
その冷たさに驚き、シンセから手を離した。
「志歩のいう通り、ちょっと休憩しましょう。
セカイは過ごしやすいけど、戻ったら急に暑いなんてこともあるだろうから」
「あ、そうですよね。ここだとすっごく演奏しやすいから忘れちゃってた」
セカイはどうしてか季節の影響を受けず、
とても過ごしやすい環境で練習に打ち込むことが出来る。
しかしそこで疲れはて、現実に戻った際の気温さは体にとって毒である。
ルカの提案で穂波もそれに気付きつつ、Leo/needの面々は休憩することにした。
「あれ、文ちゃんから連絡が入ってる。なんだろ……?」
ふと咲希がスマホを確認すると、文から何かの通知が飛んできていた。
時折連絡をしているものの、最近は音沙汰がなかったためすぐに目を通す。
それは料理教室へのお誘いだった。
「ねえねえ皆、これみて!」
「えっと、『料理教室に参加してみませんか?』?」
「文ちゃんの叔母さんがお料理教室の先生やってるみたいで、
今度の休みに学生さん向けの教室やるみたいなんだ。
文ちゃんは用事があるからいけないらしいんだけど、もしよかったらって」
「皆でお料理なんて楽しそう! あ、でもこの日は……」
咲希のスマホに写し出されているのは、様々な料理の数々。
料理に人一倍関心のある穂波は興味を示していた。
しかしあいにく、その日は家事代行の日である。
「そっか、それなら仕方ないね……」
「私もその日バイトだから。……せっかくだし2人で行ってきたら?」
「えっ? いいの?」
「練習も大事だけど、久しぶりの文のお誘いなんでしょ。
まあ、肝心の本人はいけないみたいだけど」
志歩からの意外な提案に目を丸くする2人。
プロになる、といった手前練習が厳しくなっているのは事実だが、
志歩から休息を提案するのは珍しいことにかわりない。
「ふふ、志歩も随分丸くなったね」
「そうじゃないって。……ただ、この前みたいにまた無理させて体調崩したら……」
ミクの含んだ言い方に首を横に振って答える。
以前、といっても随分前になるが、4人で展望台に星を見に行こうとしたことがあった。
その時は咲希の無理がたたり、体調を崩してしまうのだが、
それは志歩にとっても大きな心残りとなっていた。
「志歩ちゃん……! ありがとー!」
「ちょっ、また抱きついて!? お姉ちゃんじゃないんだから離れて!」
「えへへ、だって嬉しいんだもん♪」
感無量、と言わんばかりに抱きつく咲希にたじたじな志歩。
心なしか最近スキンシップが激しくなっているように思えた。
なんとか引き剥がせば、微笑む姿がそこにあった。
「それに、無理しないっていうのはあの時からアタシも変わってないよ。だから大丈夫!」
「そう。……ならよかった」
「ふふ、やっぱり志歩ちゃん、優しいね」
「うん。咲希の事になると特別、かな?」
「2人とも聞こえてる。とにかく、行くなら早く連絡しないとあっちも困るでしょ」
「わわ、そうだった!」
慌ててスマホを操作する咲希を見つめつつ、
話題は次第に料理教室の内容へと戻っていく。
「あ、作るメニューも募集してるから、好きな物も一緒に教えてください、だって。
じゃあ私はお菓子で……いっちゃんは焼きそばパンだよーっと」
「手作りの焼きそばパン……あれって料理っていうのかな?」
「アレンジ次第ならちゃんと料理だと思うけど……」
「まあ、料理教室で選ばれることはないかもね」
「そう、だよね」
購買では1位、2位を争うほどの人気商品だが、実際に作るかと言われればそうでもない。
ましてや自分達以外が参加するのであれば、作り甲斐にかけるだろう。
「あ、そうだ! もし美味しく出来たら皆にも食べさせてあげるね。
もちろんミクちゃんも、ルカさんも、メイコさんも!」
「あら、それは嬉しいわね」
「じゃあ私も楽しみにさせてもらおっかな」
「でもそれだと、随分多くなっちゃうんじゃ」
「大丈夫! アタシといっちゃんの2人で、家族にもーってお願いすればいいんだよ」
その辺りはしっかり……というよりちゃっかりしている咲希である。
でも実際の所一歌も自分の作った料理を皆に、ミクに振る舞ってみたい気持ちがあった。
「あ、でもミク達は食べても大丈夫なの?」
「問題ないよ。まあ栄養になる、ってことはないけどね」
「それじゃあどれだけ食べても太らないってこと?」
「そうだね。その代わりお腹も減らないんだけど」
一歌と咲希の質問にミクとメイコが答える。
そんな発言からやはりバーチャル・シンガーは人と違うことを想い知る4人。
しかしその中でも羨ましがる少女が1人。
「それってつまり、どんなに食べても太らないってことだよね……いいなぁ」
「穂波。羨ましがる所、そこじゃないでしょ」
食べること、特に好物のアップルパイに関しては限度を知らない彼女だが、
当然お腹回りは気になるというもの。
なんとか自重しようにもその辺りの意思が弱いのは相変わらずであった。
「でもせっかく作ってくるなら美味しいもの、作ってきてよね」
「う……が、頑張りまーす」
「そ、そんなに期待しないでね……?」
そしてまたいつものように、適度な期待を背負わされながらも、2人は料理教室へと望むのであった。