晩御飯は目に見えて豪勢だった。それこそ一足も二足も早いクリスマスのように。
叔母さん曰く興が乗った、とのことらしいがきっとお見通しなんだろう。
久々に四人そろって囲んだ食卓に話題は尽きず、特に私の演奏に関することが多かった。
そんな時間も終わりを告げ、部屋に戻ってきた時スマホが光っていた。
画面にはKAITOが映っている。
『いい顔をするようになったね、言葉』
「KAITO、ありがとう。……今からそっちに行きたいんだけどいいかな」
『いつでもおいで。ここは君のセカイなんだから』
その言葉を聞いてクローゼットを開き楽器ケースを取り出す。
今日はもうちょっとだけ騒がしくなりそうだ。
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コートを着込んで雪原広がるセカイに降り立つ。吹雪は既に止んでいて雪も降っていない。
丘にはKAITOが作ったと思われるかまくらが残っており、枯れ木と共に新たな目印となっていた。
そして何よりも私の降りた場所から丘に向かう為に雪かきされた道が出来ている。
恐らく吹雪が止んだ後にMEIKOとKAITOが作ってくれたんだろう。
そこそこ覚悟をしてきた分拍子抜けしてしまうが楽なのはいいことだ。
かまくらの入り口を覗き込むも二人の姿はどこにもない。町の方へとかり出しているのだろうか。
かじかんだ指を自分の息で温めて、ケースからバグパイプを取り出す。
フルートの音色は妹に聞かせたから、それと同じことをしても味気ないと思った上に、
MEIKOとKAITOには別の恩があるからこそまた違った私の音を聞かせてあげたかった。
あの時のように誰かが聞いてくれるわけではないだろうけど、
久々だったために居ないなら今のうちに練習しておきたかった。
息を吹き込めばケルト音楽で聞きなれた音色が響き渡る。
フルートとは勝手が全く違う物の、
ただ音色が好きだったからという理由で両親にせがんで買ってもらったもの。
このこともあり二人が生きている頃はあらゆる笛の音が絶えず流れていた。
一曲演奏を終えた頃には傍に寄り添う二人の影がこちらの様子を伺っている。
「MEIKO、KAITO、お帰り」
「あらあら、こちらが出迎える側なのに出迎えられちゃったわね」
「呼び出しておいて毎回遅れてごめん、言葉」
「別に呼び出されたわけじゃないから気にしてないよ。
それより二人には聞いていってほしいの。今の私の音色を」
そんな私のわがままに対して満足げな表情で首を縦に振る。
二人に出会ってから紆余曲折はあったけれど私はここまで来ることが出来た。
感謝してもしきれない。それでもこの音色で答えを伝えたかった。迷いのないこの音で。
「なるほど、これが言葉の答えなんだね」
演奏を終えてからKAITOが口を開く。それに対して私は満面の笑みを浮かべた。
「そう。私はこれからもずっと私の音を奏で続けていきたい。これが私の本当の想いだよ」
「やっと見つけられたのね。貴女の本当の想いが」
両親への想いが失われたわけではない。その熱を糧にして新しい想いにつなぐ。
過去は変えられないけれど、思い方一つで希望にも絶望にもなる。
あの日に囚われた自分とはもうさよならをして、今を歩き出していこう。この音色と共に。
その想いに呼応して、スマホが輝きだす。
「スマホがセカイで光ってる……?」
「言葉の本当の想いが歌になろうとしているんだ」
「よかったら私達にも歌わせてくれないかしら?」
「うん。私なんかの歌でよかったら、いくらでも」
この時のために彼女達は頑張ってきたんだ。それくらい安いもので。
心の赴くままに音色を響かせる。
それは鈍色の空に隙間を作り、日の光が大地に降り注がせ雪原の雪を溶かす。
丘の下に見える街へ吹き抜けた一陣の風が鐘を鳴らし、誰もいないというのに生活の火が灯る。
まるで私達の訪れを祝福しているようだった。
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三人で奏でた歌も終わりをつげ、スマホの光も小さくなっていた。
そこに映し出されていたのはUntitledが変化したもの。
「────って言う曲だったんだ」
振り返ると桜の木の下に一つの小さな石碑が立っていた。
それには私の家族の思い出が刻まれていて、古い想いの象徴だという事はすぐに分かった。
「やっぱり大切なことは覚えておきたいから、こんな形でも残しておかなきゃね」
たとえそれを解ってくれる人が居なくても、こうして刻まれている限り忘れはしない。
古い想いの熱を新しい想いの力に変えて、今を生きていく為に。
「ありがとうMEIKO、KAITO。これでなんとかなりそう」
「こちらこそいい歌を歌わせてくれてありがとう」
「また何かあればセカイにいらっしゃい。私達はここで待っているから」
「はい。その時はまたお邪魔しますね」
二人に見送られながら私は現実へと帰る。これからも何かあれば頼らせてもらおう。
寧ろ頼っていこう。三人で道を見つけていく為に。
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言葉がセカイを去った後、MEIKOとKAITOは丘の上から石造りの街を見下ろしていた。
「まさかこの荒野だけじゃなくて街にまで歌が響くなんてね」
「あの街に言葉は行かなかったものね。
それでも活気を与えたってことはそれだけ大事な場所ってことじゃない?」
一度として訪れなかったあの街には人の気配はなく、
KAITOは何度もその雑貨屋でお世話になっていた。
それでも歌が響いている間は確かに街そのものが喜ぶように灯りがともっていた。
存在するが到達したことのない場所。それが何を意味するのかまだ二人には分からなかった。
石碑のうた/hinayukki 仕事してP